100万円の歯が一撃でコナゴナ…固すぎる沖縄の菓子の衝撃/カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」

100万円の歯が一撃でコナゴナ…固すぎる沖縄の菓子の衝撃/カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」

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【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」Vol.32 沖縄県「いちゃがりがり」・「天使のはね」】

 今回は、今までで一番有益なことが書かれているのでぜひ読んでいって欲しい。

 今回のテーマは沖縄の菓子である。

 沖縄には行ったことがない。行きたいとは思っているが自分にとって「行きたいと思いながら死ぬ場所第一位」なことも否(いな)めない。

 しかし、そんなあの世より遠い場所である沖縄の菓子が、輸送技術により現地に行くことなく食べられるのはありがたいことである。

 そう思いながら、何の説明も見ず、送られてきた菓子をまず、一口食べて見た。

 一撃で歯が粉砕。

 粉砕は若干オーバーだったが「この菓子やけにジャリジャリする、原材料は「砂」か?」と思ったら、一生懸命粉々になった自分の歯を食っていた、という話である。

◆沖縄の菓子「いちゃがりがり」は決して勢いよく食うな

 だが「歯」というのにも実は語弊(ごへい)があり、正確に言うと「総額100万ぐらいかかったインプラント」が欠けた。つまりこの原稿をどれだけ一生懸命書こうがすでに赤字なのだが、故(ゆえ)に大事なことも書ける。

 この沖縄の菓子「いちゃがりがり」は「決して勢いよく食うな」ということだ。人によっては、ダンプカーに、ぶつかり稽古を挑むようなことになってしまう。

 食い物を見たら、道に落ちているものでも取りあえず口に運ぶ習性があだになってしまった。

 このように「いちゃがりがり」の最大の特徴は「固い」ことである。

 名前の由来としては、「いちゃ」は「イカ」のことであり、それをがりがり食うから「いちゃがりがり」だ。

 私は歯がブレンドされたことによりジャリジャリになってしまったが、本来はがりがり食べるものなのだ。

 見た目はかりんとうのようで、その芯にスルメが入っている。

 一口目で歯が砕けたが、それは次の歯科検診まで置いておいて、気を取り直してもう一度挑んでみた。だが「これは一生食べられないのでは」と思った。歯を立てないとなると「舐める」ぐらいしかできないうえ、舐めて柔らかくなるような代物ではないのだ。

◆「一生なくならない食べ物」を発見してしまった

 謀(はか)らずも「一生なくならない食べ物」を発見してしまったのだが、ずっとこれを舐め続けていたら、いつか餓死するだろう。

 意を決して、砕けてない方の歯で慎重に噛んでみたが、どうやらこれは食べるのにコツがあるようだ。

 一度上手い具合に歯で割ることができれば、後は結構簡単にかみ砕くことが可能だ。この原理まるでさっき砕けた歯のようである。

 歯のことは一旦忘れよう。

 味は「良いツマミ」である。凶悪な固さも一度かみ砕いてしまえば、ちょうどいい歯ごたえだ。油で揚げているからか、香ばしく、イカの風味も良い。

 だが、一番気になるのはこの「固さ」である。一体何をやったらこんなに固くなるのか。原材料を見ると「小麦粉、するめ、植物油、食塩」と至ってシンプルであり「鉄鉱石」などは入っていない。

◆固くしたのは「保存を効かせるため」だったという

 やはり他の人間もそれが一番気になっているらしく、「いちゃがりがり」でググるとまず「いちゃがりがりの固さの謎に迫る」という記事(「DEEokinawa(でぃーおきなわ)」より)が出てくる。

 その記事によると、いちゃがりがりの固さの秘密は、低温と高温の油で30分ずつ揚げることだそうだ。

 揚げ時間としては相当長いため、気をつけないと焦げてしまう。いちゃがりがりの製造には熟練の技術を要するという。

 そして、何故ここまで固くしたかというと、私の三桁万円のインプラントを粉砕するためではなく、「保存を効かせるため」だったという。元々はスルメのゲソの天ぷらを売っていたが、それだと腐りやすいと苦情がきたため腐りようがないぐらい固くしたそうだ。

 クレーマー対策のためにクレームがきそうなぐらい固くしたという逆転の発想だが、意外にも「固すぎる」というクレームはなく「もっと固くした方が良いのでは」という意見もあるそうだ。世の中には辛い物好きのように、固い物フェチもいるのである。

◆「天使のはね」は絶対歯が折れないという大きな長所がある

 今回送られてきたのはこの「いちゃがりがり」ともう一品ある。「天使のはね」という菓子だ。

 分類するならスナック菓子になるのだが、この「天使のはね」は「音を立てずに食べられるポテトチップス」というのが売り文句で、固さはおろか、サクサク感もない。敵に感づかれることなくスナック菓子が食べたいと言う時にぴったりの菓子だ。

 この菓子は非常に表現が難しいのだが一言でいうなら「薄味のしけったせんべい」という感じだ。

 こう書くと全く美味そうに聞こえないが、まずこの天使のはねには絶対歯が折れないという大きな長所があるし、あっさりしているので胃にももたれない。

 今よりもっと歯と胃がダメになってもこの天使のはねなら食べることが出来るだろう。

 今は、いちゃがりがりをバリバリ食っている者もいつかは天使の羽に抱かれる日がくるかもしれないということだ。

 菓子も適材適所ということである。

<文・イラスト/カレー沢薫>

【カレー沢薫】

かれーざわ・かおる

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』、コラム集に『負ける技術』『ブスの本懐』『やらない理由』などがある

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