愛も性も、すべてを一人に求める結婚には無理がある【こだま×渡辺ペコ】

愛も性も、すべてを一人に求める結婚には無理がある【こだま×渡辺ペコ】

こだまさん(左)と渡辺ペコさん



 これまで“普通”とされてきた結婚や家族のあり方を問い直すような作品が相次いで刊行されている。

 1月の発売以来、大きな話題となっているこだまさんの私小説『夫のちんぽが入らない』や、不倫公認の夫婦を描いた渡辺ペコさんの漫画『1122(いいふうふ)』もそのひとつ。

 そんな2人が初邂逅し、結婚や夫婦の“矛盾”を語り合った。

◆結婚という制度に無理がある

こだま:渡辺さんが『1122』を描かれたのは、「そもそも結婚という制度に無理があるのでは?」と思ったことがきっかけだそうですね。

渡辺ペコ(以下、渡辺):ひとつの婚姻契約の中に含まれている項目があまりにも多すぎるのではないかと思っていて。愛情や信頼、生活、経済活動、セックス、子供をつくることなど、すべての価値観が合致するパートナーを若いうちに見極めるのって難しいのでは? と、年を重ねて、より強く思うようになったんです。

こだま:私も、付き合った延長線上で自然と結婚するものだと思っていて、そこまで深く考えていませんでした。

渡辺:こだまさんは、夫とセックスできないという問題を抱えながら、彼の風俗通いを黙認しますよね。そこにもやもやした気持ちはなかったですか?

こだま:私の知らない間に風俗のスタンプカードが溜まっているのを見て、ずるいとは思いましたが、「私がちゃんとできないから仕方ない」と受け入れていました。むしろ、家の中に性を持ち込まず、外で済ませてくれるほうが気がラクでしたね。

◆セックスレスは「我慢すれば解決する」と思っていた

渡辺:(担任を務めた小学校のクラスの)学級崩壊で精神のバランスを崩されていたときに、出会い系で知り合った男性と会う描写がありましたが、そこで出会い系にハマったり、楽しんだりすることはなかったんですか?

こだま:私にとっては、その場しのぎでお酒や薬に手を出すような感覚でした。家で学級崩壊のことを悩み続けるか、外で知らない男性と会って学校のことを忘れるかの二択しかない、と勝手に自分を追いつめてしまって。

渡辺:気持ちの逃げ場として、どうしても必要だったんですね。

こだま:夫に打ち明けたり、病院に行ったりすればよかったんですけど、身の回りの親しい人には自分の思っていることを言えない性格なもので。

渡辺:そうした精神状態は、執筆活動をすることで変わりましたか?

こだま:ええ、悩みを文章にすることで、内に溜めなくなりましたね。本を読んだ方からよく「問題が何も解決してない」と批判されるんですが、当時の自分は「私さえ我慢すれば解決する」と本気で思い込んでいました。本を出して初めて、こんなに悩まなくてよかったのかも、と気づけたんです。

渡辺:それはとても大きな転換でしたね。この本は、世間の「こうあるべき」という価値観の押し付けに対して、巨大な一石を投じましたよね。

◆嘘や矛盾を抱えて続いていくのが夫婦

こだま:ただ、夫はどう思っているのか……。『1122』で、セックスレスになったきっかけの記憶が夫婦で食い違っている場面がありましたよね。私も自分に都合良く書いているけど、夫の言い分は全然違うかもしれないなって思いました。

渡辺:夫婦ってある程度、嘘や矛盾を含んだ関係だと思うんです。不倫に限らず、お互いに関係の破綻を恐れて言えずにのみ込んでいることがあったり、あいまいな気持ちの変化を見ないふりしていたり。でも、人間同士なのでそれが普通だと思うんです。

 個人的には、この本はこだまさんから夫さんへの強烈なコールだと思いました。いつか何らかの形で、夫さんからレスポンスが返ってくるといいなと思います。

こだま:本当は執筆活動していることも隠さず、オープンにできたらいいんでしょうけど、そしたら私は夫の目を気にして何も書けなくなるし、こういう活動は一切していないと思います。

渡辺:こだまさんにとっては、家庭の世界も、執筆の世界も、どちらも大切だし、どちらも必要だったんですね。

こだま:私の場合、誰かを好きになることはもうないと思いますが、執筆活動という意味では心が外に向いてしまっているわけで。『1122』で婚外恋愛をしている夫と、やっていることは同じなのかもしれません。

渡辺:恋愛やセックスに限らず、外の刺激に触れてエネルギーや気持ちがそちらに向いてしまうことってありますよね。やはり、結婚相手ですべてをまかなうのは無理なんじゃないかな。夫婦間で大事にしたいものを1つか2つ優先できたら、それで御の字ですよ。

こだま:恋愛感情のない結婚や、セックスのない夫婦があってもいい、と?

渡辺:恋愛も世間ではいいものとされているけど、アルコールと同じで向いてない人がハマると依存したり、生活に支障を来したりすることもある。誰もが恋する必要はないし、恋愛ありきで結婚する必要もないと思うんです。

こだま:そう言ってもらえると救われます。私は長い時間をかけて、やっと性的な活動のない今の夫婦関係を肯定できたので。最初からそう思えていたら、こんなに迷走せずに済んだかもしれませんね。

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 夫婦生活に“正解”というものはない。嘘や矛盾を抱えながら、2人だけの“最適解”を見つけていくしかない。そんなことを、両作品は教えてくれるのだ。

◆編集部厳選!夫婦と家族を問い直す3作品

●家族最後の日(植本一子・著/太田出版)

写真家の植本一子が、母親との絶縁、義弟の自殺、夫の癌闘病というヘビーな出来事と対峙して綴った渾身の私小説。ときに周囲の人たちを傷付けながらも、正直にしか生きられない筆者の生き様が賛否両論を巻き起こした。

●結婚(末井昭・著/平凡社)

エッセイスト・編集者の末井昭が、29年連れ添った妻と別れ、写真家の神藏美子と恋に落ちて再婚する顛末を赤裸々に書く。「読む人が結婚したくなくなる本」を目指したと言いながら、よりよい結婚について考えさせられる。

●ルポルタージュ 1(売野機子・著/幻冬舎コミックス)

2033年の日本を舞台に、恋愛する者がマイノリティとなり、面倒事や痛みを伴わない男女のパートナーシップが一般的となった世の中を描く近未来ラブストーリー。作者の売野機子は、詩情溢れる恋愛漫画の名手と名高い。

【渡辺ペコ プロフィール】

漫画家。’04年に『透明少女』でデビュー。代表作に『ラウンダバウト』『ボーダー』『にこたま』など。現在、『1122』を『モーニング・ツー』で連載中

【こだま プロフィール】

主婦。’14年に同人誌『なし水』に寄稿した『夫のちんぽが入らない』が話題となり、’17年に書籍化。現在、『Quick Japan』『週刊SPA!』で連載中

※本記事は『週刊SPA!(8月1日号)』掲載の対談を転載したものです。

<TEXT/福田フクスケ PHOTO/スギゾー>

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