日給4万円のベビーシッターがいる!アメリカの驚きの育児事情|映画『タリーと私の秘密の時間』

日給4万円のベビーシッターがいる!アメリカの驚きの育児事情|映画『タリーと私の秘密の時間』

『タリーと私の秘密の時間』より



 シャーリーズ・セロンが18キロも体重を増やして3人のママ役に挑んだ話題作『タリーと私の秘密の時間』が8月17日に公開されます。

 子供のお弁当作りや送迎、そして赤ちゃんの世話に日々、心身ともに消耗しているママの姿は、アメリカでも同じよう。同時に、本作に見る育児事情は日本とは異なる部分もあります。今回は、本作の見所とともに、アメリカの驚きの育児事情を紹介します。

◆出産後の入院期間が短い

 2人の子供を抱えて会社の人事部で勤務するマーロ。彼女の3人目の出産から物語は始まります。アメリカでは経膣分娩では2日間、帝王切開でもたったの4日間しか入院期間がなく、マーロもお産を終えてすぐに赤ちゃんと帰宅します。

 3人目の子供は娘のミア。一人目の娘サラ(リア・フランクランド)は小学生であまり手がかかりませんが、2人目の息子ジョナ(アッシャー・マイルズ・フォーリカ)は音に敏感だったり、こだわりが強かったりするなど、育てにくい一面も。

 夫のドリュー(ロン・リヴィングストン)は彼なりに育児を手伝っているつもりですが、赤ちゃんが夜泣きしても、マーロの代わりに起きて授乳(哺乳瓶でもできますよね!)をすることなど思いつきもしない……。

◆保育園/幼稚園代が月20万円になるケースも

 疲労困憊している体を引きずって育児と家事を黙々とこなすマーロは、ある日、ジョナの校長に呼び出され、ジョナには情緒不安の疑いがあるからヘルプの先生を自費で雇うか、もしそれができないなら転校することを勧められます。

 アメリカの保育園事情は日本と異なり、0歳から入れるデイケア(保育園)と3歳から入れるプリスクール(幼稚園)があります。そして、州によって多少異なりますが、一般的には5歳からの1年間は小学生準備クラスであるキンダーガーテンに通い(小学校に併設されていることが多いです)、6歳から義務教育の小学校に入学します(5歳から義務教育の州もあります)。作中、サラとジョナが通っているのはプリスクール、キンダーガーテンと小学校が一緒になった私立の一貫校。裕福なマーロの兄のコネで、やっと入学できた学校です。

 物価の高いNY州の私立のデイケア、プリスクールやキンダーガーテンは、毎日フルタイムで子供を預ければ、月20万円以上するのだとか。経済的に無理な家庭は、教会が運営しているデイケアや低所得者用の公立のデイケアなどを利用していますが、数が圧倒的に少ないそう。公立校だと5歳のキンダーガーテンから高校までは無料になりますが、0歳から4歳までの学費は日本と比較にならないほどの高額なのです。

 ちなみに、保護者が自費で先生を雇用するなんて日本では聞いたことがありませんよね? でも、アメリカの私立校なら珍しい話ではありません。私立校では例え幼稚園レベルであっても、学力レベルや校風が合わない生徒は、親がなにかしら補助をしないと退学や転校を勧められてしまうこともあります。

◆子供の体をブラッシングするセラピーがある

 ただでさえ、子供たちを高額な学校へ通わせているのに、先生を自費で雇うなんてあり得ない。そもそも、ジョナに情緒障害があるのどうか、精神科医でさえ分からないのに……。そんな精神的ストレスで疲れてきっているマーロは、効果があるのかも分からないまま、毎晩ジョナをブラッシングします。

 劇中、マーロがジョナに施すブラッシングは「ウィルバーガー・プロトコール」と呼ばれ、自閉症スペクトラムや感覚過敏の症状がある子供に対して行われる感覚セラピーです。例えば、触られることを非常に嫌がる、次の行動に移るのが苦手である、などの症状がある子供が対象。プラスチックの専用ブラシで、繊細な顔、胸、お腹以外のエリアを腕から足まで2〜3分ほどかけてブラッシングします。

 現時点でこのセラピーの効果は科学的に証明されていませんが、多くの自閉症スペクトラムの子供が、集中時間が長くなったり、次の行動に移りやすくなったり、触られることを嫌がらなくなったりしたという報告もあるそう。(※1)

◆日給4万円のベビーシッターがいる

 乳児のときから赤ちゃんを別室に寝かせることが普通のアメリカ。劇中、マーロとドリューの寝室にはベビーモニターが置かれており、別室にいるミアが泣いたら彼らに聞こえるようになっています。ところが、ミアの泣き声で起きるのはいつもマーロだけ。

 睡眠不足と疲労、心労が重なって昔のような明るさを失ったマーロを心配した彼女の兄は、「ナイトシッター」を彼女にプレゼントします。

 ナイトシッターは夜9時〜朝7時ぐらいまで勤務する夜のベビーシッターで、近年、アメリカやイギリスで流行っているのだとか。英語では「ナイトナニー」や「ナイトナース(看護師の資格をもった人の場合)」とも呼ばれます。

 経験年数や資格によって変わりますが、時給は1,650円から4,400円ほど。つまり、一晩につき16,500円から44,000円もかかることから、ナイトシッターを雇っているのは夫婦共に医師などの超多忙夫婦やリッチな夫婦だけなのだそう(1ドル=110円換算)。顧客を安心させるため、ナイトシッターには30代から40代の母親が多いと言われています。(※2)

 しかし、現れたナイトシッターのタリーにマーロはびっくり。なぜなら、彼女があまりにも若い“イマドキ女子”だったからです。

 それでも仕事ぶりは完璧。「私を頼って」「(あなたは)いいママよね」「単調な毎日が子供たちへの贈り物なのよ」といったタリーの何気ない一言で、“自分はよい母親ではない”、“退屈な自分の人生は失敗だった”、“女としての自分はもう終わった”……という思い込みから、マーロは少しずつ解放されていきます。

 そして、ある晩、タリーとマーロはブルックリンへ繰り出してハメを外し、とんでもない事件が起こります。そして、タリーの秘密も明らかに……。

 映画の終盤で、夫ドリューが「夜の状況を考えず、君が完璧にやっていると思ってた」とマーロに打ち明けるシーンがあります。“育児は女性にしかできない”、“子供は母乳で育てなければいけない”、“子供の学校に積極的に関わるのがよい母親”、“ママが作るお弁当が一番”……。こういった母性神話に女性も、そして男性も囚われていることを教えてくれる本作。

 タリーのようなナイトシッターを日常的に雇うことは現実的ではないでしょう。ですが、社会に巣くう様々な思い込みを捨てることで、私たちはもう少し幸せになれるのではないでしょうか。本作は育児中の女性だけではなく、すべての女性と男性に観てほしい、感動の1本です。

<文/此花さくや>

【参考】

※1…The Wilbarger Protocol (Brushing Therapy) for Sensory Integration – The National Autism Resources

※2…Baby Cries at 2 A.M.? No Need to Get Up – The New York Times

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