41歳妻と“ほぼED”夫の妊活地獄。「できなかった夜は妻に罵倒されて…」

41歳妻と“ほぼED”夫の妊活地獄。「できなかった夜は妻に罵倒されて…」

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【ぼくたちの離婚 Vol.10 子供さえいれば #1】

「僕は結婚するまで、1度もちゃんと性交できたことがありませんでした。何人かの女性とは付き合いましたが、うまく中で射精できないんです」

 言いにくいことなのに、それをサラッと語る野々山達夫さん(仮名、40歳)は、40歳にしてはやや老け顔の佐藤二朗似。小柄で恰幅がよく、ほがらかを絵に描いたような笑顔が眩しい。都内のIT企業で法人向けの営業職に就いているという。

◆共通のマニアックな趣味で意気投合

 そんな野々山さんが、のちに妻となる綾乃さん(仮名、43歳)と出会ったのは5年前。社内懇親会の席だった。同じ会社のカスタマーサービスの部署で、派遣社員として働いていた綾乃さんと近い席になり、特撮やアニメといったマニアックな話で盛り上がったのだ。

「僕が特撮博物館の話をしたら、斜め向かいに座っていた綾乃が異常に反応したんです。それまでおとなしかったのに、急に饒舌になって。彼女、特撮以外にも、『太陽の王子ホルスの大冒険』『どうぶつ宝島』といった1970年前後のアニメーション作品にもやたら詳しかったんです。僕らの間だけで、“円谷英二” “金城哲夫” “東映動画”といった単語が高速で飛び交っていて、周りの人たちはポカーンでしたよ(笑)」

 3年ほど前の綾乃さんの写真を見せてもらった。40歳にしては化粧っ気のない、蒼井優を彷彿とさせる和風顔。黒髪は後ろできちんとまとめられ、良くも悪くも突出した個性を感じさせない、おとなしげな風貌である。写真からは饒舌さがあまり伝わってこない。

「僕は大学時代にそっち系のサークルにいて、アニメや特撮界隈は好きなクチだったのですが、女性でこういう趣味の人はなかなか珍しい。聞けば、20代の頃にはシナリオスクールにも通っていたそうです。好きな脚本家の話でも盛り上がりました。それがすごく楽しくて、LINEも交換し、翌月には一緒に映画を観に行く仲になりました」

 アニメや特撮の知識は、野々山さんのほうがやや深かったため、「野々山さんがマニアックなうんちくを綾乃さんに教え、綾乃さんがそれに目を輝かせて感心する」という関係性が快適だったという。

「僕は両親の夫婦関係が理想だったんです。父は群馬で高校の教員をやっていて、母とはお見合い結婚。母はずっと教員と結婚したかったそうなので、願ったり叶ったり。家の中のことは母の発言力が強かったんですが、父は多方面に物知りで、教師だけに人にものを教えるのがうまい。母は父のそんなところに頼りがいを感じていました。夫婦のパワーバランスがうまく取れていたんです」

◆「子供、むずかしいかもしれないよ」

 1年半ほど交際し、野々山さんからプロポーズ。場所は信州方面にある、雰囲気のある一軒宿だった。

「綾乃は笑顔で承諾してくれましたが、その後、囲炉裏端での食事中に少し表情を曇らせて、こう言ったんです。『子供、むずかしいかもしれないよ……』」

 野々山さんには思い当たるフシがあった。ふたりでとある展覧会を観に行った時のこと。展示内容からして、周囲は親子連ればかりだった。親戚にたくさん子供がいて元来子供好きだった野々山さんは、その光景に目を細めて「親子でこういうところに来られるって、いいね」といった趣旨のことを口走っていたのだ。

「プロポーズ時に綾乃は40歳。もし僕が子供を目当てに結婚したいと思っているなら……と懸念したんでしょう。でも、僕にとって子供はマストではありませんでした。どちらかと言えば欲しかったけど、できなかったとしても、綾乃と楽しく暮らせるなら十分。それが本心だったので、率直に伝えました」

 それを聞いた綾乃さんは、心から安堵の表情を浮かべたという。とんとん拍子で話が進み、プロポーズから半年後に結婚。結婚を機に、綾乃さんは別の派遣先に職場を変えた。しかしその直後から、綾乃さんは野々山さんにイライラをぶつけはじめる。

◆不機嫌な人には“勃たない”

「職場が合わないみたいで、すごくストレスを溜めてるんです。家での夫婦の会話が9割5分、綾乃の会社の愚痴になりました。誰それという上司の指示がひどい、誰それという同僚が私より働いていないのに私より評価されている、会社の経理システムが煩雑だ、私みたいな派遣なんてゴミみたいにしか扱われてない……と。

 毎晩毎晩、夕飯を食べている時から寝るまでずっと。外出中もそうです。何かを思い出してスイッチが入ると、途端に愚痴モードになる。正直、こちらは全然楽しくありません」

 楽しかった趣味の会話もほとんどなくなった。

「女性が求めているのは共感であってアドバイスではない。それは色々な人から聞いて知っていたので、とにかく愚痴に付き合いました。そうなんだ、それはひどいね、気持ちわかるよ、と。何十回も何百回も相槌を打って、辛抱強く聞きました。でも、それが何ヶ月も続くと、さすがにつらい。
 それである時、言ってしまったんです。そんなに合わないなら、職場を変えてみたらどうかなって。そうしたら綾乃がキレました。簡単に言わないでよ! って」

 それ以降、綾乃さんの愚痴は、野々山さんに対するひがみを交えるようになった。

「一度卑屈モードに入ると、もう大変です。嫌いな上司や同僚への呪いみたいな悪口を吐き、私は価値がないと泣きながら人生の不満を並べ立て、なぐさめようとすると『達夫は正社員だからいいよね。派遣なんてバカにしてるんでしょ』と攻撃してくる。そして、僕が彼女の知らないことを教えるときの態度まで責めてくるんです。『いつも上から目線で教えてやるみたいに言ってくるの、本当に嫌だ』って。このワンセットがほぼ毎日、繰り返されていました」

 セックスの回数も激減した。

「綾乃は、僕にとって初めて“中で射精することができた”女性だったんですが、それでも3回に1回くらいしかうまくいきませんでした。そのうえ、こうも綾乃がデフォルトで不機嫌だと、輪をかけて勃たない。興奮しないんですよ。何時間も愚痴を言い続けたあげく泣きはらし、苦虫を噛み潰した顔になっている人に対しては……本当に申し訳ないけど、どうしても勃たないんです」

◆子づくりは“逃げ”か、“救い”か

 それでも、野々山さんは妻の不機嫌を緩和したい一心で、“薬”の力を借りて営みを頑張った。“薬”は保険適用外なので、1錠で1000円近くする。

「結婚後、先延ばしにしていた新婚旅行を数日後に控えたある夜のことです。僕が薬を使ってもなかなか勃たずに手間取っていると、綾乃が『新婚旅行は達夫を置いてひとりで行く!』と僕を責めはじめました。

 理由を聞くと、夜中に観たい深夜アニメがあり、それをオンタイムで観たかったのに、僕が放映時間までに射精しなかったせいで観られなかったからだと。その日は暴言がどんどんエスカレートして、僕も僕で取り乱してしまい、ベッドの脇で全裸のまま土下座して何度も謝りました」

 これを機に野々山さんは、セックスに対してはっきりと苦手意識を持つようになってしまう。いっぽう綾乃さんは、営みが減ったことに対して、さらに不満を募らせていく。負のスパイラルによって、夫婦仲はどんどん悪くなっていった。

「結婚から半年ほど経った頃、いつものように卑屈モードに入った綾乃が、ひとしきり荒れたあと、『やっぱり子供が欲しい』って言いだしたんですよ。その時の僕の気持ちは、綾乃は現状に対する“逃げ”として子供が欲しいと言っているのかもしれないという懸念が半分。夫婦が子づくりにより“同じ方向を向く”ことで関係が改善されるのではないかという期待が半分。そんなところでした」

 野々山さんは、会社の先輩男性からこんな話も聞いていた。

「その人も既婚者で、かつては夫婦仲がギクシャクしてたんですが、子供ができてからは、妻の注意と興味がほぼ100%子供に向き、関係性が安定したって言うんです。

 最近子供が生まれたという後輩男性からも似たような話を聞いていて、“取り組むおもちゃを嫁に与えたら、静かになった”だって。さすがにひどい言い方だなと軽蔑しましたが、藁にもすがる思いで望みを託したいという気持ちも、正直僕の中にありました。それほど夫婦関係の行き詰まりに悩んでいたんです」

 野々山さんは綾乃さんに「じゃあ、がんばってみようよ」と言い、妊活をスタートする。野々山さん38歳、綾乃さん41歳。しかし、地獄はここからだった。

◆夕食には毎回すった長芋が…

「綾乃の年齢のこともあったので、最初から体外受精専門の病院に行きました。受診したら、今のところふたりとも問題ないので、半年くらいしてできなかったら、また来てくださいと言われました」

 自然妊娠を狙った妊活がはじまった。

「精力アップに長芋がいいということで、夕食では毎回すった長芋が出ていました。綾乃は葉酸、僕は亜鉛のサプリメントを毎日欠かさず飲んでいましたが、綾乃はこだわりが強くて、僕がネット通販でディスカウント品を買うとキレるんです。なんで正規のルートで買わないの!? そんな怪しいやつ、効かないかもしれないじゃない!って。商品は同じものなんですけどね……」

 妊活アプリで排卵日を把握し、その前後数日間を狙った営みの計画もきっちり決められた。

「1ヶ月のうち着床しやすい何日間かは必ず定時で帰宅する、というルールが僕に課せられました。綾乃は夜更かしが嫌いなので、僕が残業で遅く帰ってからの行為はナシなんです。綾乃は派遣社員だから定時で帰れますが、僕は定時に帰るために仕事の調整をするのが大変でした。

 その期間中は8時ごろ帰宅して、夕飯を食べたらすぐベッドに直行。10日連続で営みという時期もありました。もともと勃ちの悪い僕は、都度“薬”を飲んで挑んでいましたけど、かなりきつかったですね」

◆「“子づくり一直線”と書いて寝室に貼れ」

 綾乃さんはセックスの最中にもダメ出ししてきた。

「『もっと深くまで!』『ちゃんと全部(精子)出したの?』といった指示やチェックがすごく厳しくて……。それでなくても苦手意識のあったセックスが、今度は完全に“作業”になっていくのを感じて、気が滅入りましたね」

 しかし、なかなか結果は出ない。5ヶ月ほどが経つと、綾乃さんは以前にも増して精神が不安定になっていった。

「綾乃は、狙っている期間に1日も欠かさず性交できていないと、僕をものすごく責めるんです。『先月は1日できない日があった。だからダメなんだよ!』とか。ただ、仕事の都合でどうしても早く帰れないとか、“薬”を使ってもうまく中でいけない日がある。とはいえ、それを言っても機嫌が悪くなるだけなので、いつも平謝りでした」

 綾乃さんは当初、結果が出ないのは自分の年齢のせいだと落ち込んでいたが、次第に野々山さんを責めるようになる。

「もともと性欲があまりなく、勃ちもよくない僕としては、そこは強く出られません。綾乃には心から申し訳ないと思います。でもこればかりは、どうすることもできない。これはギャグみたいな話なんですが、ある日『達夫のやる気が足りないんだ』と散々なじられたあと、『紙に“子づくり一直線”と書いて寝室に貼れ』と命じられました」

 しかし、この時はまだ地獄の序章でしかなかった。

※後編は3月23日配信予定。

<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>

【稲田豊史】
編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。
【WEB】inadatoyoshi.com

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