「埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」がやたらネット民にウケる理由|辛酸なめ子

「埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」がやたらネット民にウケる理由|辛酸なめ子

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【いまどきの男を知る会 ファイルNo.19 埼玉政財界人男子】

 埼玉の奇祭とも呼ばれる『埼玉政財界人チャリティ歌謡祭』(テレビ埼玉)は埼玉出身者としては見逃せないお正月番組です。世界的にも注目されていて、2017年はなぜかアラビア語圏の人々のSNSで話題になっていました。

 社長や市長、県知事など埼玉県内のVIPが集まり、生バンドでカラオケをして、新年の抱負を語るというイベントです。なぜか歌唱力があやうい感じで、大舞台で緊張して音程を外し気味の政財界人の方々には失礼ながら萌えを感じてしまいます。

 過去には、クラブのママを引き連れて堅気じゃない感を醸し出した輸送会社の社長とか、美川憲一のコスプレで「そうよ私は乙女座の市長〜♪」と音程が危うい感じで替え歌を歌う市長とか、タイミングを間違えて人のせいにした県知事とか、名シーンの数々がありました。逆にそつなく歌いこなすと記憶に残らないくらいです。

 2020年度はどんなカオスがうずまくのでしょう……。実は今回、観覧に当選した人に誘ってもらって、事前の収録を見に行くことができました。その収録の模様をレポートさせていただきます。

◆政財界人いじりトークも見どころ

『埼玉政財界人チャリティ歌謡祭』の会場は大宮ソニックシティホール。会場に入ると募金箱を持ったスタッフの方々が出迎えてくれます。このチャリティイベントは「埼玉県文化振興基金」に寄付するという主旨で行われるので、入場料がわりに少し募金させていただきました。

 会場は出場者の応援席などが前の方に指定されていて、一般観覧客は後方の席でした。この祭りのファンらしき男性たちがサイリウムを何本も持ってスタンバイ(りそな銀行=緑など企業ごとに色を変えていました)。

 司会は埼玉出身、堀尾正明氏。バックダンサーの子どもたちに「市長からの圧力があったんでしょ」と言ってみたり、「会長、巻きがきてます」と話の長い会長に指摘したり、県人だからこそ許される政財界人いじりトークが絶妙で、客席はかなりウケていました。

◆観客も緊張する最初の1人目

 トップバッターは東京ガス埼玉支社長の清水氏が、米米CLUB「浪漫飛行」を歌いました。サビ以外がハラハラさせられて初回の緊張感が伝わります。久喜市市長の梅田氏は桑田佳祐の「若い広場」を大きな声で熱唱。高校生がバックでチアダンスを披露していました。ここ最近、地元の若者をダンサーとして起用するケースが多いです。子どもたちと一緒に踊っているとイメージが良くなり、場が持ちます。

 埼玉りそな銀行の池田社長は4、50人もの社員とステージへ。やはり参加が出世に影響したりするのでしょうか。小田和正「今日もどこかで」で、声量は小さめ。昨年は「人は誰も夢破れ……」という歌詞で預金している者としてちょっと不安になりましたが、今年は人との縁についてのポジティブな歌詞で良かったです。

 吉見町の宮崎町長は北島三郎の「まつり」に挑戦。初出場とは思えない力強いパフォーマンスでした。ファイブイズホームの細井社長は秦基博の「ひまわりの約束」、戸田市の菅原市長はFoorinの「パプリカ」(去年は星野源でした)と、新しめの曲が続いて、何か今年はちょっとそつのない感じです。

◆ダンスから漂う埼玉感

 でも、埼玉感を出していたのはサイサンの川本社長。Kinki Kidsの「フラワー」を歌ったのですが、目を引いたのがダンサーの振り付け。絶対Kinki Kidsはこんな動きはしていないというような、後ろに手を組んでスキップとか、手でアーチを作るとか、肩を組んで体をゆらすといったちょいダサな動きに和みました。

 連続出場している川本社長はファンが多く、客席から「社長〜!!」という声援が。会社は埼玉にとどまらず海外進出もしているそうです。この歌謡祭に出て度胸を鍛えることで営業がうまくいったり、仕事運が上がるのかもしれません……。埼玉のパワースポットです。

◆「待ってました〜!」と盛り上がる会場

 後半で静かな盛り上がりを見せたのは、埼玉グランドホテルの高橋会長。毎年のように三味線の伴奏で清元節を披露するのですが、上皇陛下のようなお顔立ちと風格で、他の出場者とは一線を画す存在感です。「待ってました〜!」という声が飛んでいました。そして社員が「高橋会長日本一!」という看板を持って佇んでいます。この歌謡祭の空気を引き締めるのになくてはならない存在です。

 続いて初参加の小鹿野町の森町長が小鹿野歌舞伎風に梅沢富美男の「夢芝居」を披露し、イーグルバスの谷島社長が松田聖子の「瑠璃色の地球」をパワフルに歌い上げました。バックで応援団のパフォーマンスを披露した男子高生のひとりが空気を読んで「将来イーグルバスで働きたいです」と言っていました。そうやって臨機応変に人に合わせられるのが埼玉県人の特徴かもしれません。

 さいたま市の清水市長は財津和夫の「切手のないおくりもの」を歌ったのですが、選曲といい、子どもたちと一緒になって黄色いTシャツ姿で一瞬24時間テレビかと思いました。がんばって歌っている感といい、かなりやり手な感じでした。選挙で強そうです。戦略的にさいたま市をブランディングしてくれそうで期待が高まります。

 今回は女性出演者が、ケアハウス和みの里の山中理事長と、清水園の清水社長の二人もいて、埼玉県の政財界で女性が進出しているのは嬉しいです。

◆大トリの大野知事にほっこり

 ところで今回ひそかに注目が集まっていたのは、新しい大野知事の歌唱力。上田元知事は大トリで失敗したりしていましたが、逆にそれが話題性を高めていました。また、埼玉政財界人は、突出して歌がうまい人がいないことでユルい調和や一体感が保たれているという一面が。うますぎると埼玉政財界ではやっていけないのかもしれません。

 かつてバンドマンだった大野知事の歌がプロ級だったりしてバランスが崩れてしまわないかという懸念もありました。しかし実際歌が始まると、安心しました。たよりなさげなコブクロの「轍-わだち-」のメロディが心の隙間に入っていきます。おしゃれすぎない安心感。これで埼玉政財界の平和は保たれました。

 県知事の「みんなが安心で安全で暮らせる埼玉県にしたい」という抱負が心に響き、安心感に包まれた歌謡祭でした。

<文&イラスト/辛酸なめ子>

【辛酸なめ子】

東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。著者は『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)、『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎)、『女子校育ち』(筑摩書房)など多数。

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