大反響「木のストロー」を生んだ女性社員のド根性 「会社は猛反対でした」

大反響「木のストロー」を生んだ女性社員のド根性 「会社は猛反対でした」

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ある時ふと、会社で、頑張り方がわからなくなる……。誰にでもそんなことがあるのではないでしょうか。

 住宅会社のアキュラホームで広報を担当する西口彩乃さん(1989年生まれ)も、そうした体験があると話します。

 実は西口さんは、広報の仕事をしながら、2018年に“世界初”の木のストローを開発してしまった人なのです。その過程は昨年刊行された著書『木のストロー』で描かれていますが、まるでドラマ『下町ロケット』のよう。モノづくりの素人だった若い女性社員が、なぜ住宅会社と関係なさそうな木のストローを開発したのでしょうか?

◆“世界初”の木のストローを開発した若い女性社員

 営業時代には、入社2年目で営業成績全国3位、所属する等級ではトップになったこともある西口さん。

 でも、ある日突然、営業から全く未経験の広報に異動となり、「何をどう頑張っていいかもわからなくなりました」と、西口さんは言います。見かねた上司は、彼女を、国土交通省の記者クラブというところに連れていきます。

「まずこの記者クラブに通って、記者の方に顔を覚えてもらうところから始めようと考えました。でも、そこに集まる記者の方は、男性のベテラン記者がほとんどで、みな忙しくピリピリしており、とても気安く話しかけることはできませんでした。

 時には、差し出した名刺を投げられたこともあります」

◆だめ社員から営業トップに

 でも、彼女は「ガッツの人」です。もともと、営業時代もそうでした。彼女は決して、バリバリの営業ウーマンタイプではありません。

「入社したばかりのころは、日報の今日の行動という項目に『作業しています』と書いたり、目標を『ぼーっとしません』などと書いていた、だめ社員でした。

 しかも、入社早々、不注意から車で自損事故を起こしてしまったんです。営業に必須だった車の運転ができなくなってしまい、しばらくは事務をしていましたが、どうしても営業をしたくて上司に頼み込んで、例外中の例外で、車なしでの営業を認めてもらいました」

 車がないと移動にも時間がかかり、あまりたくさんのお客さんに対応できません。それでも西口さんはお客さん一人一人にとことん向き合い、全国トップの成績をおさめました。

 入社2年目の女子が、車なしでトップになったということで、社内ではちょっとした話題になったようです。

 そんな彼女なので、慣れない広報の仕事も、持ち前のガッツで切り拓いていきます。

 そうして数年がたち、仕事にもずいぶん慣れた2018年のお盆休み、西口さんは、一本の電話を受けました。

◆「すっぽん」と言われるほど出し続けた企画

 それは、国交省の記者クラブで、唯一普通に話のできたジャーナリストの竹田有里さんからの電話でした。竹田さんとは年も近く、仕事上でもいろいろお世話になることが多かったと、西口さんは話します。

 電話の内容は、「アキュラホームで木のストローをつくれないかな?」という唐突なものでした。

 竹田さんは、その年の7月に起きた西日本豪雨で、土砂災害が拡大した原因の一つは、間伐など適切な森林管理がされていなかったことだと知り、間伐材を使って何かできないかと考えていました。

 ちょうどそのころ、海洋プラスチックごみ問題が話題となり、スターバックスなど大手企業がプラスチックストローの廃止を決めたことが報じられていました。そこで竹田さんは、木造注文住宅を手掛けるアキュラホームの西口さんに、間伐材を使った木のストローをつくる相談をしたのです。

 西口さんは、「お世話になっているジャーナリストの方からの相談に応えたい」という思いから、ストローづくりを模索します。

 会社からはなかなかゴーサインはでませんでした。「うちはストロー会社じゃない」と反対され、持ち前のガッツがさく裂します。

 何度、ダメ出しされても企画書を書き直し、上司には「すっぽんのようだ」とあきれられ、さらには役員のトイレの出待ちまでして、ようやく役員会議にかけてもらうことになりました。

 その結果、「開発だけならOK」という条件付きの許可をもらうことができました。

◆「助けを求める力」

 そこから、モノづくり素人女子のストローづくりが始まります。

 開発は主に西口さんが担当し、発案者の竹田さんは、材料の調達や販路の開拓などを受け持ちました。

「知り合いの大工さんに、木をくりぬいてストローの形にしてもらったり、木を紙のように薄くスライスしたものを巻いてみたり。広報の業務を終えたあと、夜な夜な会社でいろんな実験を繰り返して、試作品のストローで飲み物を飲んでもらっては改良を繰り返すという日々でした。社内の人だけでなく、社外の人にも助けを求めました」

 この「助けを求める力」が、のちのち大きなものを生むことになるのですが、このときはまだ、なかなか「正解」が見えませんでした。

 次第に焦りがつのるなか、最初の転機は、製造会社が見つかったことでした。

 西口さんがインターネットで探した会社に、協力をもとめて電話をかけまくり、どこにも全く相手にしてもらえないなか、唯一、電話を折り返してくれた小さな会社でした。

 もの作りのプロが加わったことで、開発が一気に加速します。

 また、ひょんなことで知り合ったザ・キャピトルホテル東急の当時の副総支配人が、木のストローを気に入ってくれ、ホテルでの導入をかけあってくれることになりました。そして利用者の目線でとことん開発に付き合ってくれて、最終的にホテルへの導入が決まります。

 2018年12月、アキュラホームとザ・キャピトルホテル東急の合同記者発表で、木のストローは、初めてメディアにお披露目されました。その反響は大きく、その日の午後のニュースでさっそく報じられ、Yahooのトップニュースになるほどでした。

 翌日から問い合わせも殺到し、反響は年が明けても続いたそうです。

◆木のストローが、G20で“世界デビュー”

 そして、木のストローは近年の脱プラスチックや海洋プラスチックごみ問題の波にのり、さらに新たな展開をしていきます

 まず、社内で木のストローのプロジェクトが発足、自社で製造し、普及させていくことが決まりました。

 それからほどなくして、2019年に開催されたG20の首脳会合と関係会合すべてで、木のストローが採用されることになります。木のストローの「世界デビュー」でした。

 また、横浜市とのコラボレーションで、木のストローの「地産地消モデル」という、これまでにない試みが誕生しました。これは市が所有する水源林の間伐材を使い、市内の障がい者施設で木のストローを製造して、市内の商業施設で消費するというモデルです。

◆一人では何もできなくても

 木のストローはこれまでいろいろな賞も受賞しました。

 中でも「グッドデザイン賞」は2年連続受賞という快挙。加えて今年は、西口さん念願の「第29回地球環境大賞 農林水産大臣賞」(2020年)も受賞しました。

「この賞を受賞することで、これまで助けてくださった方々に、少しでも恩返しをできればと思っていました」と、西口さん。

 西口さんは最近、開発の裏舞台をまとめた書籍『木のストロー』を出版しました。その誕生秘話は、木のストローができるまでも、できてからもトラブルの連続で、さながらジェットコースターのような展開。

 そして、問題に直面し、翻弄され、迷い、それでも前に進む西口さんの等身大の姿に、勇気と元気がわいてきます。また、木のストローに関わった社外の人々のコラムからは、木のストローが多くの人の熱い思いに支えられてきたことも伝わってきます。

 西口さんは言います。

「私は一人では本当に何もできません。でも、たくさんの人とつながることで、これだけ大きなことができました。もし今、何かに迷っている人がいたら、私の体験が、一歩を踏み出すきっかけになればいいなと思っています」

【西口彩乃さん】

1989年、奈良県生まれ。立命館大学理工学部環境システム工学科卒業。2012年、木造注文住宅会社の株式会社アキュラホームに入社。営業職を経て、2014年より広報を担当。2018年から「木のストロー」の開発に携わり、2019年1月、ザ・キャピトルホテル東急に木のストローが導入された。2019年に開催されたG20のすべての会合で木のストローが採用され、その後も様々な広がりを見せている。

<文/女子SPA!編集部>

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