老舗洋食店の「絶品ビーフシチュー」2選。とろける牛肉がたまらない

老舗洋食店の「絶品ビーフシチュー」2選。とろける牛肉がたまらない

レストラン大宮の「ビーフシチューマデラソース」

街の洋食屋で食べるビーフシチューは、家庭料理とはまた違う特別な味。今回は、古き良き洋食屋の聖地・浅草で、大人もつい歓声を上げたくなるような絶品ビーフシチューに出会った──。

◆とろける牛肉と絶品デミグラスソースに舌鼓

 浅草は洋食店の激戦区だ。流行の発信地であった浅草に日本初の地下鉄(現在の銀座線)が開通したのと時を同じくして、多くの洋食店がしのぎを削るようになり、今もその名残をとどめている。今回は洋食の聖地・浅草から、絶品ビーフシチューを紹介する。

「レストラン大宮」はそれまでの洋食に、本場仕込みのフレンチテイストを取り入れ、新しい風を吹き込んだ名店だ。現在シェフを務めているのは2代目の延藤光昭さん。ビーフシチューは1代目が切り盛りしていた頃から、常連客にも人気の看板メニューだ。

 ナイフが必要ないほどやわらかい肉を口に入れた瞬間、目を見開くことだろう。既存のビーフシチューのイメージを覆すほどのパンチ力の正体は何だ。ド直球の肉の旨味はもちろんあるが、それ以上にソースの複雑な味わいが口の中で存在感を放っている。

◆2週間かけて仕上げるデミグラスソース

 ソースのベースとなるデミグラスソースは2週間かけて仕上げており、口のなかで最後まで残る味わいを担当する。さらに、味の方向性を決める、マデラ酒やポルト酒を加えているのだが、これがいい仕事をしている。

「マデラ酒が印象的な酸味の正体。甘さと力強さを併せ持つ、アルコール度数の高いワインを煮詰め、バターを加えています」

 食べた瞬間にやってくるのはマデラ酒のインパクトだが、口の中で旨味を保持するのはキャラメルにも似たビターで濃厚なデミグラスソースによるところが大きい。ソースのあいがけとでも言えばいいのか、2つの味が絶妙に絡み合い、ダブルで主役を引き立てる演出をしている。

「肉はブリスケ(バラに近い部位)とモモを使っており、脂身と赤身のバランスには特に気を使っていますね」

 よく運動する部位ゆえ噛むほどに旨味が出て、酸味の効いたソースで最後まで飽きることはない。

▼レストラン大宮の「ビーフシチューマデラソース」

2代目として店を切り盛りする延藤さん自慢のビーフシチューマデラソース。旨味と酸味のバランスが見事なしっかりとした味わいで、ワインとの相性も抜群な大人のご馳走だ。一皿2760円(税込み)

◆王道の味を極めたビーフシチューの理想形

 浅草に洋食店が多いもうひとつの理由は、隣接する「花街」が関係している。花街で働くハイカラ好きな女性はもちろん、旦那衆からも洋食は愛されたそうで、それゆえ浅草には素敵な店が数多く存在するのだとか。

「グリル佐久良」は昭和42年から続く人気店だ。こちらで腕を振るうのは意外にも若き女性シェフ。先代の冨樫正和さんの孫である荒木優花さんが店を継いだのが14年前のこと。

 先ほどのフレンチテイストのビーフシチューを「新」とするなら、こちらは「真」。提供された瞬間「そうそう、これだよ」と思わず呟きたくなるほど理想的な見た目のビーフシチューにうっとりする。

「使っている肉は、りんごで飼育された上品な甘さが特徴のりんご和牛信州牛。表面を焼いた肉を、デミグラスソースでじっくり煮込むことで、ソースにもたっぷり旨味が溶け出していますよ」

◆渾身の一皿で、店が重ねてきた歴史も堪能できる

 箸で持ち上げればホロホロと崩れるほど、やわらかく煮込まれた牛肉。そこに、旨味たっぷりのデミグラスソースがまんべんなく絡みつき、食べた瞬間「旨い」と口に出さずにはいられない。

 荒木さんのモットーは、たとえ、どんなにシンプルな作業であっても絶対に手を抜かないこと。いい材料を使うこと。シンプルな信条だが、ひとつひとつを高めることでここまでの味に到達できると教えてくれる。若きシェフの作る渾身の一皿で、店が重ねてきた歴史も堪能できることだろう。

 洋食激戦地の浅草で長く愛されてきた2つの店のビーフシチュー、時間と財布が許せば、ぜひ食べ比べていただきたい。

▼グリル佐久良の「ビーフシチュー」

下処理の手間を惜しまず、時間をかけてジックリ煮込むことで深みのある味わいに。孫が継ぐと聞いてびっくりした常連客も多かったそうだが、丁寧な仕事は祖父ゆずりだ。一皿2500円(税込み)

◆老舗洋食店愛用の調理器具

 グリル佐久良の荒木さんが使うのは、祖父から引き継いだ調理器具。おいしい店の台所は掃除が行き届いていることが多いが、ここでは何十年も使い込んだ調理器具も新品と見間違うほどに磨き上げられている。

 老舗では長年愛用されている調理器具を目にすることが多い。「鍋が替わると料理の味も違ってくる」とは、レストラン大宮の延藤さんの談。伝統の味を守り続ける相棒のような存在だ。

<取材・文/キンマサタカ(パンダ舎) 撮影/工藤玲久>

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