『ちょうどいいブスのススメ』炎上を『ブスの本懐』著者はどう見たか?/カレー沢薫

『ちょうどいいブスのススメ』炎上を『ブスの本懐』著者はどう見たか?/カレー沢薫

ドラマ『ちょうどいいブスのススメ』。読売テレビ公式サイトより https://www.ytv.co.jp/choibusu/



 来年1月から始まるドラマ「ちょうどいいブスのススメ」(読売テレビ、日本テレビ系放送予定)について、批判が高まっています。

 このドラマは、女性芸人である「相席スタート」山崎ケイの同名のエッセイ本を原作とし、夏菜が主演を務めると発表されています。

「ちょうどいいブス」という言葉や、番組コンセプトについての疑問・批判の声がTwitterを始めとしてかなり多く出ていますが、現時点で制作サイドからのコメントはありません。

(12月21日追記:当初のタイトル『ちょうどいいブスのススメ』から『人生が楽しくなる幸せの法則』へとドラマ名が変更されました。)

 この状況を、著書『ブスの本懐』、続編の『ブスのたしなみ』も大人気のカレー沢薫さんが読み解きます。

(以下、カレー沢薫さんの寄稿です。)

◆同じ「ブス」という言葉を冠した本を出している者として…

「ちょうどいいブスのススメ」がドラマ化するという報を聞き、どんなドラマか知らないが、ブスの波が来ていると感じ、同じ「ブス」という言葉を冠した本を出している者として「乗るしかないこのブッスウェーブに」と早速便乗する準備を始めた。

 しかしそれが瞬く間に大炎上してしまったので「乗る神輿(みこし)を間違えた!」と急いでハッピを脱いでいるところで「ちょうどいいブスのススメ炎上について記事を書いてください」という仕事が来たので、少なくともこの作品のおかげで、約ツェーマン(原稿料)儲かった、まずそこはお礼を言いたい。

 今回の「ちょうどいいブスのススメ炎上」、憤っている人の多くがそのタイトルとドラマコンセプトにカチキレており、原作のエッセイを読んだという人が少ない。

 私が筆者なら、どうせ怒るなら本を買ってから怒ってくれと思うだろう、ちなみに読む必要はない、買ってくれたならその時点でメロスのように激怒して邪智暴虐の俺を除きに来ていい。

◆原作のエッセイ本「ちょうどいいブスのススメ」を読んでみた

 よってまず私も激怒する前に、原作となった山崎ケイさんの「ちょうどいいブス」を読んでみた。

 この本は所謂「モテ指南本」である、デザイン性にあまり優れていない女が機能性を駆使して最終的に美人よりモテようという趣旨だ。

 そのテクニックが「男に「ちょうどいいブス」と思わせる」ことなのである。

 このモテテクについて賛否はあるだろうが、モテるというのは「相手に気に入られる」ということだ、それにも係らず相手のために一切自分を変えたくないし媚びたくないというなら、好みのタイプ「ラオウ」と書いている男を狙うしかない。

 つまり「ありのままのブスでモテたい」と言ったらそれはそれで怒られるのだ。

 つまり、個人が男にモテたいと願いそのために「ちょうどいいブスに俺はなる!」と両拳を天に突き上げているなら、止める権利はない。

「海賊王に俺はなる」と言っているルフィに「いや、賊はダメですよ」と言う奴がいたら興ざめだろう。

◆ドラマは突然「この世の全ての女に向けて」になってしまっている

 このように、原作ははっきりと「男にモテるための本」なので、モテたいと思っている人、さらにその方法として「ちょうどいいブスになる」というキャッチにチンと来た人だけが手に取れば良いだけであり、原作に対しては「ためになった」という意見も多い。

 だが原作では「デザインに自信はないけどモテたい女向け」だったものが、ドラマは「世の中の多くの女性たちは、実はこう思っているのではないでしょうか?私って美人じゃないけどブスでもない…」と突然「この世の全ての女に向けて」になってしまっている上「大体の女はそう思ってるでしょ?」と決めつけから始まっているのだ。

 もちろん全女性の中には「男に気に入られたい」などとは微塵(みじん)も思ってない人も含まれているし、自分のことを美人と思っている人、逆に唯一無二のオンリーワンかつナンバーワンのドブス様だと自負している方も全部入っている。

 ドラマはそれらを全部捕まえて「あなたたちの生き方は間違いだらけ!まずは自分が思っている以上に自分がブスだと言うことを受け入れなさい!」と、まず上から一喝なのだ。

◆「こいつちょうどいいブスだな」と男にペロペロに舐められる「さらなる低みを目指す」斬新なドラマ

 この時点で何様だとお怒りの方も多いと思うが、落ち着いて欲しい、これを言っているのは「ちょうどいいブスの神様」なのだ。

 何様どころかまさかの神様目線、もちろんこれはドラマ独自の設定だ。

 そしてドラマのイケてない女子たちはこの「ちょうどいいブスの神様」の厳しい手ほどき受けながら「ちょうどいいブス」を目指すための厳しい修行の日々を送る、というのがドラマ「ちょうどいいブスのススメ」の概要である。

 厳しい修行の末に「こいつちょうどいいブスだな」と男にペロペロに舐められるという「さらなる低みを目指す」斬新なドラマなのである。

 どうせ厳しい修行をするなら、いい女や、男に「おやっさん!」と尊敬されるドブス様を目指した方が良いのではないだろうか。

◆ブスという取扱い注意な言葉で「天城越え」級に山が燃える

 ブスというのはそもそも取り扱い注意な言葉であり、それ自体に嫌悪を持つ人も多いので使うとしても自薦専用に留めた方が良い。

 つまり本人が「ワイはブスや!プロゴルファーブスや!」と言っているなら良いが、他人が「お前はブスや」と言ったら、ドライバーで頭を300ヤード飛ばされても文句は言えない。

 そんな言葉を全女性捕まえて「お前ら全員ホンマはブスなんやぞ!」と言ってしまったら、天城越(あまぎご)え級に山が燃えるに決まっている。

「女性含め誰もが自分のことは自分で決める」時代において、自発的に思うなら良いが「神」ごときに「お前はブスだ、ちょうどいいブスになれ」と言われ「そうなんだ〜!」となってしまうのは、感覚が古すぎる。

 よって神にお前はブスだと言われた時点で「俺がブスかどうかは俺様が決める」と神の心臓をえぐり出し「神殺しのブス」が爆誕するストーリーなら炎上しなかったのではないか。

◆「結局ちょうどいいブスって誰から見てだよ?」=「男から見て」

 このように、一部の女性向けなものを「全女性共感!」というクソデカ主語で発信した上にそれが「ブス」というニトログリセリンワードだったことが炎上の大きな要因だと思う。

 そしてもう一つは「結局ちょうどいいブスって誰から見てだよ?」というのが大きな燃料となった。

 もちろんこれは「男から見て」である。この「男からどう見られるかで女の幸せ決まる」というのがそもそも古い上、さらにそれが「ちょうどいいブス」という明らかに下に見られている感が余計炎上に繋がったと思われる。

 だからこの「ちょうどいいブス」が自分目線、毎日鏡を見て「今日も俺のブスの湯加減最高だな」と惚れ惚れするのが目的、だというのなら燃えなかったと思う。

 ただ燃えはしないが見る人もいない気はする。

<文/カレー沢薫>

【カレー沢薫】

かれーざわ・かおる

1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。主な漫画作品に、『ヤリへん』『やわらかい。課長 起田総司』、コラム集に『負ける技術』『ブスの本懐』『やらない理由』などがある

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