86歳で大人気のカリスマ女性。性差別と戦った半生とは

86歳で大人気のカリスマ女性。性差別と戦った半生とは

『RBG 最強の85才』より

 今年3月に86歳になったルース・ベイダー・ギンズバーグ。アメリカの歴史上2人目の女性最高裁判事を務め、故ジョン・F・ケネディがJFKと呼ばれるように、RBGと呼ばれるほどの存在です。

 彼女の生涯をつづった絵本はもとより、ワークアウトDVDからマグカップまで売られているほどのカリスマ的人気を誇るルース・ベイダー・ギンズバーグ。

 トランプ大統領への辛らつなコメントや高潔な人柄に加えて、トレードマークのオシャレなメガネや襟元でも知られる彼女が、現代アメリカ社会でポップアイコンになったのはなぜなのか―。

 5月10日に公開された映画『RBG 最強の85才』は、今年の第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞と主演歌賞の2部門でノミネートされた傑作ドキュメンタリー。しかも2人の監督、7人のプロデューサー、撮影監督、作曲家など制作陣のキーパーソンがほとんど女性で占めるという話題作です。

 今回は、監督/脚本を共同で務めたベッツィ・ウェストと、ジュリー・コーエンにインタビューしました。

◆ドキュメンタリー映画化に反対だったルース・ギンズバーグ

――著名人の人生をなぞるという伝記ドキュメンタリー映画とは違うアプローチをとりましたね。

ベッツィ・ウェスト監督(以下ウェスト監督)「ルース・ギンズバーグを英雄としてではなく、人間として描きたかったんです。普通、伝記ドキュメンタリー映画は、主人公が何年にどこで生まれて……というふうに、過去から現代まで年代順に追っていきます。

 でも私たちはあえて、年老いた女性の物語としてストーリーを展開し、現在の彼女を作ったものはなんなのかということを探るように、過去を追いかけました。そこにユーモアを加えて、通常のドキュメンタリー映画を“楽しく”観てもらうように工夫したんです」

――確かにドキュメンタリーにしては珍しく、観ていて楽しかったです。特に、ネットに流れるミームをたくさん使用していたのはなぜでしょうか?(海外でのインターネット・ミームとは、フォトショップなどで作るおもしろ画像にパンチの効いたキャプションを加えたものを指す)

ジュリー・コーエン監督(以下コーエン監督)「ミームを作るような若い世代にルースが応援されているということを観客に伝えたかったのが、まずひとつの理由です。もうひとつの理由は、ミームって見ていて楽しいから(笑)!

 編集者やアソシエート・プロデューサーのチームが一丸となって、ネットからルースのミームを探し出したんです。映画にも出てきますが、ルース本人も映画『ワンダーウーマン』(2017年)の写真に自分の顔がすり替えられているのを見て、大笑いしていましたよ!(笑)」

――ルースは当初、ご自身がドキュメンタリー映画化されるのに反対していたとか。

ウェスト監督「最初にルースに映画化を打診したときには、『まだ早いわ』と言われたんです。でも、「ノー」と言われたわけではなかったので(笑)、数ヵ月後に新しい企画を提案しました。すると、数年かけてインタビューを何回かしてくれることに応じてくれたんですね。私たちが取材してもよい人たちにも紹介してくれたので、映画化が実現しましたが、投資家を見つけるプロセスを含めると、ルースに打診してから撮影が始まるまでに1年かかりました」

◆分断されるアメリカのシンボル――トランプ大統領vs.ギンズバーグ判事

――映画の製作中にトランプ大統領が就任しました。これは映画製作にどんな影響を与えたのでしょうか? また観客にはどのようなインパクトがあったのでしょう?

コーエン監督「トランプ大統領の選挙キャンペーン中に、ルースは彼についてネガティブなコメントをしましたが、それがニュースとして大きく取り上げられました。これによって、多くのアメリカ人がルースに注目するようにうなったんです。

 特に、トランプ大統領が就任したことに不満を抱えた人々の目には、ルースが彼とは真逆の存在として映りました。憲法違反のような発言を繰り返すトランプ大統領と憲法を守る最高裁判所のルース・ギンズバーグ判事……この2人は、アメリカ社会を映しだす対極的なシンボルです」

――つまり、トランプ大統領の存在がルース・ギンズバーグ判事をリベラル派のポップアイコンに押し上げたということですか?

ウェスト監督「トランプ大統領が最高裁判事に保守派を指名したことによって、アメリカの最高裁は政治的に以前よりも保守的になりました。終身の最高裁判事が保守寄りになるということは、アメリカ社会に影響を及ぼします。こういった理由から、リベラル派のルースの存在は、トランプ大統領によってさらに大きくなったとも言えるでしょう。

 ただ、トランプ大統領の就任以前の2013年ごろから彼女は既にアイコンでした。その一番大きな理由は、彼女が男女同権を求めて1960年代からずっと闘ってきた女性だったからです」

◆男性への性差別にも挑んだルース・ギンズバーグ

――1960年代初頭から「女性の権利プロジェクト」の立ち上げに関わり、顧問弁護士として最高裁で様々な性差別の訴訟に勝ったルースですが、“女性が性差別を受けている”という訴訟だけではなく、“男性も性差別を受けている”という訴訟も起こしていたことに驚きました。

コーエン監督「ルースは頭脳明晰で非常に戦略的な弁護士でした。男性優位社会で女性差別をなくすには、男性を味方につける必要もあったんです。なので、男性も性差別されているという訴訟を起こし、男性への性差別もなくそうとしました。

 こうすることによって、男性からの共感も得て、男女同権への運動を広めていくことが可能になったんですよ。もちろん、性別に関わらず性差別をなくす、というのが彼女の信念ですが、本当に賢い女性です」

◆ルース・ギンズバーグは死んでいるという陰謀説まで……

――ルース・ギンズバーグ判事を応援しているのはどんな社会階層なんですか?

ウェスト監督「あらゆる年齢層の人達が映画を観に来てくれました。ルースのコスプレをした8歳の女の子も(笑)!性差別を受けてきた80代以上の女性や『(ルースの夫)マーティン・ギンズバーグを映画に登場させてくれてありがとう。男性のロールモデルとして彼を知ることができてよかった』と言ってくれた男性もいましたね。

 ルースのファンにはやはり民主党派のほうが共和党派より多いでしょうが、「ルースの政治的意見には必ずしも賛成しないけれど、女性たちのために闘った彼女にとても感謝っしている」と私に話してくれた共和党派の女性の観客もいました」

――映画はルースを批判する男性たちの声で始まっていますが、誰なのですか?

コーエン監督「主に極右のトーク番組やラジオ番組の男性司会者ですが、トランプ大統領の声も混じっています(笑)。特に年配の男性のなかにルースの敵が多く、法律的・政治的意見だけではなく、彼女の外見、ジェンダー、年齢についてまで攻撃します。

 要は、お年寄りの女性が男性に向かって意見を言う、なんてことが許せないんですね。ルース・ギンズバーグは本当は死んでいてすべては陰謀だという説を流す極右もいるんですよ!(笑)」

――右寄りの人たちはこの映画を観たと思いますか?

ウェスト監督「どうなんでしょうね。映画が公開される前に『こんな映画なんて絶対に観ない』と彼らが言っていたのを聞いていたので、公開後には彼らの攻撃を覚悟していたのに、彼らは何も言ってきませんでした。ということは、観てないんじゃないかな……(笑)」

◆“逆境”と母親から培った強さ

――ハーバード・ロースクール在学中や就職時に受けた性差別、男女同権の訴訟、保守派の敵……そのほかに、ルースはこれまで2度の癌を乗り越えています。彼女の強さはどこから来ると思いますか?

ウェスト監督「彼女の強さは、逆境の人生と母親から学んだものだと思います。彼女が小さなときに姉が、高校を卒業するときには母が亡くなりました。どちらかというと貧しい、ブルックリンのユダヤ人家庭で育ちました。

 ですが母親はルースには絶対に一流の教育を受けさせると心に決めていて、ルースを連れて図書館にできるだけ通い、彼女の知性を磨きました。母親が与えてくれた教育と授かった知的才能を活かして、世の中に貢献したいという強い願いが彼女にはあります」

――ルースの母親は「淑女であれ、そして自立せよ」という素晴らしい言葉を遺していますよね。

ウェスト監督「ルース自身も素敵な言葉をたくさん言っていて、私が好きな言葉は「怒るのは時間の無駄」というもの。これは、“怒りを感じてもよいけれど、怒りに飲み込まれてしまうと自分自身に負けてしまう。怒りはベストの自分自身を引き出せない”という意味。まさしく賢者の言葉ですよね」

◆キャリアの成功に欠かせない資質とは…?

――ルースが仕事で成功した理由には、夫マーティンの存在もあったのでは?

コーエン監督「マーティンはユーモアに溢れ、常に物事をポジティブに見る男性でしたね。だからこそ、人生のどんな局面に立っていても楽観的にいられる……これはキャリアの成功に欠かせない精神力です。ルースは癌に対してさえも感謝していると話してくれました。痛みを知ったからこそ、生きることに感謝できるようになった……と」

ウェスト監督「マーティンの母親もルースとマーティンの結婚式で、『結婚生活では、たまに耳が聞こえなくなったほうがいいわよ』とルースにアドバイスをしたそうです。マーティンは素晴らしい男性でしたが、もちろん欠点もあったはず。パートナーの欠点にときには目をつぶるということも結婚生活では大切みたいですね(笑)」

◆女性は戦略的に闘う必要がある

――男性優位社会で壁に直面する女性たちへ、なにかメッセージはありますか?

ウェスト監督「人生で最悪の出来事だと思っても、悲観的にならないこと。ルースは、ロースクールを卒業しても女性だからという理由で、弁護士として就職できませんでした。もし、彼女が就職できていたら……? 最高裁判事にはなっていなかったでしょうね。

 だから、最悪の出来事もひょっとしたら最良の出来事になるのかもしれない。人生がうまくいかないときは、過剰に反応しないことです。もしかしたら、より良い方向に人生が向かっているのかもしれませんから」

――アメリカでは女性の映画監督はたったの4%しかいないと聞きました。

ウェスト監督「映画業界に限らずどの業界でもトップはほとんどが男性です。1960年代以降、女性は様々な分野で職を得ることができました。当時は、女性は就職のチャンスさえ与えられたら、きっと男性と同じようにトップまで上りつめることができる……と思われていました。

 でも実際は、女性がトップになるまでにはたくさんの障害があり、50年経ってもまだまだ性差別はある……。ルース・ギンズバーグの意思を受け継いで、私たち女性はこれからも、性差別を打ち破るために戦略的に闘っていかなくてはいけないと思います」

<文/此花さくや>

【此花さくや】

映画ライター。ファッション工科大学(FIT)を卒業後、「シャネル」「資生堂アメリカ」のマーケティング部勤務を経てライターに。アメリカ在住経験や映画に登場するファッションから作品を読み解くのが好き。Twitter:@sakuya_kono

関連記事(外部サイト)