外銀マンを見下す20歳“港区女子”が、自分に絶望している理由

外銀マンを見下す20歳“港区女子”が、自分に絶望している理由

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 ライター、合コンコンサルタントとして活躍中のマドカ・ジャスミンさん。そんな彼女が、夜な夜な東京で目撃した男女の人間模様をドキュメンタリー形式で綴ります。

 第3回目は、前回、外資系銀行マンとの合コンで手痛い失敗をした、20歳の女子大生アイちゃん(仮名)のお話の続き。六本木のとあるホテルのラウンジで、一緒に合コンに行ったユリカちゃんと、あの日の出来事について語っているところからスタートします。

◆完璧に美しいユリカ、20歳

「まあでもほら、次もガイギンと合コン組めるんだからオッケーってことで」

 そう言って、愉快そうにフフッっとユリカは笑った。丁寧にネイルを施された爪が目立つ指は、白くか細い。私は思わず強い口調で切り返した。

「でもさ! ガンガンに酔わせてほぼ記憶もない状況でホテル、しかもラブホだなんて有り得なくない?!」

「若い男の人の狭くて片づけられてないおうちなんて論外だし、逆に高いホテルだったら今頃、“記憶がおぼろげな時に連れてくな! もったいない! ってアイは叫んでるところね」

 自分でもその様子は思い浮かべることができた。コトンと丁寧にカップを置いたユリカは、「どれにしようかなぁ」と宝石のようなお菓子たちの前で指をくるくると動かす。

 ふんわりと巻かれた深い栗色の髪、白い肌、元々整っている顔にはいやらしくない化粧が施され、花柄のワンピースはどこかの雑誌で取り上げられていたものに見えた。横に置いてある鞄と、足元を彩る靴はInstagramでよく見るハイブランド。そう、ユリカは完璧だ。頭から足の先まで完璧なのだ。

「その通りです……」

「ね、やっぱりそうでしょ」

 口に運んだチョコレートの半分を口にし、ユリカはニコっと笑った。このいたずらっ子のような笑顔で何人の男を落としてきたのか。男女共々から蝶よ花よと崇められている子が、どうして私みたいな平凡な“ショシンシャ”と仲良くしてくれるのだろうか。

◆10歳近く上の外銀マンを「まあ、若い男って感じ」

「んで、あの中の一人と帰ったユリカはどーだったのよ」

「まあ、若い男って感じ」

「以上かな」と、彼女は口角をほんのちょっと、本当にちょっと上げた。その瞬間、相手のガイギンに同情せざるを得なかった。

 きっとユリカはもうその男の顔や名前、パーソナルデータはおろか、連絡先も全削除しているだろう。

「あの日限り……?」

「ううん、あの日は送ってもらって後日、ご飯行ったよ」

「どこだったの?」

「ヒルズのリゴレット」

 その男にさらに同情した。きっと彼からしたら、【六本木・雰囲気いい・カッチリしすぎてない・おしゃれ・手頃・メニューが豊富・相手が20歳】などさまざまな要素を考慮してリゴレットにしたんだと思う。

 けれど、ユリカが相手ではバッドチョイス以外の何ものでもなかった。

「なんで初デートであんなにうるさいところへ連れてくんだろうね。六本木で待ち合わせして、タクシーに乗らずヒルズに向かったと思ったら案の定でした」

 今度は赤紫のマカロンを半分口にし、こう続けた。

「若い人に期待した私も悪かったし、これもまた“シャカイベンキョー”」

 若いといっても、あの男はユリカより10歳近く年上で、しかも世間的に見れば、誰もが羨むスペックの持ち主だ。きっと結婚適齢期の女からしたら、喉から手が出るほどほしい人材だろう。そんなダイヤモンドですら、彼女にとっては河川敷の石ころ、いや、砂利以下の存在でしかない。

「しかもね、金曜日なのに予約してなかったの。ほんとね、“ガクセー”相手に見栄張って遊びたいなら、ちゃんと見栄張ってほしいよね」

 ほんの一瞬、人を殺せそうなぐらい冷たくなった彼女の目を私は見逃さなかった。すぐにいつものニコニコとした顔に戻り、新作コスメがどーのこーのと、話し始める。

「ねえ、ユリカ」

「なぁに?」

「なんでユリカは、私みたいな大学二年生デビューと仲良くしてくれるの?」

 いつも抱えている疑問がぽろっと口から零れた。ユリカは一瞬キョトンとしたあと、口に手を当てて笑った。

「なにそれ、変なの。アイって本当に面白いね」

「え、ごめん」

「謝るのもおかしいって」

「そう……だよね」

◆プラチナカードを渡してくれたのは「親じゃないよ」

 自分の言葉に急に恥ずかしくなり、彼女を直視できず思わず下を向く。すると、両頬に柔らかな細い何かが触れた。何かと思い、顔を上げればドアップの彼女がそこにいる。

「私は、アイが綺麗で好きなの」

 耳を疑うその言葉を私の脳は即座に処理できない。

「ユリカのほうが――」

「今はまだ分からなくていいよ」

 そう微笑み、ウェイターを呼ぶ。時計を見れば、今日の集合時間まで30分ほど。ユリカは長財布から銀色に光るカードを取り出すと、サッとウェイターに渡す。

「お化粧室に行ってタクシー拾お」

「そうだね! あ、お会計いくらだった?」

 戻ってきたウェイターからカードを受け取ると、こちらを見向きもしないまま鞄を片手にゆっくりと立ち上がった。

「いいの。私が払いたいから」

 そう言って、彼女は手を差し出してきた。その白くて折れてしまいそうな手を取り、ラウンジを後にした。何人かからちらりと送られた視線が少し恥ずかしい。

「そういえばさ――」

 恥ずかしさを少しでも消そうと、何も意味がない言葉を彼女に投げた。

「カードいいなー。私もパパからもらいたい」

「勝手に持たされただけよ。父親からではないけど」

「え?」

 いつもより少し早めの言葉は聞き取りづらく、思わず聞き返してしまいそうだったけどそれはしなかった。いや、できなかった。

 問いの瞬間、手を握るユリカの手がこわばったのは、きっと気のせいじゃなかったから。

◆私を“憐れな女”だと笑ってほしい

 <深夜2時。ユリカはマンションのベランダにいた>

 見下ろしたビル群は何時になっても暗闇に染まらない。チカチカと輝く色とりどりの光たちに胸が高鳴ったのは、もう遠い昔のように感じた。

「親じゃないよ、か」

 数時間前、咄嗟に言ってしまった言葉をなぞる。後悔をしているとかではない。でも、アイの反応が頭から離れようとしなかった。

 彼女の、心から驚いた声色。あんなに驚くことなのかと思う半面、やっぱりあの子は幼いな、と笑ってしまう。

(港区も、ハイスペックと言われる男性たちも、ホテルのラウンジも、全部何も意味なんてない)

「ユリカ、こんな時間にベランダにいるなんて、どうしたの」

 後ろから声がした。振り向いた先にいたのは、スーツ姿の似合う長身に、整った顔立ちの男。少し皺が目立つ。

「おかえりなさい」

 そう、ここの家主である彼だ。

「風邪ひいちゃうよ、中に入りなさい」

 ゆっくりと私の手を引く。彼の体温が身を包んだ。年相応じゃない甘ったるい香水と、年を重ねた男性特有の匂いが不協和音を生み出す。首や耳へのキスが止まない。この行為に感情を昂らせ、心を躍らせたのはいつまでだっただろう。もう感情は微動だにしなかった。

「こんなつまらない景色観てて楽しい?」

 耳元で囁きながら彼の手がパジャマの下を這い始める。

「綺麗じゃない」

「ただのオフィスビルばかりだよ」

 彼の呼吸は荒い。ベッドに向かう余裕すらないらしく、いつのまにか閉められた窓に手を付けるよう囁かれた。カチャカチャと後ろから音が聞こえる。

「つまらない景色だけど、こんな風にするのは燃えちゃうな」

 チカチカと輝くビルたちは、私のことをどう思っているのだろう。窓にうっすらと映る私の顔は“無”そのものだから、憐れんでいるかもしれない。それなら好きなだけ憐れんで欲しいし、可哀想だと笑ってくれたほうがずっといい。

(きらきらひかる)(お空の星よ)

「ユリカ、可愛いよ」「可愛い」

(まばたきしてはみんなを見てる)

どれだけ高いところに昇っても東京で星なんて見えないし、

(きらきらひかる)(お空の星よ)

(みんなの歌が届くといいな)

私の声なんてどこにも届かない。

<文/マドカ・ジャスミン>

【マドカ・ジャスミン】

あまたのメンズと飲み交わした経験から合コンコンサルタントに。ウェブメディア「AM」「MTRL」などでライターとしても活動。公式LINEブログ更新中

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