マグロ、ぶり、カニ……海鮮しゃぶしゃぶが冬にぴったり

マグロ、ぶり、カニ……海鮮しゃぶしゃぶが冬にぴったり

浅草 魚料理 遠州屋の「海鮮盛り合わせしゃぶしゃぶ」奥から時計回りに、宮城・気仙沼のマグロ、タイ、外房・伊豆半島の地きんめ鯛、カンパチ、中央にズワイガニ

しゃぶしゃぶといえば、肉が王道。しかし最近は、上モノの魚介ネタをしゃぶしゃぶさせる店が評判という。おまけにリーズナブルゆえ、厳冬に暖をとる手札にしよう。

◆体も温まる!冬の定番「海鮮しゃぶしゃぶ」

 ’21年が明けて以来、寒波で寒い日が続いている。体の芯から温まるなら、やはり鍋料理だろう。具材を煮込む定番の寄せ鍋もいいが、魚介をサッと出汁にくぐらせる、海鮮しゃぶしゃぶも冬にはちょうどよい。

 まずは田原町駅にほど近い場所にある、創業55年の大衆割烹「浅草魚料理遠州屋」(緊急事態宣言により、2021年2月7日まで臨時休業)。二代目の安喰伸明さんは、魚の専門書『魚の事典』の監修を務めるほどの知識を持つ御仁で、毎朝、夜も明けぬうちから豊洲市場へ買い付けに向かう。

 ほかにも全国から直送される旬魚を揃えていて、なんと魚のつまみだけで約200種。冷凍モノを一切使わない「まぐろのぶつ切り」が750円(税込み)と、お財布にもやさしい。

「『魚料理遠州屋』は、まぐろ料理が自慢です。昭和41年の創業時はタクシー2qの初乗り料金(当時は100円)より安い80円で、ぶつ切りを出していました。『安すぎる』とお客様に心配していただくこともあります(笑)」(安喰氏)

◆出汁にくぐらせることで表面に膜ができ、旨味が閉じ込められる

「海鮮盛り合わせしゃぶしゃぶ」の具材にも、デフォルトでまぐろが入る。刺し身で食べてもおいしい赤身を昆布とかつおの出汁に浸して、色が変わるまで待つこと10秒。引き上げて、門外不出の自家製ポン酢につける前に、まず、そのまま食べる。

 ほんの少し噛むだけではかなくほどける赤身は、人肌程度に温かく、食感も柔らか。脂の旨味も、ツーッと舌を伝わっていく。数秒、出汁にくぐらせるだけで、これほど味が変わるとは驚きだ。

「場所柄、海外のお客さまも多いので、生の魚に対する抵抗感をなくしてもらおうと海鮮しゃぶしゃぶを始めました。また出汁にくぐらせることで表面に膜ができ、魚介の旨味が閉じ込められます」

 この日はまぐろに加え、地きんめ鯛、鯛、カンパチ、ズワイガニの魚介5種が盛り合わせに。「外房と伊豆半島で獲れたきんめだけが、『地きんめ鯛』を名乗れます」と安喰さんは解説する。

 地きんめ鯛からはコク深く甘い脂が溢れ出し、高級魚だけあって、みずみずしくも端正なおいしさ。鯛とカンパチは、しゃぶしゃぶにすることで、白身の旨味が際立つ。ズワイガニも頬張ると、まさしく冬の美味三昧で、熱燗を煽るスピードも上がる。これで一人前3800円(税込み)というから、これぞ大衆割烹の矜恃だろう。

▼浅草 魚料理 遠州屋の「海鮮盛り合わせしゃぶしゃぶ」

盛り合わせの魚介ネタは、宮城・気仙沼のマグロ、タイ、外房・伊豆半島の地きんめ鯛、カンパチ、ズワイガニ。盛り合わせの魚介は、仕入れで変わる。1人前3800円(税込み)

◆出汁と自家製ポン酢で天然ぶりの旨味を堪能

 能登直送の新鮮な魚介を使った料理を提供する「能登美新橋店」も上質な海鮮しゃぶしゃぶで知られている(緊急事態宣言により新橋店は休業、別館とラーメン店のみ時短営業中)。

 石川県能登半島で寒ぶりの水揚げが始まる11月からオンメニューする「能登産天然ぶりしゃぶ」は、厚切り、幅広の天然ぶりの身が12切れ1580円(税別)の安さで、1人前から注文できる。

「流通する能登の寒ぶりは大きさ15sを越えるものもありますが、うちでは10s前後のものを使っています。身が締まっていて、脂のノリも程よいんです」

 そう話すのは、石川県七尾市出身で、店長の米田詞朗さん。地元の卸業者直送だからこそ、能登半島の冬の味覚、寒ぶりを手ごろな価格で提供できるそうだ。ちなみに、この店も158種とメニューが豊富で、魚介はタコ以外、全て能登直送のネタを使うそうだ。

◆しゃぶしゃぶ時間は“2秒”

「能登美」のぶりは、しゃぶしゃぶ時間は“2秒”と決まっている。かつおと昆布の出汁に白菜を入れて加熱、煮立って野菜の甘味が出たら、いざしゃぶしゃぶ開始。

「まずはそのままで食べてください。次は白菜を巻いて、自家製ポン酢でどうぞ」(米田氏)

 しゃぶしゃぶすることで生臭さが抜け、ぶりの脂をさらに堪能できる。背のコリッとした食感も楽しい。ポン酢のジューシーさが食欲を刺激して、「もう一枚」と手が伸びる。ぶりは1人前1380円(税別)で、お代わりも可能、石川の地酒も豊富に揃うため、心ゆくまで能登の美味を楽しみたい。

 海鮮しゃぶしゃぶの魅力は、滋味深いながら、後味がさっぱりとしていることだろう。旬魚をモリモリ食べて心身ともに温かに、厳冬を乗り切る糧にしたい。

▼能登美 新橋店の「能登産天然ぶりしゃぶ」

野菜に火が通ったら、しゃぶしゃぶスタート。昆布とかつおの出汁が、ぶりの脂を炙り出す。身は適度に歯ごたえも。米田さんが数年かけて開発した自家製ポン酢は購入も可能。1人前1580円(税別)

◆北陸の冬の味覚はよそ向きの味わいだった!?

 北陸を代表する冬の味覚であるぶりしゃぶ。

「けれども能登では、ぶりは刺し身、鍋は寄せ鍋が主流です」と「能登美」の米田さん。

 あるとき氷見市の民宿が提供したのが、その発祥(諸説あり)。ただ、ぶりは生活と密着していて、毎年寒ぶりの収穫期の初めに鳴る雷は「鰤起こし」と呼ばれている。

 能登に冬を告げる魚・ぶりで客をもてなしたのが、「ぶりしゃぶ」誕生の背景のようだ。

<取材・文/岡野孝次 撮影/赤松洋太>

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