夜の街で生き抜く家出少女たちは、かわいそうな被害者なのか

夜の街で生き抜く家出少女たちは、かわいそうな被害者なのか

写真はイメージです

 自分のカラダと引き換えに、その日の宿と食事を得る家出少女たち。虐待や貧困などの問題を抱えた家から逃げ出し、自由を求めて行き着いた先では、セックスワークで生きのびている少女も少なくありません。

 そんな家出少女たちを長年取材してきた、ルポライターで文筆家の鈴木大介さんに、前回、家出少女たちのリアルな実情を聞きました。今回は、11月27日に発売された『里奈の物語』(文藝春秋)のモデルとなった少女や、執筆に至るまでの背景も含め、引き続き家出少女のリアルについて聞いていきたいと思います。

◆ほとんど学校に行かず、3人の弟妹と育った里奈

――『里奈の物語』のモデルになった家出少女は、どのような女性ですか?

「里奈は、実の母親の姉のもとで、3人のきょうだいと一緒に育ちました。養母はナイトワーカーのシングルマザーで入り組んだ事情を抱えていたため、里奈はほとんど学校に行かず、きょうだいの面倒を見ていたんです。

 でも、途中からきょうだいと離れてひとり養護施設に入れられ、数年後家族の元へ戻ったものの、不自由さに耐え切れずに15歳で家出をしました。その後はセックスワークで生き延びながら、一時は大規模な未成年者の売春組織の統括もしていた、当時19歳の少女です」

◆女性性を売るか売らぬかは“女の自由”

――前回、里奈との出会いで価値観が覆ったとのお話でしたが、どういうことでしょうか?

鈴木「里奈に出会う前の僕は、セックスワークの中でも特に売春は、女性の尊厳や自尊心を捨てるに等しい不適切な自助努力なのか、その自助努力を含めて彼女らの生き様を肯定すべきなのか、立ち位置を決めかねていた部分がありました。しかし彼女は、自分たちはお金で買われているのではなく『売ってやっている』、女の性を売るのは生きるための戦略で、それを選ぶか選ばないかは『女の自由』だと言うんです。

 そうやって選択的に自由を得ているから、自由と不自由の天秤のバランスがとれていれば、被害者ではないと。一方で、里奈には『被害者像のグラデーションを無視するな』と強く言われました。彼女は家出少女たちをかわいそうな存在として切り取り、一律に不幸だと決めつけることに憤りを感じていたんです。

 なぜなら、彼女が見てきた仲間の家出少女らは、同じ貧困環境に育っても一切愛情を受けずに育ってきた子とそうでなかった子では抱える苦しさや不自由の相が違っていたり、例え貧困とは言えない経済環境に育っても圧倒的に愛を与えられず自由を束縛されて飛び出してきた子もいたりした。単純に虐待で貧困だから可哀想では、『本当にかわいそうな子』が見えなくなっちゃうじゃねえかというのが、里奈の訴えだった」

◆里奈は我慢を突き破った実践者

――そんな里奈をモデルに小説を書こうと思われたのは、なぜですか?

鈴木「いちばんは、彼女が多くの家出少女の中でも、ある意味非常に恵まれている子だったから。自由を奪われたくないという理由で地元を飛び出してきた彼女でしたが、里奈は単に状況に流されるのではなく、非常に戦略的に夜の街を生き抜いてきた子でした。その背景には、養母やその仲間といった生粋のナイトワーカーたちが幼いころから里奈に授けてきた「女の生き抜き方」の教えがあります。

 そんな里奈だからこそ、家出後も周囲の年長者が彼女に戦略を授け続け、たとえ組織売春という犯罪の場であったとしても、多くの少女らが彼女によって救われたからです」

◆劣等感を抱えつつも、ほかの少女のために動く里奈

鈴木「あと、里奈は、家出少女にしては珍しく、自分語りをしない子でした。家族や、それまでに出会った人たちの話を、ときに泣きながら、一生懸命話すんです。自分にはきょうだいとの思い出があるから最悪ではないと言いつつも、ほかの家出少女とのギャップに劣等感を抱いている。

 でも、自分よりもっとつらい環境の子を守りたいと、たとえ相手にウザがられても行動に移すような少女だったので、彼女の半生を追えば、単に家出少女という一瞬の像を切り取るだけでなく、それを生む環境と社会や、取り巻く世界観の本当の姿が描けるのではないかと思ったんです。

「貧困女子」的なノンフィクションコンテンツの文脈で当事者を見世物化することでは憐憫もしくは差別しか生まれず、当事者の本当の真情が伝わらないなら、もう書きたくないというのがルポライターとしてたどり着いた限界です。軸足は里奈という実在のモデルに置きつつも、従来のルポとはまったく違う、そのままを描く以上にすべてのリアルがきちんと伝わる方法で文字にしたいと願いました。結果として選んだのが小説という手段だったということです」

◆シャワーにもおびえる、虐待を受けていた弟

――いちばん印象に残っているのは、どのようなシーンですか?

鈴木「里奈が養母のもとで、養母の実の娘と一緒に育てられているあいだに、実の母親は男女のきょうだいを産んでいました。ある日突然実の母が現れて、里奈たちのもとへその2人を置いていったので、里奈は一気に4人きょうだいのいちばん姉になったんです。

 養母に代わって懸命に世話をし、可愛がったのですが、弟は虐待をされていたらしく、最初はまったく心を開かず、シャワーにもひどくおびえたそうです。その様子を聞いたときは、僕も平常心ではいられませんでした。

 それから、里奈にかかわった少女らへの聞き取りの中で、里奈が里奈自身ではなくその少女らのために泣いてくれたことにものすごい感動して、一日一日を刹那的に生きる彼女たちにの中に、そんな少年マンガの主人公みたいなやつがいるなんてあり得ないと思った、なんて話があって。その子たちにとっては里奈が、生まれて初めて本気で自分のことを考えてくれる人間だったんですよね。やっぱり聞いてて泣きました」

◆信じられないほど当たり前のことを学ぶ場が必要

――家出少女たちに本当に必要な支援は、どのようなことだと思いますか?

鈴木「いきなり堅い話ですが、就労や進学などキャリア教育の支援よりも前に、ソーシャルスキルトレーニング(SST)をしないといけないと感じます。劣悪な環境から飛び出して自力で生きようとする少女らの多くは、そういった知識をつける時期に学べる環境になく、早くにセックスワークの世界に入っていることで、その世界のソーシャルスキルしか学べていないんです。

 初対面の人にとってはいけない態度とか、困ったときは不良じゃなくて警察に相談するとか、倒れる前にきちんとご飯を食べるとか、本当に信じられないほど当たり前のことから学べる療育の場が重要だと思います」

◆家出少女の感じる理不尽さは、家庭や職場でもあり得ること

――里奈や、ほかの家出少女たちへの取材を通して、彼女たちが本当に求める対応、そして私たち周りの大人ができることは、どのようなことだと思いますか?

鈴木「特に大人の女性が、彼女たちの必死に自力で生きてきたライフストーリーを、『よくやった』『頑張った』って肯定して、その思いを尊重してあげることだと思います。彼女たちがどういう状況にあるかを理解した上で受け入れて、同じ女性という立場で、今後どうしていくかを一緒に考えてあげてほしいです。

 家出少女たちの不自由は、同じような環境を飛び出した家出少年たちの不自由とは、明らかに「自由と被害」の天秤のバランスが違います。彼女らの不自由は、この世界に女性が女性で生まれたことで被る不自由の延長線上にあると言ってもいい。女性性の理不尽さは、家庭や職場でも、多くの女性が感じているはずなので、あらゆる意味で彼女たちの思いと重なる部分があると思います」

◆自分たちの常識を押し付けないで

――現在、多感な時期の娘を持つ母親へ伝えたいことはありますか?

鈴木「女に生まれてあきらめてきたたくさんのことを、自分の娘さんには押し付けないであげてほしいです。『女の子はこうでなきゃダメ』とか、『嫁の貰い手がなくなる』とかはもうやめて、娘さん世代が挙げた声から、自分たちの我慢が当たり前ではないと気付いてほしいし、親子で協力し合って、女性性への理不尽さを打ち崩そう! という姿勢を持ってもらえたらうれしいです。

 セックスのメリットデメリットや、売春は悪いことなのか、女性性をお金にする人がいることや、リスクなども含めて、ジェンダー教育を親子で語り合うことも大切だと感じます」

 今までクローズアップされることのなかった、家出少女たちの秘めたる思い。限られた選択肢の中で、“かわいそうな犠牲者”と思われないために懸命に生きる姿は、彼女たちと同世代の女性、同じ年ごろの娘を持つ母親、そして、かつてその年齢を経験してきたすべての女性にも、何かしら重なる思いがあるのではないでしょうか。

●鈴木大介著『里奈の物語』(文芸春秋、11月27日刊)

【鈴木大介さんプロフィール】

1973年、千葉県生まれ。文筆業。長年にわたり、裏社会、触法少年少女らを中心に取材し、著書に『再貧困女子』(幻冬舎新書)『家のない少女たち』(宝島社)などのノンフィクション作品がある。

<文・取材/千葉こころ>

【千葉こころ】

ビールと映画とMr.Childrenをこよなく愛し、何事も楽しむことをモットーに徒然滑走中。恋愛や不倫に関する取材ではいつしか真剣相談になっていることも多い、人生経験だけは豊富なアラフォーフリーライター。

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