ビートたけし、なぜ今さら離婚?家庭を持っても諦められない男たち

ビートたけし、なぜ今さら離婚?家庭を持っても諦められない男たち

『ビートたけしのオンナ論』サイゾー

 6月12日に明らかになったビートたけし(72)の離婚。元夫人が、財産100億円が自身に分与されたという報道への反論コメントをメディアに送るなど、まだまだ話題は尽きないようです。

 離婚した男性に離婚の経緯と身の上話を聞くルポシリーズ「ぼくたちの離婚」を好評連載中の稲田豊史(いなだ・とよし)さんが読み解きます。(以下、稲田さんの寄稿)

◆たけし、72歳でなぜ離婚?

 ビートたけしさんが40年近く連れ添った妻・幹子さんと離婚した。離婚に際し、たけしさんの莫大(ばくだい)な財産の多くが幹子さんに支払われたとか、愛人Aさんの存在なども報じられているが、大事なのはそこではない。たけしさんがなぜ72歳の「今」になって離婚を決意したのか、だ。

 たけしさんと幹子さんの結婚は1980年。2年後に長女の井子(しょうこ)さんが誕生する頃には、既に離婚を前提にした話し合いをしていたという。また、「たけしさんは結婚生活を始めた時から、ほぼ別居状態だったわけで“離婚するのに40年かかったよ”と苦笑いしていました」というたけしさんの知人の話もある(「女性セブン」2019年6月27日号の記事より)。

 幹子さんへの愛情がずっと前から冷めていたのなら、離婚は30年前でも20年前でも10年前でもよかったのではないか? あるいは、ここまで離婚しなかったのなら、このまま離婚しないで人生を終えるという選択肢はなかったのか? どうせこの先も幹子さんと生活を共にしないのなら、離婚してもしなくても、たけしさんの日々の生活に大きな変化はないように思える。

 しかし筆者は、あるバツイチ女性の離婚理由を思い出して、たけしさんの行動に納得がいった。

◆「書斎」にこだわる夫と離婚した妻の場合

 筆者はここ1年以上、離婚した男性に離婚の経緯と身の上話を聞くルポを「女子SPA!」に連載している。そのせいか、最近は知り合いから「離婚話を聞いてほしい」という要望がものすごく増えた。その中に、R子さんという女性がいる。少し長くなるが、彼女の話を紹介しよう。

 現在30代後半のR子さんは数年前に離婚した。離婚の理由は「書斎」だ。

 11歳年上のT夫さんと結婚し、共働き夫婦としてコンパクトな2LDKの賃貸マンションに同居していたR子さんだったが、子づくりの計画が持ち上がったため、子供部屋を確保できるくらいの広いマンションを買おうという話になった。するとT夫さんは、かたくなに「書斎」を欲しがったという。R子さんは離婚の経緯をこう説明する。

「T夫はサラリーマンですから自宅で仕事はしません。そもそも書斎なんて必要ないんです。『本棚に自分の蔵書を並べたい』『じっくり書き物をしたい』とか言うんですけど、たいした蔵書量でもないし、まとまった文章を書いている様子もない。DVDや趣味のアニメフィギュアは多少ありましたが、そんなの寝室のクローゼットにでもしまえばいいじゃないですか。予算のこともありますから『現実を見てよ』と何度も言ったんですが、T夫は絶対に譲りませんでした。

 挙げ句の果てには『郊外に中古の戸建を買って、書斎に改造した物置を庭に置きたい』『階段下スペースに造り付けの机が欲しい』『3畳窓なしの納戸でもいいから……』なんてバカなことを言い出す始末。“DEN”って言うんですか? そういうのを紹介するサイトや雑誌を私に見せてくるんですけど、ウンザリでした。

 結婚当初は書斎が欲しいなんて一言も言わなかったので、すごく不思議で。なんで今になって?と聞いてみたら、『自分が自分でいられる場所が必要なんだ』って。

 当時T夫は40歳も過ぎていたので、いい歳して、なんて子供っぽいことを言うんだろう……と幻滅しましたね。結局マンション購入の話は頓挫(とんざ)して、子作り計画も凍結。その後、出産のタイムリミットを意識しはじめた私が申し出る形で、離婚しました」

◆“秘密基地”が欲しい男たち

 R子さんの抗議はもっともだが、男性である筆者にはT夫さんの気持ちもよくわかる。T夫さんにとって書斎は、それがどんなに狭いスペースであろうとも、必要だった。なぜならT夫さんは、否、中年を過ぎた男性の一定数は、人生において “秘密基地”を必要とするからだ。

“秘密基地”とは、要は社会的責任や“大人っぽいふるまい”から自分を解放できる場所のことである。少々安っぽい言い方をするなら、「しがらみとは無縁の自由」を手に入れられる場所、とでも言うべきか。

「結婚して家庭を持っているのに、いつまで“秘密基地”なんて欲しがってんの?」と呆(あき)れる女性陣の意見は、ごもっとも。世の多くの女性はR子さんのように現実を直視し、生活環境やライフステージの変化に適応すべく、自分自身を欲求ごと作り変えるからだ。子供の頃の夢や希望には、ちゃんと折り合いをつけて大人になる。

 しかし多くの男性は、結婚しようが家庭を持とうが、心の底では「なるべくなら変わりたくない」と思っている。できれば独身時代と同じように、趣味の本やマンガやフィギュアやDVDやCDやビンテージスニーカーを買いたいし、ジャンクフードを死ぬほど食べたいし、高校時代の親友と朝まで飲みたい。いつかはスポーツカーを乗り回したいし、一人で放浪の旅にも出たい。いくら子供っぽいと妻になじられようが、それが彼にとってあるべき「ほんとうの自分」だからだ。

◆社会的責任が重ければ重いほど

 けれども多くの男性は、家庭を持ちながらは「ほんとうの自分」になれない。それを叶えるには莫大な財力と、人智を超えた妻の理解が必要だからだ。

 結果、「そこに身を置いている間だけは、一時的ではあれ“ほんとうの自分”でいられる場所」、つまり“秘密基地”を求めるようになる。それは、ある男性にとっては「書斎」、ある男性にとっては「納戸に設置したフィギュアのショーケース」、ある男性にとっては「行きつけの隠れ家的飲み屋」、ある男性にとっては「団地内駐車場に停めた自分のクルマの中」となる。最後の人は、週末の夜にマンガとタバコと発泡酒を携えて、1、2時間ほど軽自動車の車中で過ごすそうだ。

 男は歳を取り、さまざまな社会的責任が肩にのしかかればのしかかるほど、それを抑圧と感じれば感じるほど、それらとは無縁の聖域たる“秘密基地”が欲しい、という想いを強めてゆく。T夫さんも例外ではなかった。

 2LDKの賃貸に書斎がなくてもT夫さんが平気だったのは、「引っ越しによっていつかは書斎が持てるかもしれない」可能性が、まだ残っていたからだ。しかしローンを組んで購入するマンションは、基本的には一生モノ。子供ができるとなれば、なおさらだ。容易に引っ越しや売却はできない。

 つまり、このタイミングで書斎を手に入れなければ、「ほんとうの自分」でいられる場所が一生確保できないとT夫さんは考えた。だから必死になったのだ。

◆最後に「ほんとうの自分」になりたい?

 T夫さんとたけしさんでは、年齢も立場も置かれている状況もまったく違う。しかし、「一度しかない人生で、少しでも多くの時間を“ほんとうの自分”ですごしたい」と願う切実さは、同質である。

 離婚しようがしまいが、たけしさんと幹子さんの別居状態は変わらない。しかし、たけしさんにとって、幹子さんと婚姻関係を結んでいる自分は、長らく“ほんとう”ではなかった。たけしさんはもう72歳。どんな偉人であれ天才であれ、自分の「死」を意識せざるをえない「人生の総括期」とも言える年齢だ。たけしさんの胸中に「財産の多くを失うことになろうとも、最期の最期は“ほんとうの自分”でくたばりたい」という想いがあったのではないか。

 ちなみに、たけしさんは自宅以外に、通称「等々力(とどろき)ベース」と呼ばれる“秘密基地”を2010年から世田谷区等々力に所有している。高級外車やコントなどで使った小道具、松井秀喜や松坂大輔から贈られたグローブやバットも保管されている、仕事場兼遊び場だ。ここに件の愛人A子さんと設立した新事務所があり、一緒に住んでいると報道されている。

 たけしさんは莫大な対価を払って「ほんとうの自分」を手に入れた。T夫さんは予算不足で「ほんとうの自分」を手に入れそこねた。

結論:男の自己実現にはカネがかかる。男がカネを稼いで偉くなりたい理由の8割がたは「ほんとうの自分」に1cmでも近づくためであり、何歳になっても同性に年収マウンティングを仕掛ける理由もまた然り。たけしさんの離婚は、そんな男の性(さが)を改めて思い起こさせる。

<文/稲田豊史>

【稲田豊史】

編集者/ライター。1974年生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。「SPA!」「サイゾー」などで執筆。

【WEB】inadatoyoshi.com

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