ワクチンは必要?反ワクチン派はおかしい?専門家にゼロから聞く

ワクチンは必要?反ワクチン派はおかしい?専門家にゼロから聞く

画像はイメージです(以下同)

 インフルエンザ、麻疹(はしか)、B型肝炎、髄膜炎菌、子宮頸がん…などなど、さまざまな病気に対するワクチンが開発されています。中でも子宮頸がんワクチン(正式にはHPVワクチン)は副反応が大きく報道されたことで注目されました。インフルエンザワクチンも効かないし打たないほうがよいという人がいます。

 ではワクチンは怖いものなのでしょうか。

 ワクチンには猛毒が含まれているから打たない方がいい、ワクチンを推進している人たちは金の亡者だという反ワクチン派の人もいますが、それは本当でしょうか。

 医師で、また薬剤師でもあり、感染症の研究をしている峰宗太郎先生に聞いてみました。峰先生は今、ウイルス学と病理学の研究のために米国国立衛生研究所(NIH) にお勤めで、世界の医療のスタンダードもよく調べておられます(以下、回答はすべて峰先生)。

◆1.なぜワクチンを打つと感染しなくなるの?

 ワクチンの説明をする前に、まず病原体によって起こる病気である感染症に対する免疫の仕組みを簡単に説明しましょう。ウイルスや細菌などの病原体が体に入ると、体の中の免疫細胞がこれらの異物を退治しようとします。インフルエンザなら高熱や鼻水が出るのはこのためです。

 病原体と戦っているうちに体はそれら病原体の形の一部を認識して記憶し、それ以降同じ病気にかからないように退治します。そのときできるのが「抗体」というものです。そしてこの作用を利用したのがワクチンです。

 ワクチンは病原体に似た形をもつ成分からなります。ワクチンを打つと、体は病原体が入ってきたものと勘違いをし、免疫機能をもつ細胞がこれに対して反応するのです。

 そうすると病原体の特定の形にだけ反応する「抗体」を作ります。この抗体は、病原体ごとに違った形のものがつくられるのですが、この抗体が病原体とくっつくことで免疫が機能を発揮します。その結果、感染しなくなったり、症状を軽くできたりするのです。

 一度この反応が起こるとその抗体は長い間作られ続けます。ワクチンはこのような仕組みを使って、体に抗体を作らせることが目的なのです。抗体がつくられ続けている間、感染を防ぐことができます。

◆2.ワクチンに劇薬が入ってるって、ほんと?

「劇薬」とは、大量に摂取すると死亡する可能性がある薬のことです。そういう意味ではワクチンも劇薬に指定されます。しかしこれは量の問題です。

 例えばコーヒーや紅茶、緑茶に入っているカフェインも劇薬です。でもコーヒーを毎日飲んでいる人もいますよね。コーヒーは健康にいいなどの論文もたくさんあります。劇薬であるかどうかと副作用などが出るかはまず関係なく、量によって毒性がでないことももちろんあるのです。よって「劇薬だから怖い」ということはなく、ワクチンで打つ程度の少量であれば問題ありません。

 ワクチンには強い影響を及ぼすレベルの毒は入っていません。反ワクチン派のやり玉にあがりがちなのは保存料。保存料としてわずかな水銀化合物が含まれているのですが、これも問題ない量であることが分かっています。

◆3.ワクチンを打っていると感染が減る証拠はある?

 ワクチンが効くことを証明した詳細な研究は多数あります。

 ワクチンの効果がわかる一番の良い例は天然痘です。痘瘡(とうそう)とも呼ばれたこの病気は世界中で流行り、多くの命を奪いました。しかしワクチンによって発症数は減少し1980年に根絶されました(WHOによる世界根絶宣言)。このようにワクチンは感染症を確実に防げるのです。

 さらに、社会全体の何%の人がワクチンを打つと流行しないかも分かっています。例えば麻疹は94%ぐらい、ムンプス(おたふく風邪)は86%ぐらいの人がワクチンを受けていれば、これらの病気は流行りません(Vaccines Volume 34, Issue 52, 20 December 2016, 6707-6714 など)。

 しかしインフルエンザワクチンはちょっと特殊です。インフルエンザウイルスはウイルスの形が素早く変化していくことや、たくさんの型があることなどから、ワクチンによる感染の予防効果がやや限られているのです。しかし、インフルエンザワクチンは、罹った時に重症化を防ぐことができるという役割もあるので有用なのです。

◆4.ワクチンの副反応は怖くないの?

 ワクチンの副作用のことを特別に「副反応」と言っています。

 副反応には打った場所の痛みや腫れ、めまい、失神、発熱、気分の悪さなどがあります。これは多いものだと2人に1人の割合で起こってしまうものもあるのです。

 さらに可能性としては低いのですが、アレルギーやアナフィラキシーショックなども起こりえます。そしてもっと稀なものでは脳脊髄炎などの重篤なものもありますが、これらは100万回打って1回起こるぐらいの頻度です。

 たしかに副反応は起こってしまうと怖いものもあるのですが、ワクチンで防いでいる感染症の方がはるかに怖いことを忘れてはいけません。

 ワクチンが開発されている感染症は、かかると重篤な影響があったり死に至る可能性があったりするものです。例えば麻疹は罹患すると1000人に1人が命を落としますが、ワクチンを打っていればそもそも麻疹にかかりません。麻疹にかかって1000人に1人が命を落とすか、ワクチンを打って100万回に1回の重篤な副反応を恐れるかという考え方も大事ですね。

◆5.医者でも反ワクチン派がいるってことは、考え方の違いではないの?

 医者でワクチン反対派の人のほとんどは、商売やお金のためだと思います。

 そう言い切るのには理由があります。公衆衛生の観点からいうとワクチンは安価で効果が高く、費用対効果にも優れます。そして何より、医療行為の中では極めて安全性が高い行為の一つなのです。

 感染症にかかってしまうと治療が困難であったり合併症を防げなかったりする場合も多く、根本的に予防してしまえるワクチンは非常に頼りになるのです。

 一部の医師がワクチンに反対しているのを「考え方の違い」だと思う方もいるでしょう。しかし彼らは「自然」をうたう製品の販売や、自分たちのワクチン講座、謎の「証明書」発行のあるような講習を実施してビジネスをしていることがほとんどです。そして、医師免許を持ってはいますが、大きな病院や大学といった信頼できる施設に勤めていないことが多いこともわかります。

 医師免許を取得しても、そこから何年も訓練をしなければ医師としては半人前です。キャリアの早い段階で訓練を止めてしまい、お金儲けに走った人に反ワクチンの医師が多いのも特徴です。そういった人は、よく本を書いて世間にアピールします。そして患者を最後まで診ません。自分のところにきた患者さんが危なくなると、他の病院などに押しつけるのです。信じる医者も選ばないといけないということですね。

◆6.各ワクチンの効果を教えてください

 まずほとんどのワクチンは、その感染症にかかることを防ぐ「感染予防効果」が大事です。

 麻疹(はしか)、風疹(三日ばしか)、ムンプス(おたふく風邪)…などはそれぞれの病気を起こすウイルスに感染することを防いでくれますね。

 B型肝炎ウイルスワクチンは、最近になって定期接種となったワクチンですが、これは肝臓に炎症が起こる肝炎という病気を防ぎます。肝炎が長く続くと肝癌になることがありますので、癌を防ぐ効果もあるワクチンとも言えます。

 ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVワクチン、いわゆる子宮頸がんワクチン)は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスのうち、癌を起こすことのあるタイプのウイルスの感染を防ぎます。このウイルスによっておこる癌には、子宮頸癌、中咽頭癌、肛門癌、陰茎癌などがあります。ウイルスの感染を防ぐことで、結果的に癌の発症を防ぐことができます。

 BCGは結核のワクチンですが、これは子どもの結核の重症化を予防する効果が主なものになります。感染も防ぐことができますが、その効果はやや弱いものです。

 インフルエンザワクチンは先に述べたように、感染予防効果がやや低いのですが、重症化することを防いでくれます。インフルエンザによって脳に障害がおこるインフルエンザ脳症は、ワクチンを打っていない人により多く起こることが分かっています。

◆7.インフルエンザで病院に行かずに治すのはいけないこと?

 普段から健康な人であれば、インフルエンザが疑われる発熱、鼻水、咳などがあるときには、家で栄養をとってゆっくり休養してもらうことが一番です。その理由は、たとえインフルエンザ治療薬を飲んでも、発熱している時間が短くなるという効果がほとんどであること、出歩くことで他の人にうつす可能性があることからです。持病がある方や65歳以上の高齢者などの場合は受診して診療をうけることが大切ですね。

◆8.薬を飲むと抗体ができにくいとか、ワクチンでできる抗体は弱いというのは本当?

 インフルエンザに対する薬である抗インフルエンザ薬を使用すると、抗体がつくられにくくなるというデータはあります。しかし実は、感染して抗体ができても、インフルエンザには多数の型があることや長く抗体が作られない特徴があるために次のシーズンにまた感染することもあるのです。

 先に述べたようにインフルエンザの場合には予防効果は決してとても高いわけではないのですが、集団で接種していると感染の広がりを防げますので、ワクチンを打って予防するのがよりよいといえますね。

 一般にワクチンでできる抗体は、自然に感染した場合より長く作られ続けないことがありますし、反応自体も感染症よりは弱いので数回打たないといけないことが多いのですね。しかし、感染症にかかるとそれ自体が重症であったり、合併症がでたり、死亡することもありますので、ワクチンで抗体をつけることの方がよいことになりますね。

<取材・文/和久井香菜子>

【和久井香菜子】

ライター・編集、少女マンガ研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。英語テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。視覚障害者によるテープ起こし事業「ブラインドライターズ」運営

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