6段つづら折りスロープの異様 「またぐ道路がない巨大歩道橋」なぜできた 横浜の廃校裏

6段つづら折りスロープの異様 「またぐ道路がない巨大歩道橋」なぜできた 横浜の廃校裏

ひまわり歩道橋は2009年竣工(2019年12月、宮武和多哉撮影)。

横浜市港南区の住宅街に佇む巨大な歩道橋。昇り降りのためのスロープだけでもつづら折り状で、かなりの高低差がありますが、不思議なことに、何の道路もまたいでいません。なぜ歩道橋が建設され、周辺は今後どうなるのでしょうか。

なぜ? 人通りの少ない廃校裏にひっそり佇む巨大歩道橋

 横浜市港南区の野庭(のば)地区は、なだらかな丘を覆うように住宅街が広がっています。バス通りの裏手にある旧野庭高校は吹奏楽部が全国屈指のレベルだったことでも知られ、2016(平成28)年に放送されたドラマ「仰げば尊し」のモデルとして、正門などが撮影に使用されました。

 2003(平成15)年に廃校となり人影が消えた学校の裏手に回り込むと、住宅街のありふれた街並みは一変します。深さ数mほどの掘割があり、その底は雑草の緑に覆われていますが、その上を跨ぎ越す巨大な歩道橋がかなりの存在感を放っているのです。

 目を引くのは、歩道橋へ通じる、つづら折り状に設けられたスロープです。1本20mほどの坂道が折り返されること3回、6つの坂を登る巨大なスロープは、青色に塗られた路面の鮮やかさもあって、遠くからでも目立ちます。

 スロープを行ったり来たりすることもあり、橋の上に到達するには見た目以上の時間と移動距離が必要で、この取材時にも手押し車を押して通り掛かった高齢の女性の方が、渡り切るのに10分ほどを要していました。さらに、野庭地区と掘割で隔てられた日限山地区のあいだには10mほどの高低差があり、30m以上の橋を渡った向こう側でも坂道をのぼるという「ずっと上り坂」な構造です。

 この「ひまわり歩道橋」ができたのは2009(平成21)年、野庭高校の廃校後です。人通りも少なくなった時期に、なぜこれほど巨大な歩道橋ができたのでしょうか。

歩道橋の下を通る「はず」の重要道路とは?

 歩道橋の下にある掘割の底は、いまのところ一面草が生い茂っていますが、将来はここに幅員32m(片側3車線に相当)の都市計画道路「横浜藤沢線」が整備される予定です。

「横浜藤沢線」の計画は、1957(昭和32)年には既に持ち上がっていました。横浜市、鎌倉市、藤沢市をまたいで江ノ島の鵠沼海岸まで向かう全長14.3kmの壮大な道路計画ですが、2020年現在の開通区間はわずか5km弱にとどまっており、全線開通の目処が立っていません。

 しかし将来的には、2025年度完成予定の横浜環状南線(圏央道の一部)に接続する予定で、完成すれば高速道路網と横浜市内、江ノ島方面を結ぶ大動脈になることが予想されます。接続点はひまわり歩道橋から南西の栄IC(横浜市栄区、東海道本線の戸塚〜大船間)です。

 横浜藤沢線のひまわり歩道橋の下を含む区間の開通は、横浜環状南線と同時期の2025年度が予定されていますが、栄ICの手前側(本郷台周辺)がまだ事業化されていないため、工事を急がなくてよいのかもしれません。栄ICから藤沢側も、まだ事業化されていない区間があり、横浜から江ノ島までの道路の完成はまだまだ先と言えそうです。

 なお、横浜藤沢線は、ひまわり歩道橋の北側、地下鉄上永谷駅付近が先行して1.4km開通していますが、この区間はあくまでも地元住民のために暫定で整備されたもので、まだクルマの影もまばらです。車線の舗装もほぼ片側1車線分のみで、将来舗装されるスペースにはひまわりが植えられるなど、横浜市内とは思えないのどかな空間が広がっています。

道路開通前だから味わえる? 歩道橋を吹き抜けるそよ風

 ひまわり歩道橋は、道路に先駆けて2007(平成19)年度から整備が進められ、約3年を経て暫定的に開通したものです。横浜市は、「野庭地区と日限山地区がバリアフリー対応の歩道で結ばれ、地区間の移動の利便性や安全性が向上されました」としています。

 道路予定地のそばには、はるばる江ノ島まで流れる境川水系の馬洗川(うまあらいがわ)が流れ、川沿いの遊歩道はトレッキングの定番コースとして人気を集めています。この周辺は横浜市の山間部によく見られる谷戸(やと。丘陵地を川が削ってできた深い谷)の地形で、野庭と日限山を隔てる高低差と谷は、道路工事の前から渓谷があった名残でもあるのです。

 昭和40年代、この地形を切り開き急速に開発された歩道橋の周辺地区は、半世紀を経て高齢化と若い世代の流出に悩まされています。旧野庭高校も、全盛期には1600人もの生徒数を擁していましたが、2003(平成16)年の再編統合によって30年弱の歴史に幕を閉じました。

 大幅に部員が減少しながらも廃校前までコンクールで好成績を保ち続けていた同校の吹奏楽部。それを記憶にとどめている人々も多く、未だに30年以上前の音源を購入できるほどです。地元の方によると、往時の姿を残す旧校舎を訪問する人々をよく見かけるのだとか。

 ちなみに、ひまわり歩道橋の上からは、その校舎やグラウンドをよく見渡せます。もし高校が今もあったなら、吹奏楽部の練習の「音出し」がよく聴こえたことでしょう。英語で「Wind ensemble(ウィンドアンサンブル)」とも呼ばれる吹奏楽の響きを思い浮かべつつ、マーチのように軽やかなそよ風を受けながらのウォーキングを楽しめるのも、橋の下に道路が開通していない今のうちかもしれません。

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