森山未來がボクサー役に「役に埋没するような生き方はしたくない」

森山未來がボクサー役に「役に埋没するような生き方はしたくない」

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’19年の大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』で、物語全体の狂言回しである美濃部孝蔵役が記憶に新しい森山未來。今年は日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』で主役を演じるなど、その活躍は国内にとどまらない。そんな彼が、11月27日公開の劇場版『アンダードッグ』では、かつて日本ランク1位を獲得しながら、現在はかませ犬としてリングにしがみつくボクサー・末永晃を演じる。

◆森山未來がボクサー映画で到達した役作りの境地

 海外の演出家やカンパニーと組むことも多い森山が、本作への出演を決めたのは何だったのか。

「何よりも(同じ監督・武正晴×脚本・足立紳による)『百円の恋』が素晴らしかったので、2人がまたタッグを組んだ作品なら出てみたかったのが第一です。最近は、その作品固有の匂いがしない映画が多いなかで、『百円の恋』からはかつての古くさい愚直な日本映画のような生々しい匂いを感じたのが理由として大きいですね」

 体づくりはもちろん、ボクサーの置かれた精神状態についても深く考える役作りになったという。

「僕が演じた晃は元日本ランク1位だけど、ボクサーは世界ランカーになって初めてスポンサーがついてボクシングだけで飯が食えるようになるそうです。そんな状況でかませ犬としてリングに立ち続ける晃は、もともと持っていた鷹揚な部分や、アグレッシブなところがどんどん削られ、居場所もなくなってしまう。あまりに過酷な世界を自分の人生としてチョイスしている人間の、ストイックさとはまた違うメンタルがあるんだろうなと思ったんです。あまりしゃべらない役だからこそ、なんでこの人がこうなったのかっていうことを、とにかく考えました」

 森山といえば、役作りのために『苦役列車』(’12年)では三畳一間で暮らしたり、『怒り』(’16年)では無人島生活をしてみたりと、体当たりのアプローチでも知られる。だが、近年はそのやり方が変化してきたと語る。

「違う環境に身を置くと表情やメンタルも変わるから、役作りとして有効な手段ではあるんです。だけど、自分自身を全部取り払って空虚にするようなことを、あんまりやりたくない、とあるタイミングで思った。森山未來として歩いている道や歩き方があるから、自分自身としてそこに存在できればいいんじゃないかって今は思っています。今回も、体をつくる以外は役作りのためにあえて何もせず、クセやキャラをつけるのをやめてみました」

◆人前に立って自らの肉体で表現することを渇望している

 とはいえ、現場では自ら監督に意見やアイデアを出すことも多い。

「今回でいえば、晃の入場曲をCHAGE and ASKAの『モーニングムーン』にしたいと言ったのは僕です(笑)。映画を観てると唐突な感じもするんですけど、夜と朝の間をさまよう男女の歌であるこの曲は、ずっとさまよっている人間という意味で晃にすごく合うなーと思ったんですよね」

 俳優・ダンサー森山未來と、ボクサー末永晃とは、正反対とも言える境遇にありながら、どこか共通するところも感じているそうだ。

「晃には、たくさんの観客を前にリングに立って、歓声を浴びて、日本ランク1位まで獲った時代がある。その快感をすごく渇望してアディクティブ(中毒症的)になっている人なんだろうと思うんです。人を殴り殴られるという行為も、肉体を使ったある種の根源的なコミュニケーション。人前に立って自らの肉体で表現することを渇望しているという意味では、僕も同じ。僕が今ここにこうしていられるのは出会いや運だったりするし、晃との間に明確な違いなんてなくて、ただ紙一重だと思います」

◆役に埋没するような生き方はしたくない

 ボクシングはいつまで現役でいられるかの引き際がシビアな世界。一方、俳優・ダンサーに明確な引退はないが、年齢を重ねることをどう考えるのか。

「どこを引き際にするかは人それぞれですけど、肉体的な限界があるぶん、やっぱりボクシングのほうが厳しいでしょうね。ダンスも芝居も、自分がどう生きてきたかがそのまま出るので、終わりのない苦しさを感じるようになったらそこがやめどきなのかな。僕はまだ感じずに済んでいるけど。役に埋没して自分自身を見失うような生き方はしたくないと思っています。どのジャンル、どの現場でも、おもしろい人に出会い、それを活力にしながら生きていくスタンスは変わらないでしょうね」

 新型コロナで劇場が苦境に立たされた5月以降、舞台の配信作品に立て続けに3本出演した森山。この状況下に思うことがあるという。

「こういう状況においても、何かを表現したい欲求は止まらないし、そういうものを観たいってみんなが潜在的に思っていることがはっきりわかりました。逆に、生で何かを観るために、わざわざ劇場に足を運んで共有するという、今まで当然のようにできていたことが、太古の昔のように神聖で特別なことに戻った気がする。ここから何ができるのか、どう形にしていくべきかを今、常に考えていますね」

 表現者としての輝きを増す森山。彼が切り開く未来に期待を寄せたい。

アンダードッグ

’20年/日本/前編131分・後編145分 監督/武正晴 原作・脚本/足立紳 出演/森山未來、北村匠海、勝地涼ほか 11月27日(金)より[前・後編]同日公開

◆森山未來が役作りにこだわった作品3選

『苦役列車』(’12年)

販売/キングレコード 2090円 DVD発売中

原作は西村賢太の芥川賞受賞作。森山は主人公・北町貫多を演じるために三畳一間・風呂なし共同トイレの民宿でクランクアップまで生活。酒とタバコに入り浸る日々を過ごした。

『人類資金』(’13年)

販売/ハピネット 4620円 DVD発売中

旧日本軍が隠匿したとされる財宝「M資金」がテーマ。森山はイスラエルの格闘技「クラヴマガ」の道場に通ったほか、国連本部を舞台に8分間にわたる英語のスピーチを長回しで撮影した。

『怒り』(’16年)

販売/東宝 4180円 DVD発売中

原作は吉田修一の小説。森山はバックパッカーの青年・田中信吾を演じるため、インフラの一切ない沖縄の無人島にクランクインを待たず前乗り。数日間を一人で過ごして田中になりきった。

【森山未來】

’84年、兵庫県生まれ。5歳からダンスを学び、15歳で舞台デビュー。主な映画出演作に『世界の中心で、愛をさけぶ』(’04年)、『モテキ』(’11年)、『苦役列車』(’12年)、『怒り』(’16年)、『オルジャスの白い馬』(’20年)など。

<取材/福田裕介 文/小西 麗 撮影/長谷英史 ヘアメイク/須賀元子 スタイリスト/杉山まゆみ>

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