「愛」が分からず恋人を試してしまう女性、その生い立ちと胸の内
2020年11月26日 08時11分 女子SPA!

写真はイメージです(以下同じ)
好きになればなるほど、愛をこじらせていく人がいる。相手をわざと試したり貶(おとし)めたりするのは、自分の気持ちに自信がないからかもしれない。
一概(いちがい)には言えないが、誰もがなんとなくふわりと「愛情」だと思っていることが愛だとは思えないというのだ。
◆両親は離婚のち復縁したがケンカばかり
「愛情って、特に恋愛って何なのか、私にはいまだにわからないんですよね」
サチコさん(38歳)はそう言う。小さなころは父親の事業が成功、乳母がいるような生活だった。
両親は何でも買ってくれたが、父は忙しくてあまり家にいなかった。今思えば、外に女性がいたのではないかと彼女は言う。母はそのイライラを娘であるサチコさんにぶつけて、いつも不機嫌だった。
「バブル崩壊の影響だったんでしょうか、私が10歳くらいのとき父の事業がうまくいかなくなって倒産、最後に両親が大げんかしていた記憶があります。その後、両親は離婚して、母と私は別の町の小さなアパートに引っ越しました。それまであったものがすべてなくなった」
母親は近所の居酒屋で働いていたが、常連の客と男女の仲になったのだろう、夜になると彼女は家から追い出されることもあった。今思えば、と彼女は前置きして、「母はそういう男たちからお金をもらっていたんじゃないかな」とつぶやいた。
ところが何があったのか、彼女が高校生のときに両親は復縁。しばらくするとまたケンカが勃発した。家がつまらないから帰りたくなくて夜の町を遊び歩き、補導されたこともあるという。
「こんな人たちとつきあっていたら、私の人生が台なしになる。そんな気がして高校卒業と同時に上京、親戚の援助もあって大学に入りました。アルバイトは水商売ばかりしていましたね」
◆初めて人を好きになったのは30代になってから
若くして男女の機微もさまざま見てきた。そんな背景があるからこそ、彼女は恋愛にどっぷりとはまることができないのかもしれなかった。
「20代のころはものすごく恋愛に冷ややかでした。男女の関係なんて脆(もろ)いものだし、誰かを信じたってどうせ裏切られる。そう思ってた」
卒業後に就職した会社で、彼女は一生懸命に働いた。長くひとつのプロジェクトにかかわって、ものを生み出す楽しさも知った。人と協力することの重要性もだんだんわかっていった。
「私は仕事に育てられた。そんな気がしました。だから恋愛や結婚からは遠ざかってもいいと思っていた」
だが33歳のころ、仕事関係で知り合った人に突然、交際を申し込まれた。
「長く一緒に仕事はしてきたんですが、恋愛相手として意識したことがなかったので驚きました。でも彼は『あなたの魅力にあらがえなくて告白してしまった』って。そう言われればうれしい。だからつきあうことにしたんです」
◆彼の愛情を試してしまう
ところが「愛情」に懐疑的で、長く続く恋愛を経験したことのない彼女は、どうやって恋愛を育んでいったらいいかわからなかった。
「彼は好きだと言ってくれるけど、私は信じられない。だから証明してほしいと思う。彼はどうすれば信用してくれるんだと言う。私のために何ができるか考えてと突っぱねたりしていました」
最初は夜中に電話をかけて「寂しい、会いたい」ということもしてみた。彼はいつでもすぐに駆けつけてくれた。彼の給料では買えないような高価なものをほしいとねだったときも、彼は分割払いで買ってくれた。
「だんだんエスカレートしていくんですよね。あるとき彼と夏休みを過ごそうと北海道に一緒に旅行したんです。ところが彼の仕事で思わぬハプニングがあって、彼は帰らざるを得なくなった。
『今日帰って仕事して、明日の朝いちばんでまた北海道に戻ってきて』と言ったんです。明日には帰京するのに。そうしたら彼、本当に来てくれたんですよ」
そのとき、この人なら信頼できる、もう試すのはやめようという思いがよぎった。それなのに彼女は、『私の言いなりになる男なんてつまらない』と彼に言ってしまったのだそうだ。そんなふうには思っていなかったのに。
◆「私はやはり愛情というものをまったくわかってない」
「さすがにその言葉は彼を傷つけたみたいで、それから彼の態度が少し変わって、私はそれを見てすごく焦(あせ)りました」
このまま見捨てられるかもしれない。10代のころのようにひとりぼっちになるかもしれない。そう思うと、いてもたってもいられず、彼の部屋に押しかけたこともある。
「つきあって3年ほどたったころ、彼が『オレ、もう疲れた』と言い出して。別れたくない、どうしても一緒にいたいと泣いて頼みましたが、彼は私への愛情がすり減っているって……」
一度こうなると、このあとは何をしても逆効果になる。相手の気持ちが冷めていくときは、どんなに心を入れ替えたと言っても信じてはもらえない。
「あんなに好きだと言っていたのに、ウソだったのとなじってしまいました。すると彼は、『きみは一度でも、僕の愛情に応えたことがある?』って。ああ、私はやはり愛情というものをまったくわかってないんだと落ち込みましたね。彼がしてくれたことすべてが愛情だったのかとそのとき初めて気づいたように思います。
たぶん、他の人が『これは彼の愛だ、こんなに私は愛されているんだ』と思うことを、私は愛情だと気づけなかった。彼がどんなに私の要求に応じてくれても、それが愛情からきていると思えなかった」
◆自己嫌悪に陥る日々
おそらく彼女は育った過程で「愛情を感じる」ことが極端に少なかったのだろう。親からも愛された実感をもたずに成長してしまった。
「もちろん世の中にそういう人はたくさんいると思う。だからといってみんなが恋愛できないわけでもないでしょう。そう思うと、私だけが人として失格なのではないかとまた自己嫌悪に陥っていくんです」
彼はそのまま静かに離れていった。もう一度彼に会いたい、今度はもっとうまく関係を築けるはず。一時期はそう思っていたが、その後、彼が結婚したことを知り、彼女はさらに気持ちが滅入っていると話す。
◆「一生、恋愛や結婚と無縁のまま生きていくしかないのかも」
仕事は変わらずがんばっている。職場での人間関係でトラブルを起こしたことはない。
「恋愛みたいなふたりきりの濃密な関係になると、どうしたらいいかわからないんですよね。その後、カウンセリングを受けて自分のことも少しはわかってきたんですが、それでもどうしたらいいかという前向きな感覚にはなれない。このまま私、一生、恋愛や結婚と無縁のまま生きていくしかないのかもしれない」
表情が暗くなった。
彼女には、いい女友だちがいるという。ところが相手が男性で、自分の中にも恋愛感情があると、急に「もっと愛して、もっと愛していることを証明して」という気持ちになってしまうのだそう。女友だちと接するときのようにフラットな気分ではいられない。
女友だちと同じようにもう少し気楽に好きな人と接することができればいいのに、と彼女はため息とともにつぶやいた。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数