“手作りの義手”で猫らしい生活を。病気で右手の先端を失った豆蔵

“手作りの義手”で猫らしい生活を。病気で右手の先端を失った豆蔵

義手は洋服と繋がっている

【○○さん家の猫がかわいすぎる Vol.29】

 死にそうだったり、ボロボロの猫、ひとりで生きていく力のない子猫などに「一緒におうちに帰ろうね、もう大丈夫だよ」と声をかけ、保護しているスバルさん(@q8Fhfg67xr9sEal)宅には、さまざまな事情によって迎え入れた猫がたくさん。

 その中のひとり、豆蔵くんは幼い頃に右手の先端を失ってしまいましたが、懸命な治療を乗り越えたり、スバルさんお手製の義手に頼ったりしながら、立派な成猫になりました。

◆原因不明の病気で手を失うことに

 出会いのきっかけは、知人がへその緒がついた子猫を保護したこと。スバルさん宅に来てからも子猫はずっと下痢をしており、ある日突然、下血。血液検査をしてもらうと、計測機器の針が振り切れるほど血液中の尿素窒素の値が高いことが判明。獣医師からは内臓のどこかで出血が起きているか、消化器官に先天性の疾患があるかもしれないと言われました。

「幼すぎて投与できる薬がほとんどなかったので、ミルクに整腸剤を入れていましたが、味が嫌なのか飲んでくれず。下痢は治らず、40度を超える熱も出てしまって」

 病院では助けられないかもしれないと言われましたが、一縷(いちる)の望みを賭け、入院させ、点滴治療をすることに。すると、一命を取り留めることができ、入院2日目には初めて固形のうんちが出ました。

 しかし、血管から点滴の液が漏れ出たため、治療を中断。点滴をしていた右手の先がむくみ出し、指先から汁が出て、手は赤黒く変色していきました。

「子猫は血管が細いので、先生は肩に近い部分に針を刺してくださっていたのですが、後遺症が出てしまいました。ミイラ化した右手の先端は自然に落ちて、傷が塞がるのを待つしかないとのことで……」

◆右手の先を噛んでしまう豆蔵くん

 歯が生え始めた豆蔵くんは、次第に右手の先を噛むように。スバルさんは包帯を巻いて保護していましたが、その姿を可哀想に思い、胸が苦しくなりました。しかし、獣医師が明るい色の動物用包帯を巻いてくれ、見た目の痛々しさが軽減されたことを機に、心境に変化が。豆蔵くんの行動や仕草を純粋に「かわいい」と感じられるようになったのです。

 右手はミイラ化した部分と正常な皮膚の境目が少しずつ裂けていったためスバルさんは敗血症にかからないよう、毎日消毒。

「それが痛くて怖いようで悲痛な声を出して泣くので、父と協力して行いました。恐怖から、毎回、父の手の中でうんちをしていて本当にかわいそうでした」

 そんなある日、いつものように消毒をしようと思い、包帯を外すと、ミイラ化していた部分が取れ、前腕部がむき出しに。完治には1か月ほどかかるといわれましたが、もし噛み壊したり、壊死したりした場合は腕を切断しないといけないとも告げられました。

◆手が不自由でも猫らしい行動をさせてあげたい

 傷口を保護し、自傷行為を予防したい。そう思ったスバルさんは使い捨てできる手作りの義手を作ろうと決意。

「生まれつきの内臓疾患があるかもしれないので、全身麻酔が必要な切断手術はリスクが高すぎるから避けたかったし、猫らしい行動ができるように、なるべく腕を残したかったんです」

 手早く取り付けられ、負荷がかかっても豆蔵くんが傷つかないような形状にすべく、スバルさんは100均の化粧用スポンジを衝撃吸収剤にしたり、詰め替え容器などで前腕部と手先を包み込む部分を作ったりと試行錯誤。痛々しく見えないよう、外側は動物用包帯で包み、床につく部分には汚れにくいシリコン素材を採用しました。

「トイレ時に雑菌が入らないよう、先端は防水性のある素材に。通気性を保つためプラスチック部分には穴をあけました。あとは、接着剤などを口にさせないような固定法も模索しました」

 義手は豆蔵くんの様子を見ながら、少しずつ改良。無理強いするのではなく、受け入れてくれる物を探しました。

◆義手を“自分の手”として認識するように

「プラスチックの義手には2日くらいで慣れてくれた。義手でお顔を洗う姿を見た時や猫パンチを繰り出した時は、自分の手として認識してくれていることが嬉しかったです。切断しなくてよかった、猫らしい仕草ができてよかったと思いました」

 生後10か月も経つと、豆蔵くんは義手を外しても手先を過度に気にしなくなったため、寝る時は外し、朝になったら着けるスタイルに変更。

 すると、1歳半になったある日、これまでお利口だった豆蔵くんが突然、義手が繋がっている洋服を破ったため、スバルさんは義手生活を卒業させることにしました。

「左腕や背中に十分な筋肉がつき、義手なしでも日常生活に大きな不自由がなさそうだったので取りました」

◆好かれなくても元気でいてくれたら、それでいい

 6歳になった豆蔵くんは現在、スバルさんが願ったように猫らしい生活を満喫中。右手の先端がないことを受け入れ、元気にたくましく生きています。

「よくぞ、ここまで大きくなってくれた。まめちゃんはすごいとしみじみ思います。嫌なことを頑張らせて申し訳なかったけど、頑張って大きくなってくれてありがとうと言いたい」

 そう感謝するも、豆蔵くんはスバルさんには喉を鳴らしてくれないのだとか。

「まめちゃんにとって、私は嫌なことばかりするヤツなのかも。反対に、抱っこ係だった父にはべったりです。目が合うと喉を鳴らし、外出時にはこの世の終わりを嘆くような声を出します。私への態度との違いにちょっと納得がいきません(笑)」

 たとえ嫌われたとしても、この子が元気ならそれでいい。スバルさんの優しいボヤキからは、そんな愛情が伝わってくるような気がします。

◆「私ができる範囲で助けていきたい」

 なお、豆蔵ちゃんは福岡県獣医師会の「いのちをつなぐ委員会」が発行している、2021年用のチャリティーカレンダー「365日のふくおかの猫」に掲載予定。この取り組みは、すべての猫に名前とおうちが必要だという考えのもとに立ち上げられたもので、収益の一部は野良猫への不妊去勢手術などに使われます。

「このカレンダーは、日本で初めて災害派遣獣医療チーム(VMAT)を立ち上げられた先生が発案したものです」

 VMATは、東日本大震災を機に2013年に発足。熊本地震の時に初出動し、被災して大きなストレスを抱えた動物たちのケアにあたりました。スバルさんやVMATの奮闘を知ると、小さな命を懸命に救おうとしている存在がいることに心打たれ、自分にもできる動物助けを見つけたくなります。

「うちに来てもらうのは、今引き取らなければ死んでしまうだろうという事情のある子だけ。ひとり拾ったって世界中の捨て猫を助けられるわけじゃない。けれど、私ができる範囲で助けたいです」

 そう語るスバルさんは「無駄」という言葉で切り捨てず、各々が自分の周りを良くしようと心がけることで、社会全体がより良い方向へ動いていくのではないかと考えています。

 見過ごされた小さな命が再び笑顔になるのは、私たちがちょっとだけ勇気を出すことがカギとなるのかもしれません。

<文/愛玩動物飼養管理士・古川諭香>

【古川諭香】

愛玩動物飼養管理士・キャットケアスペシャリスト。3匹の愛猫と生活中の猫バカライター。共著『バズにゃん』、Twitter:@yunc24291

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