松坂桃李が“ハロプロ”オタクを演じる『あの頃。』監督×原作者が語る

松坂桃李が“ハロプロ”オタクを演じる『あの頃。』監督×原作者が語る

?2020『あの頃。』製作委員会

ベーシストで、神聖かまってちゃんの元マネジャー、そしてコラムニストの犬山紙子さんの夫でもある劔樹人の自伝的コミックエッセイを原作とした映画『あの頃。』が、2月19日に公開される。劔さん役は、なんと松坂桃李だ。

 ’00年代、ふとしたきっかけで初期モーニング娘。をはじめとする「ハロー!プロジェクト」にハマった劔が、同じ熱い思いを持ったオタク仲間たちとの出会いや別れを経験していく“遅れてきた青春”群像劇だ。監督を務めた今泉力哉と、製作背景や熱狂していた“あの頃”を振り返ってもらった。

◆推しがいるから頑張れた!ハロプロに青春を捧げた男たち

――私的なエピソードだった原作が、こうして映画になった気持ちは?

劔:まったく予想してなかったですよ。僕の役を演じているのが松坂桃李さんというのがまずおかしいですし(笑)。映画を見た当時の仲間からは、「これは豪華すぎる再現映像だ」って連絡がありました。

今泉:今回、時代考証でわからない箇所は劔さんや当時の仲間に都度聞きながら進めていって。コンサートチケットの実物を持ってきてもらったり、公式のグッズもまんま使ったり。オタク役のエキストラも重要だったので、何日も来られる人は最初にキャスティングして複数の場面に出てもらいました。

劔:オタク用語に“おまいつ”(「お前、いつもいるな」の略)っていう言葉があるぐらいですからね。原作で描いた近鉄バファローズのユニホームを着ている2人組は、映画でも再現してもらったり、こだわりがいき届いてました。

今泉:それこそ脚本の冨永(昌敬)さんと一緒に、劔さんのオタク仲間とも会って当時の話を聞いたりしました。

◆「俺たちは日本の最底辺だ」という自意識から救ってくれたアイドル

――今回の作品は、いわゆる「推し活」がテーマになっていますね。

今泉:『愛がなんだ』で片思いを描いたとき、相手にまっすぐな熱量を抱けるって羨ましいなと思っていました。「推し」はあくまで恋愛感情とは別物ですが、疲れているときにきれいなものや輝いているものに癒やされたり、それを通じて仲間ができたりするのも、自分にはない経験なので羨ましいです。

 何かに心からハマることがない自分は、生命力が低いのかもしれない(笑)。

劔:当時は、「俺たちは日本の最底辺だ」くらいの自意識でいたオタクが多かったので、そんな自分を救ってくれた推しに捧げる熱量がすごいんですよ。

 友人がモー娘。のコンサートを見に行くために大雪の北海道に前乗りで行ったら、その後、飛行機が飛ばなくて中止になっちゃって。帰るにも大雪で移動するのが一苦労だから、温かいお茶を足にかけながら歩いたっていう(笑)。

◆ホモソ集団から男女半々に変化したハロオタ現場

――当時と現在のオタクの違いってありますか?

劔:まず、女性が多くなりました。この映画で懸念しているのが、男性オタクによるホモソーシャル(女性を排除・消費して成り立つ男性同士の絆)な関係性がどう受け止められるかということ。

 でも、当時は本当に女性がいなかったので仕方ない部分もあるんです。コンサート会場に行くと、ドアを開けた瞬間に男性特有の“臭気”がブワッと、まるでバックドラフトみたいにやってきたんで。

 今だったら、あのメンバーの中にも女性がいたでしょうね。

今泉:エキストラはハロプロ公式サイトなどで募集してもらったんですが、女性の方が多く集まってしまって。それだと、当時の実態とズレちゃうから、ちょっと遠めで写ってもらったり、バランスは取らせてもらいましたね。

――ほかに意識したポイントは?

今泉:僕自身が“若い男が内輪ノリで盛り上がってる”シーンを映像で見ると興ざめしちゃうことがあるんです。だから、現場では面白いと思っていても、後で見たとき観客が置き去りにされないかは気にしていましたね。

 でも、実際見てみたら役者さんも20代後半以上の達者な人たちだから、どれだけ盛り上がっても切なく見えるっていう。「あ、なんか大丈夫だ。ただのおっさんたちだ」と思って(笑)。

劔:実際の我々も大人になってからの友人なんで、互いに敬語を使ったり、“さんづけ”で呼んだりと、決して馴れ馴れしいだけではなかったですから。

◆’90〜’00年代の空気感がしっかりと出ている

――時代設定的にも、劔さんのようなアラフォー世代は共感できそうですね。

劔:その世代で、原作当時からいまだに熱心にハロプロファンやってる人は結構いるんですよ。ハロプロに限らず、’90〜’00年代の空気感がしっかりと出ているので、それを懐かしんでもらえるといいなとは思います。

今泉:劇中に「昔がいいって言う人もいるけど、俺は今が一番楽しい」みたいなセリフがたびたび出てくるんですよね。あの頃はあの頃のよさがあったけど、決して美化はしたくないというか、懐古主義になりすぎない映画にしたいとは思っていました。

劔:この前、人と話していて「俺、懐かしめるようないい学生時代を送ってこなかったよ」と言われて。確かに、昔が全部よかったわけじゃない。映画でも、AV女優の握手会に行った話とか、仲間の風俗でのエピソードとか、まったく美化してないですから。

 改めてそう考えると、ハロプロのメンバーも見るかもしれないこの映画で、なんていう原作を僕は描いてしまったのかと後悔に襲われています(笑)。

『あの頃。』

’21年/日本/1時間57分 監督/今泉力哉 原作/劔樹人 出演/松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也ほか 配給/ファントム・フィルム 2月19日より全国公開

【今泉力哉】

’81年、福島県生まれ。’10年『たまの映画』で長編監督デビュー。『愛がなんだ』(’19年)、『mellow』(’20年)、『his』(’20年)など恋愛映画に定評がある。公開待機作に『街の上で』(4月9日公開)

【劔 樹人】

’79年、新潟県生まれ。「神聖かまってちゃん」のマネジメントなどを経て、現在「あらかじめ決められた恋人たちへ」のベーシスト。最新刊に『僕らの輝き ハロヲタ人生賛歌』(イースト・プレス)

◆劇中に登場する初期ハロプロのキラーチューン3選

松浦亜弥「桃色片想い」(’02年)

大学院受験に失敗し、バンド活動もうまくいかず鬱々としていた劔が、ハロプロにハマるきっかけになった曲。MVに映る当時16歳の松浦が“太陽”のように見えたと回想している

藤本美貴「ロマンティック 浮かれモード」(’02年)

オタ芸の入門曲ともいわれており、イントロとともに行う土下座や、サビ前の「美貴様 美貴様 お仕置きキボンヌ」などの合いの手が多数。劇中にもオタ芸シーンが登場する

モーニング娘。「恋ING」(’03年)※「Go Girl〜恋のヴィクトリー〜」のC/W曲

C/W曲ながらファンからもメンバーからも支持され続けている影のアンセム。ハロプロメンバーの誕生日イベントでもっとも歌われている曲との説も。劇中にも重要な曲として3 度も登場する

<取材・文/東田俊介>

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