マグマ学者・巽好幸「『食』が地球の変動、日本列島の変動と関係している」…その理由について解説
2023年09月23日 06時40分TOKYO FM+
放送作家・脚本家の小山薫堂とフリーアナウンサーの宇賀なつみがパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「日本郵便 SUNDAY’S POST」(毎週日曜15:00~15:50)。9月17日(日)の放送は、マグマ学者の巽好幸(たつみ・よしゆき)さんをゲストに迎えて、お届けしました。

◆日本の地形や成り立ちと“食”が密接に関係?
ジオリブ研究所の所長でジオ・アクティビスト、かつ神戸大学名誉教授でもある巽さん。地質学を研究していたところに、“食”も研究対象に入ってきたのは30代後半ぐらいの頃。マグマを中心に地球の進化を調べていく過程で「『食』が地球の変動、日本列島の変動と関係しているということに気がついた」と言います。
当時、京都に住んでいた巽さんは「馴染みの割烹屋さんとかに行くと『なんでこんなにおいしい料理を作れるんやろう?』と。実験と一緒やなと思って、おやっさんに『なんでこんなにおいしくできるの?』と聞いたのが最初ですかね。そうしているうちに、我々が知っている日本列島、日本のいろいろな地形や成り立ちが食材と非常に関係しているということに、あるときに気がつきました」と経緯を説明。
「和食の魅力は、多様多様な自然と豊かな自然が育むものっていうふうに農水省のWebサイトにも書かれていますけど、多様で豊かな自然って世界中にもあるわけですよね。それは説明にならないなと思うわけです」と巽さん。
そして和食に欠かすことのできない出汁文化について言及。「特に昆布出汁っていうのが非常に重要な要素になっていると思います。昆布の出汁を上手くとれるというのは、実は軟水が非常に効いているということ。これは料理人の方もよくご存知かと思います。では、日本はなんで軟水なのかということ。それは日本が世界で一番地殻変動が激しく、地震や火山活動によって高い山ができているからです。
実は300万年前から急に山国になりだしたんですけども、山が高いために、降った雨水が急に流れてしまうので、いわゆるミネラル分を溶かし込んでいる時間がないわけです。それで軟水になるというのが地球科学的な背景としてあります。ですから、出汁文化というのは、まさにそういう火山や地震の変動が育んだ、変動帯出汁文化と呼べると思います」と解説します。
もし日本の水が硬水だったとすると、日本料理は大きく変わっていた可能性があるとし「昆布は硬水では膜を作ってしまって、上手くグルタミン酸が出ませんので、イノシシなどを使った出汁が普通になっていたんじゃないですかね」と話します。
それを聞いた宇賀から「硬水でお肉を煮るとおいしくなるということですか?」との質問が。巽さんは「そうです」とうなずきつつ、「臭みがとれるんですよね。お肉の獣臭さというのは血の臭さで、あれってタンパク質なんです。硬水はカルシウムが非常に多い水ですけど、カルシウムとタンパク質が結合して、灰汁(あく)ができるんです。灰汁をきれいにとると、臭みがなくなって澄んだスープがとれる。ところが、軟水だと十分にその灰汁がとれないので、にごって臭みが残る。ですから、スープをとるには硬水でないとダメです」と説明します。
ここで小山が「食以外でも、地質学的に見て日本の文化につながっているものってあるんですか?」と尋ねると、巽さんは「食と切り離して考えることはできないと思うんですけど」と前置きしたうえで、「我々が育んできた日本人独特の精神性みたいなもの、倫理観と言ってもいいかもしれません。こういうふうなことも、実は変動現象に大きく左右されているなと、最近、頓に感じるようになってきました」と実感を語ります。
さらには、「特に鎌倉時代に無常観がだんだんと美化されていって、はかないものこそ美しいという侘びを感じる日本人の美意識が生まれてきたわけです。無常であるということを受け入れる、美意識として受け入れることで、いろいろな変動現象、特に地震とか災害、災禍に対してある種のあきらめを持ってしまう。あきらめを持つ代わりに美化しているわけなんですけど、そういう精神性が日本人には生まれているなというのは強く感じます」とも。
特にヨーロッパと比べるとそこが大きく異なると言い、「いろいろなことがそこから派生していると思うんです。災害が起こったとき、日本では暴動が起きないとよく言われますけど、これもある種自然から受けるもの、災禍というものを受け入れるという文化が染み付いているんだろうなと思っています。
ただ、おそらくそのときに、自然に対して怒りを持つのではなくて畏怖の念は抱いているし、その畏怖の念と同時に我々はおいしいものをいただいているという感謝の対象でもあるので、怒りの対象にはならないわけですよね」と持論を展開。
小山からの「国によっては自然災害に対して、怒りを覚える国民性のあるところもあるんですか?」との質問に対し、巽さんは「怒りというと言い過ぎかもしれませんけど、少なくとも一神教、例えば、キリスト教が広まっているヨーロッパでは、神から人間は自然を支配することを託されており、災害が起こったことはある種人間の責任でもあるので、人間がそれを何とかしないといけないということです。やはり日本人とはだいぶ違う感性だというふうには思います」と話していました。
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9月17日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)聴取期限 2023年9月25日(月) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY’S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/post/

(左から)小山薫堂、巽好幸さん、宇賀なつみ
◆日本の地形や成り立ちと“食”が密接に関係?
ジオリブ研究所の所長でジオ・アクティビスト、かつ神戸大学名誉教授でもある巽さん。地質学を研究していたところに、“食”も研究対象に入ってきたのは30代後半ぐらいの頃。マグマを中心に地球の進化を調べていく過程で「『食』が地球の変動、日本列島の変動と関係しているということに気がついた」と言います。
当時、京都に住んでいた巽さんは「馴染みの割烹屋さんとかに行くと『なんでこんなにおいしい料理を作れるんやろう?』と。実験と一緒やなと思って、おやっさんに『なんでこんなにおいしくできるの?』と聞いたのが最初ですかね。そうしているうちに、我々が知っている日本列島、日本のいろいろな地形や成り立ちが食材と非常に関係しているということに、あるときに気がつきました」と経緯を説明。
「和食の魅力は、多様多様な自然と豊かな自然が育むものっていうふうに農水省のWebサイトにも書かれていますけど、多様で豊かな自然って世界中にもあるわけですよね。それは説明にならないなと思うわけです」と巽さん。
そして和食に欠かすことのできない出汁文化について言及。「特に昆布出汁っていうのが非常に重要な要素になっていると思います。昆布の出汁を上手くとれるというのは、実は軟水が非常に効いているということ。これは料理人の方もよくご存知かと思います。では、日本はなんで軟水なのかということ。それは日本が世界で一番地殻変動が激しく、地震や火山活動によって高い山ができているからです。
実は300万年前から急に山国になりだしたんですけども、山が高いために、降った雨水が急に流れてしまうので、いわゆるミネラル分を溶かし込んでいる時間がないわけです。それで軟水になるというのが地球科学的な背景としてあります。ですから、出汁文化というのは、まさにそういう火山や地震の変動が育んだ、変動帯出汁文化と呼べると思います」と解説します。
もし日本の水が硬水だったとすると、日本料理は大きく変わっていた可能性があるとし「昆布は硬水では膜を作ってしまって、上手くグルタミン酸が出ませんので、イノシシなどを使った出汁が普通になっていたんじゃないですかね」と話します。
それを聞いた宇賀から「硬水でお肉を煮るとおいしくなるということですか?」との質問が。巽さんは「そうです」とうなずきつつ、「臭みがとれるんですよね。お肉の獣臭さというのは血の臭さで、あれってタンパク質なんです。硬水はカルシウムが非常に多い水ですけど、カルシウムとタンパク質が結合して、灰汁(あく)ができるんです。灰汁をきれいにとると、臭みがなくなって澄んだスープがとれる。ところが、軟水だと十分にその灰汁がとれないので、にごって臭みが残る。ですから、スープをとるには硬水でないとダメです」と説明します。
ここで小山が「食以外でも、地質学的に見て日本の文化につながっているものってあるんですか?」と尋ねると、巽さんは「食と切り離して考えることはできないと思うんですけど」と前置きしたうえで、「我々が育んできた日本人独特の精神性みたいなもの、倫理観と言ってもいいかもしれません。こういうふうなことも、実は変動現象に大きく左右されているなと、最近、頓に感じるようになってきました」と実感を語ります。
さらには、「特に鎌倉時代に無常観がだんだんと美化されていって、はかないものこそ美しいという侘びを感じる日本人の美意識が生まれてきたわけです。無常であるということを受け入れる、美意識として受け入れることで、いろいろな変動現象、特に地震とか災害、災禍に対してある種のあきらめを持ってしまう。あきらめを持つ代わりに美化しているわけなんですけど、そういう精神性が日本人には生まれているなというのは強く感じます」とも。
特にヨーロッパと比べるとそこが大きく異なると言い、「いろいろなことがそこから派生していると思うんです。災害が起こったとき、日本では暴動が起きないとよく言われますけど、これもある種自然から受けるもの、災禍というものを受け入れるという文化が染み付いているんだろうなと思っています。
ただ、おそらくそのときに、自然に対して怒りを持つのではなくて畏怖の念は抱いているし、その畏怖の念と同時に我々はおいしいものをいただいているという感謝の対象でもあるので、怒りの対象にはならないわけですよね」と持論を展開。
小山からの「国によっては自然災害に対して、怒りを覚える国民性のあるところもあるんですか?」との質問に対し、巽さんは「怒りというと言い過ぎかもしれませんけど、少なくとも一神教、例えば、キリスト教が広まっているヨーロッパでは、神から人間は自然を支配することを託されており、災害が起こったことはある種人間の責任でもあるので、人間がそれを何とかしないといけないということです。やはり日本人とはだいぶ違う感性だというふうには思います」と話していました。
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9月17日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)聴取期限 2023年9月25日(月) AM 4:59 まで
※放送エリア外の方は、プレミアム会員の登録でご利用いただけます。
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<番組概要>
番組名:日本郵便 SUNDAY’S POST
放送日時:毎週日曜 15:00~15:50
パーソナリティ:小山薫堂、宇賀なつみ
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/post/
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