「ライオンを輸送せよ」 前代未聞のミッションに挑んだ空自のC-46輸送機

「ライオンを輸送せよ」 前代未聞のミッションに挑んだ空自のC-46輸送機

鳥取県にある航空自衛隊美保基地に展示されているC-46中型輸送機(2017年5月、柘植優介撮影)。

航空自衛隊の輸送機は、民間では運ぶことが稀な実弾や装甲車などを運搬しています。しかし、過去には自衛隊員ですら運搬に細心の注意が必要な猛獣を空輸したことがありました。いったいどのようなミッションだったのでしょう。

北海道発 埼玉行きの「ライオン」フライト

 東京都日野市にある多摩動物公園。ここは、放し飼いのライオンをバスに乗って見物できる「ライオン園」が昔から人気です(※2020年9月17日現在、耐震工事のため休止中)。実はこのライオン園の開設に、自衛隊の旧式プロペラ輸送機が深くかかわっていたのです。

 話は前回の東京オリンピックがあった頃にさかのぼります。1964(昭和39)年の春、多摩動物公園では世界初の試みとして、ライオン園をオープンさせようと準備が進められていたものの、肝心のライオンが足りずに困っていました。

「ライオン園」なのに、主役のライオンが少なくては客足に響きます。何とかライオンを集めようと動物公園の職員が尽力するなか、北海道から支援の手が差しのべられました。かつてライオンの入手でお世話になったお礼にと、札幌市の円山動物園が15歳のオス1頭を譲渡してくれるというのです。

 このありがたい申し出に多摩動物公園の職員もひと安心。さあ北海道から連れて来ようと思いきや、当時の国鉄から「生後4か月を過ぎた猛獣の輸送は規定により不可」と鉄道輸送を断られてしまいます。

 かといって、もうひとつの輸送手段として検討した船便は、船員ストライキの影響もあって輸送日数がかかり過ぎ、高齢のライオンに与える影響を考慮すると無理でした。せっかくライオンの頭数を増やす算段がついたのに、運搬手段で関係者は再び頭を悩ますことになりました。

 しかし意外なところから朗報が。なんと航空自衛隊が空輸を申し出てくれたのです。

特殊輸送作戦に使われたオールド輸送機とは

 1964(昭和39)年当時、航空自衛隊が運用していた輸送機はC-46「コマンド」中型輸送機1機種のみでした。アメリカのカーチス社が第2次世界大戦中に開発した双発プロペラ機で、航空自衛隊は供与と購入合わせて48機を調達しましたが、すべてアメリカ軍や台湾(中華民国)軍が使用した中古機でした。

 そのため、同機は大型貨物を運べる唯一の自衛隊輸送機として各種訓練や各地を結ぶ定期便に従事していました。このC-46による自衛隊の定期便のうち、千歳基地(北海道)と入間基地(埼玉県)を結ぶ1便をライオンのために提供してくれるというのです。航空自衛隊の協力により、多摩動物公園は北海道からライオンを迎え入れる目途が付きました。

「ライオン貸し切り便」は1964(昭和39)年5月15日に飛ぶことになりました。当日、C-46輸送機はオリに入ったライオンを載せ、千歳基地を朝8時に離陸、11時に入間基地へ着陸します。

 そこでライオンはトラックに載せ替えられ、無事に多摩動物公園に到着しました。ちなみに搭乗前は狭いオリに閉じこめられて不機嫌だったライオンも、機内ではぐっすり眠っておとなしかったそうです。

 この「特殊空輸作戦」から2日後の5月17日にオープンした「ライオン園」は大変な人気で、多摩動物公園の年間入場者数が1958(昭和33)年の開園以降初めて100万人を越えたほどでした。

 C-46中型輸送機は、自衛隊の輸送機として航空機エンジンや爆弾、ミサイル、空挺隊員、救急用血清などあらゆるものを運んでいます。しかしライオンは、そのなかでも大変な「珍客」だったといえるでしょう。

 いまでは高速道路網をはじめとして様々な輸送インフラが充実したため、このようなチャーターフライトはよほどのことがない限りないでしょう。そう考えると、ライオン輸送に自衛隊機が用いられたのも、まだ日本のインフラが整備途上だったがゆえ、なのかもしれません。

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