潔癖症男子の驚きの生態「靴下はビニール手袋つけて脱ぐ」etc.|辛酸なめ子

潔癖症男子の驚きの生態「靴下はビニール手袋つけて脱ぐ」etc.|辛酸なめ子

潔癖症男子の驚きの生態「靴下はビニール手袋つけて脱ぐ」etc.|辛酸なめ子の画像

【いまどきの男を知る会 ファイルNo.18 潔癖症男子】

 つり革やエスカレーターの手すりを掴む時、一瞬躊躇してしまったり、インフルの季節にはエレベーターのボタンを押すのに抵抗がある、そんなプチ潔癖の要素は、現代人の防衛本能としてほとんどの人が持っていると思われます。

 でも、その潔癖意識が高まりすぎると、潔癖症という状態になってしまいます。本人的には辛く、悩ましい状況だと思いますが、自身の症状を笑いに変えて世間の理解を得ようとしている勇気ある男性がいます。放課後片想い系妄想発明家で芸術家のたいがー・りーさんです。

 以前何度か仕事でお会いした時は毎回冬でもハーフパンツ姿で気になっていたのですが、その服装にも潔癖症的な理由があったようです。長いパンツは着替える時、裾が床に接触する、という……。最近ロングスカートが流行し、私も含め気付かずに床に裾がついている女性が多く見られますが、それもたいがー・りーさんにとっては戦慄ものなのでしょう。それを言うならセレブの方が着るイブニングドレスも床につきまくっていますが……。細菌に影響されないエネルギーの持ち主だからこそ平気で着られるのかもしれません。

◆衝撃!潔癖症男子の生態とは

 潔癖症男子の生態が気になっていたある日、たいがー・りーさん出演の「たいがー・りーの潔癖症を治さNight!」というイベントが阿佐ヶ谷ロフトで行われたので、ちょっと前ですがそのレポートを書かせていただきます。たいがー・りーさんの盟友である、片桐仁(芸人で彫刻家)、乙幡啓子(妄想工作家)、カルロス矢吹(作家)各氏が登壇し、彼の行動について疑問をぶつけるという主旨のイベント。その時のたいがー・りーさんの話す潔癖症エピソードが強烈すぎでした。

 まず、イベントや収録ではハンドマイクが怖いのでピンマイクを使用。「マイクは5人くらいの手を経てきて、その5人は何を触っているかわからないから」だそうです。確かに……。マイクが唇にうっかり触れると、誰かと間接キスになっていないか気になります。ちなみにたいがー・りーさんはピンマイクを信用しているそうですが、ピンマイクのコードがくせ者な気がします。外す時床に接したり、マイクをつけてトイレに行く人もいるので……。など気になり出したらきりがありません。

「入館証はいろんな人の首汁がついているからかけられません」と、『首汁』というパワーワードも飛び出しました。ラジオ収録では椅子に座れないので立って話すこともあるそうです。スタジオの椅子こそ、言われてみたら無数の人の体液がしみこんでいます。

 そしてストローも使わないというたいがー・りーさん。「誰が触っているかわからないから」だそうです。コップのふちに唇をつけるのもムリで、「唇ごとコップの内側に入れて飲む」という技を編み出しました。そのおかげで高校時代から唇の下に線が刻まれたそうです。

◆小3で潔癖症を自覚したある事件

 さかのぼるとたいがー・りーさんが潔癖症を自覚したのは小学3年生の頃だそうです。

「小3の時、塩酸事件が起きました。先生が『危険なんだよ』って言った塩酸のビーカーを机に置いたら、その液が飛んで先生の肘について、それからすげー舞い散ってんじゃん、と思って怖くなって、一ヶ月服取り替えられなくなった。家の洗濯機に入れたら家族についちゃうって」

 家族を守りたいという純粋な思いと恐怖が結びついたのでしょうか。たいがー・りーさんならではの妄想力の強さも感じさせるエピソードです。ちなみにお母さまも潔癖症気味で「街にある惣菜パンの店で、肉まんを入れる袋におじさんがふって息をかけてふくらましたんです。そうしたらお母さんが『私それ買わないわ』って」という思い出が。その後お店の人と気まずくならなかったのか気になります。

◆地面のホコリは「デスパウダー」

 多感な時期には、「シャツの中に手を入れてドアノブを開けているので右裾だけ伸びる事件」が発生したり、「ベルボトム玄関条例」というマイルールがあったそうです。ベルボトムの裾は地面を擦っているので「ツバが固まってカスカスになっちゃったのを吸い取ってるわけだから、玄関でベルボトムを脱いで部屋に上がる」という習慣を自分に課していたそうです。

 たいがー・りーさんは地面のホコリとか汚れを「デスパウダー」(死の粉)と称していました。「関内にはデスパウダーが多い」と、独自の説を展開。「靴下を脱ぐのに2つのビニール手袋を使い捨てます。地面が怖い。イメージ的に死の粉みたいなのがまぶされてる」とのことで、ただごとではないです。

 靴下どころではなく靴を頻繁に捨てていた「靴捨条例」の時期もあったそうです。「歩いてると靴に小石が入ってきちゃう。この小石って地面じゃん、死のパウダーの塊じゃん。って石が入るたびに捨ててた。それが6足にもなって、もったいないし靴にも悪いし、それからゆっくり歩く方法を取りました」

◆ほんの少しだけ潔癖症がマシになった

 さらにたいがー・りーさんの心の救いとなったのは、意外にも歌だそうです。

「歌歌うとテンションを巻き返せるよ。歌で解決したの。『もうちょっとあとちょっとで♪家に着くはずなのに〜♪もうこんなところで〜♪やっぱ石だよな〜〜♪』と、歌うことで解消されました。歌はずっと人を助けてきたんだよね」

 才能が多岐に渡るたいがー・りーさんだからこそできる解決法かもしれません。

 潔癖症を治すという主旨のイベントでしたが、その後、とくにたいがー・りーさんの症状に変化はないものの「声援っていいなと思いました。命がけで戦おうという自分がいます」と、ポジティブな姿勢を見せていました。

 ちなみにこのイベントのトークに聴き入っていたら、私は潔癖症がちょっとうつったのか、駅のゴミ箱のフタにちょっとでも触れたら気になって拭いたり洗うようになりました。細菌と同様に、潔癖症も軽く伝染するのかもしれません……。潔癖症は想像力と関係していると思うので、良い方向に使えるようになりたいです。

<文&イラスト/辛酸なめ子>

【辛酸なめ子】

東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著者は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。

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