「昔の女性は生理の血が止められた」というトンデモ仮説を信じる人たち

「昔の女性は生理の血が止められた」というトンデモ仮説を信じる人たち

※写真はイメージです(以下、同)



 個人差があるとはいえ、毎月訪れる生理に悩まされている女性は少なくありません。それは「現代女性が退化し、大切な機能を失ったから」だと言ってのける人たちがいます。

 その人たちはその機能を「おまたぢから(力)」と呼びます。経血の排泄を流れ出てくるままにせず、尿のようにある程度自力で調節するという“経血コントロール”のための機能なのだとか。

 現代においては、子宮から排出された経血はナプキンなど生理用品で受け止めるのが、ごく一般的な処理法です。でも、おまたぢからのあった時代には、経血を膣内にとどめておいたり、子宮内膜がはがれる感触を察知して、トイレで一気に出すことが可能だったというのです。

 女性の周りにはそんなトンデモ級なスピリチュアル的健康法、美容法がゴロゴロと存在しています。経血コントロールもそのひとつ。『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)では、著者の山田ノジルがその真偽に迫ります。

※以下、『呪われ女子に、なっていませんか?』より一部を抜粋し、著者の許可のもと再構成したものです。

◆“昔は自然とできていた”の説得力のなさ

 経血コントロールの実践者たちは口をそろえてこう言います。

「昔の女性はみんな、経血をコントロールできていたんです」

 マジか。イヤイヤ、そんな機能がデフォルトだったのなら、なぜ生理用品が古くから存在し、現在ここまで進化してきたのでしょう。また、「月経中の女性は穢(けが)れている」という考えからその期間、女性を隔離する“月経小屋”の習慣が世界各地に存在した意味は? 腑に落ちない点しか、見当たらない!

 しかし、彼女らはもっともらしくこう説明します。

「和装時代は下着をつけていなかったので、股をギュッと締め経血が流れ落ちないようにする筋肉の使い方が、自然にできていた」

「今のように便利な生理用品がなかった時代は、粗相をしないように自然と股に力が入っていた」

「現代女性は体を使わない生活で、骨盤底筋の力が衰えている。だから、経血コントロールができなくなっている。若い女性のあいだにも、尿漏れが増えているのがその証拠」

 そして……

「女性が本来持っていた、在るべき力(経血コントロールができる力)を取り戻しましょう!」

 ムリでしょ。骨盤底筋の衰えにより、若い女性でも尿漏れに悩まされる人が増えているのは事実ですが、だからといって昔の女性が経血コントロールできていた証拠にはなりません。

 世の中には人間ポンプや柔軟芸のように特殊な身体能力を身につけた人は確かに存在しますし、蛇女が鼻から喉へと蛇を通していたように(@昭和の見世物小屋)、ある程度気合で習得できるものもあるでしょう。

 ですから、経血コントロールができる女性がいた可能性はもちろんゼロではありません。しかし、昔の女性なら「当然できていた」とまで言われてしまうと、パラレルワールドや異次元の話に聞こえてくるような。

 ここで思い出したのが“江戸しぐさ問題”です。

◆そんなにいいものなら、なぜ現代に伝わらなかったのか?

 江戸しぐさとは、江戸商人たちが作り上げた“人の上に立つ行動哲学”のこと。道ですれ違うときに傘がぶつからないようにする“傘かしげ”などのマナーを現代人も見習おうと提唱され、2007年には「NPO法人江戸しぐさ」まで設立されました。

 ところが、歴史研究家の原田実氏によってひとつひとつ検証された結果、「江戸しぐさはデマ」と暴かれたのです(参照『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』星海社)。これは、

●いい話なら何でもねつ造していいのか?

●それを現代批判の道具に使うな

●古い時代の日本を神聖視しすぎ

 という問題をはらんでいます。

 経血コントロールも、全く同じ問題を抱えています。しかもそれらの問題に加え、より快適に便利にという現代女性の生活を、退化させかねません。生理期間は常に経血が漏れないよう気を配り、こまめにトイレに行って出せ、というのですから。

 江戸しぐさと経血コントロールには「そんなにいいものなら、なぜ現代に伝わらなかったのか?」という共通の疑問点もあり、その理由とされているお説がどちらもぶっとんでいます。江戸しぐさは「幕末から明治にかけて江戸っ子狩りが行われ、勝海舟が一部を地方に逃がした」と主張。

 経血コントロールのほうはどうでしょう。

◆いつから日本は毒親大国に?

 経血コントロールの場合は、「当たり前すぎて言語化されていない」という説明に加え、戦争をはさんで社会と生活様式が大きく変わり、さらに男女平等社会の恩恵を受ける自分の娘に母親が嫉妬を覚えたことや、粉ミルク推奨時代で母乳をあげていないため親子関係が希薄になり、女性の体の大切な知恵を娘に伝えなかったから、という仮説が唱えられています。

 ところが、粉ミルク育児のピークは1970年代。粉ミルク育児が主流となった年代の親たちは、すでに洋式文化が浸透しつつある戦後生まれです。経血コントロールができていたとされる世代ではないので、母乳育児との相関性は限りなく低そうです。それ以前に、母乳じゃないと親子関係が希薄になるというお説自体が、笑止の至りですが。

 さらに「私たちは男尊女卑でこんなに苦労したのに、平等社会な娘たち、ずるい! だから大事な体の使い方なんて教えてあげないわ」なんて考えの母親が大部分を占めていたというのも、いつから日本は毒親大国になったんだという話です、これ。

 日本はとかくアトピーや障害などの原因と責任を母親に押しつける傾向があるようで、「母親たるもの心血注いで一時も休まず育児すべき」なんて呪いも蔓延していますが、ファンタジーレベルの“失われた力”にまで母親の責任が問われるなんて、げんなり。「昔の生理はこうだったであろう」という推理は謎解きのようで楽しいでしょうが、それによって現実の生活を歪められたくないものです。

【山田ノジル プロフィール】

自然派、エコ、オーガニック、ホリスティック、○○セラピー、お話会。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のないトンデモ健康法をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。twitter:@YamadaNojiru

<文/女子SPA!編集部>

【女子SPA!編集部】

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