生活保護から抜け出した女性が語る「“働きたい”とはずっと思っていたけど…」

生活保護から抜け出した女性が語る「“働きたい”とはずっと思っていたけど…」

※写真はイメージです(以下同)

 数回に渡って貧困に陥った女性を紹介してきたが、今回は、うつ病、自殺未遂、生活保護の受給など壮絶な半生の自伝エッセイ『この地獄を生きるのだ』の著者・作家で漫画家の小林エリコ氏、女性の貧困問題を数多く取材してきたノンフィクションライターの中村淳彦氏に貧困の背景について語ってもらった。

◆オンナの貧困は自己責任か?

中村:男性と女性では、貧困に陥る傾向が違います。あくまで僕の主観ですが、男性の貧困者の場合、コミュニケーションが不得意な人が多い印象。女性の場合、コミュニケーション能力が高く、ごくごく普通に生きてきたような人でも貧困に陥ってしまう。

小林:普通に働いて、普通に生きることすら困難な時代ですね。

中村:ひと昔前は若い頃に水商売や風俗で荒稼ぎして、年齢を重ねても夜の仕事で自分の生活程度は稼げていた。しかしいまや学歴も資格もなく、親兄弟とも疎遠で、セックスワークも門前払いみたいな。中間層が普通に風俗で働きだしたので供給過剰ですね。

小林:貧困に陥る原因すべてを自己責任とは言い切れませんよね。

中村:雇用でしょう。最低賃金に近い金額で女性を働かせている。普通に働いても生活ができない。特に厳しいのは介護職や保育、自治体の臨時職員など、公的な力が及ぶ産業です。「国は女性を貧困に固定させたいのか」と疑うほど徹底している。小林さんは著書でご自身が生活保護を受けて、再生するまでの体験を書かれていますよね。

小林:私は短大を卒業後、マンガ雑誌の編集プロダクションに入社したのですが、一日12時間労働は当たり前、月給12万円という労働環境でした。社会保険もないし、残業代も支払われなかった。

中村:小林さんが社会人になった’90年代後半はブラック労働の全盛期。当時は悲惨でしたね。劣悪な労働環境は今もあるものの、ブラックという言葉が生まれたり、人手不足が深刻になったりで、この数年でだいぶ改善されたと思う。

小林:私は高校時代から精神科に通っていたのですが、過酷な労働環境で心身共に病んでしまった。やがて自殺未遂を繰り返すようになり、働けなくなりました。

中村:小林さんはどんな経緯で生活保護を受けたのですか?

小林:通っている病院のスタッフから勧められました。はじめこそ抵抗はなかったのですが、生活保護を受けていることに負い目を感じた時期もありましたね。精神科のデイケアでも「ナマポなんでしょ」って言われた。生活保護を受給していても決して贅沢はできない。私が東京都からもらっていた生活保護費は月12万円ほど。日々の生活は送れても家電が故障したら修理も買い替えもできません。お金がないから友達に会うこともままならない。そんな自分に嫌気がさしたことがあります。

◆社会保障制度の利用は労働市場に戻る手段

中村:真面目な人ほど「生活保護は恥ずかしい」という意識が強い。一方で生活保護を受けながらこっそり副業をして、要領よく生きている人もいる。少なくとも自分の収入が最低生活費に届いていない時期には、生活保護を含む社会保障制度をどんどん利用して、苦しさを軽減したほうがいいですね。

小林:まさに。また、困窮しているときは判断力も鈍っているので、行政の手続きにはソーシャルワーカーなど支援者と一緒に行くのがスムーズだと思います。

中村:小林さんは、どのように生活を立て直したのですか?

小林:通っていた病院の待合室に精神障害の啓発などを行っているNPO法人が出している雑誌が置いてあって、編集者として雇ってもらえないかと直接、電話をしました。後日、マンガ編集の仕事を依頼されて、最初は無給のボランティアでしたが、やがて非常勤雇用で働くようになりました。10年ぶりの仕事です。それまでも「働きたい」という気持ちは、ずっと持っていましたね。「生活保護は働かなくてラクでいい」と揶揄されますが、朝起きても行くところがない、つまり社会での所属先がないことがなによりツラい。

中村:小林さんの場合、それまでのキャリアを生かして、自分ができることに飛び込んだことが功を奏したのだと思います。もちろんハローワークに通って就職活動をするのも王道です。しかし40代の女性は一度仕事をやめてしまうと、学歴もキャリアも認められなくなってバイトの面接すら全部落ちる……という話も珍しくありません。

小林:私の場合、精神的な障害もあるので「精神障害者は働けない」と言われたことがあります。知的障害、身体障害に比べて精神障害者は「こわい」というイメージが先行して、企業が採用をためらうことも多いようです。今は行政の就労移行支援も増えてきていると言えますが、情報が行き届くための制度は不十分に思えますね。

中村:国や行政が女性を貧困に誘導しているのが現実なので、もう自己防衛しかない。社会の動きを読んで自分が搾取されない職種を選ぶことが大事です。そして低賃金の時間労働収入だけに頼るのではなく、賢く副業をするのも生き延びるための策といえます。

小林:今の生活も決してラクとはいえませんが、経済的な自立が精神的な回復につながったのは大きいですね。今は仕事をして家賃も払える、週末には銭湯に行けるし、たまに友達と飲みに出かけられます。以前のように「死にたい」と思うことも少ないので、地獄からは抜け出せたと思っています。

中村:非正規雇用の問題やうつによる離職などは男性にとっても対岸の火事ではない。自己責任論で切り捨てずに、官民問わずセーフティネットを充実させていくことが課題ですよね。

【小林エリコ】

作家・漫画家。’77年生まれ。短大卒業後、エロ漫画雑誌の編集に携わるも自殺未遂し退職。壮絶な半生を綴った『この地獄を生きるのだ』が話題に。現在は通院を続けながら、NPO法人で事務員として働く。ツイッター@sbsnbun

【中村淳彦】

ノンフィクションライター。’72年生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。AV女優へのインタビュー集『名前のない女たち』シリーズが話題に、映画化もされる。最新刊『ハタチになったら死のうと思ってた』(ミリオン出版)

― [オンナの貧困]最前線 ―

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