風船やパスタを割りまくる動画が数千万再生。謎の作者を直撃「何者ですか?」

風船やパスタを割りまくる動画が数千万再生。謎の作者を直撃「何者ですか?」

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 ひとりの外国人男性が摩訶不思議な装置を駆使して、無言でスパゲッティを頭で割ったり風船を割ったりする動画がSNSで話題をさらっています。その光景はなんともいえぬ爽快感があり、再生数はスパゲティ版で1100万回、風船版で1700万回再生を超えています(2019年11月23日時点)。

 フォロワー数もツイッターが6.5万人、インスタグラムが71.2万人など、なかなかのバズりよう。

 一体この男性は何者なのか? この装置や動画にはどういう意味が込められているのか? 謎のヴェールに包まれた彼にメールでインタビューを行いました。

◆謎の男の正体はアーティストだった

――まず、どちらにお住まいで、何を生業にしていらっしゃるのでしょうか?

ジャン・ハコン・エリクセンJan Hakon Erichsen(以下、エリクセン)「私はノルウェー人のアーティスト、ジャン・ハコン・エリクセンといって、パートナーと2人の子供と一緒にオスローに住んでいます。オスローの国立芸術アカデミーでアートを勉強したあと、彫刻やインスタレーションを作っていましたが、今はパフォーマンスビデオで知られています」

――なぜ、謎の動画をSNSに投稿しているのですか?

エリクセン「当初はアートスタジオでの自分の仕事を楽しくし、息抜きをするためだけに始めたのですが、アート界以外の人たちからの反響が大きくなり、方向性が少し変わったのです。私自身が楽しむだけではなく、SNSを見てくれる人たちが、私たちの周りにある“ありふれたモノ”に“おもしろさ”を見つけて日々を楽しく送ってくれるようにインスパイアできればよいなと思うようになりました。私の投稿がきっかけになりパフォーマンスアートに興味を持ってくれたフォロワーもいて、とても嬉しいですね」

――スパゲッティを頭でバキバキと割る動画も印象的ですが、エクササイズをしたり、モノを破壊したりする動画もあります。

エリクセン「“破壊”は私のアートのなかで一番大切なテーマで、パフォーマンスビデオにも何度も繰り返し使っています。ほかには、“身体を伸ばす”ことも大事なテーマです。このテーマはレベッカ・ホルンという素晴らしいアーティストにインスパイアされたもの。ダンスやエクササイズのムーブメントに影響を受けて、身体を極限まで伸ばすことにトライしているんです」

◆破壊行動はクリエイティビティのダークサイドだ!

――なぜ、破壊や身体を伸ばすことが重要なテーマなのですか?

エリクセン「人が無意識下に表現するクリエイティビティに感銘を受けるんですよね。破壊にはそれが如実に表れると思うんです。モノづくりやクリエイティブな活動に関わらない人たちがイライラしたり怒ったりしたときに、そのフラストレーションを極端な形で表す……。ここにはクリエイティビティのダークサイドが潜んでいると思うんです。

 その他には、“退屈”もダークなクリエイティビティを誘発します。例えば、夏休み中の子どもが退屈しきって、小さな爆弾や火炎瓶などを作ったりすることもあるじゃないですか。

 エクササイズにインスパイアされる理由は、私がエクササイズをしないという罪悪感から来るのかもしれません。アートのプロジェクトとして、トレッドミルの底が抜け落ちて頭をぶつけてしまうというような装置も作ったことがあります。エクササイズやダンスもパフォーマンスアートと同じように身体を使うので、エクササイズをアートのテーマに選んでしまうのかもしれませんね」

――そういった作品から観客にどんなメッセージを伝えたいのですか?

エリクセン「アートそのものが目的なんです。つまり、私の作品にはメッセージ性はなく、私の動画を見た後に周囲のモノに目を向けて、“なにかが違う”と感じてくれたら、それで嬉しいです。でも別に、私の動画を“おもしろい、単なるエンターテイメントだ”として見てもらっても全然構いません」

◆怪我はしたことないの?

――スパゲッティだけじゃなく風船を割ったりなど、色々な破壊行動から怪我をしたことはないのでしょうか?

エリクセン「装置を作るときに引っかき傷を作ったり打撲したりしたことはありますが、大きな怪我はないですね。動画を作るときは怪我をしないようにとても気をつけているんです」

――ちなみに、割った後のスパゲッティは捨てるのですか?

エリクセン「最近、スパゲッティ動画は作っていないのですが、次の作品でスパゲッティを使うときのために大きな箱の中に取って置いています。なぜスパゲッティの動画を作っていないかというと、単に最近インスパイアされていないから。インスピレーションには波がありますからね」

◆アートに特別な目的や役割はない

――エリクセンさんにとってアートとは何ですか?

エリクセン「私にとってアートとは、自分のクリエイティビティを表現する方法で、世界を眺めるフィルターです。ただ、アートには特別な目的や役割があるべきだとは思っていません。アートはアートであって、それ以上の意味はないと思っています」

――SNSはアートをどのように変えたと思いますか? 

エリクセン「SNSはアート界の権力構造に影響を及ぼしていますね。例えば、私のような人間が有力な画廊の後ろ盾なしで、急に注目されるようになりました。自分のアートを画廊などで誰かに観賞してもらうのは本当に難しいけれど、SNSが既存のアート界の体制にチャレンジしています。ただ、誰もが簡単にオンラインでアートを発表できるので、現在はよいアートを見つけるのが難しくなりました」

――日本人のフォロワーからコメントをもらったことはありますか?

エリクセン「“日本出身です”という日本語で書かれたコメントは見たことがありますが、本当に彼らが日本出身かどうかは分かりません」

<文/此花わか>

【此花わか】

映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライターに。ジェンダーやファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバー、ライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、ガス・ヴァン・サント監督など多数。Twitter:@sakuya_kono Instagram:@wakakonohana

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