空母「クイーン・エリザベス」来航か イギリスが空母打撃群を極東へ送りこむワケ

イギリスが空母「クイーン・エリザベス」西太平洋に展開へ 中国けん制するためか

記事まとめ

  • 空母クイーン・エリザベスを中核とする空母打撃群を、西太平洋に展開すると報じられた
  • 英が長期展開させる理由は、挑戦的な姿勢をとり続ける中国をけん制するためだという
  • 最大の同盟国であり、特別な関係であるアメリカに貸しを作るという狙いがあるとも

空母「クイーン・エリザベス」来航か イギリスが空母打撃群を極東へ送りこむワケ

空母「クイーン・エリザベス」来航か イギリスが空母打撃群を極東へ送りこむワケ

イギリス海軍のクイーン・エリザベス級航空母艦1番艦「クイーン・エリザベス」。同海軍史上最大の艦艇(画像:イギリス国防省)。

太古の昔より軍事力と外交は密接な関係にあるものです。その外交の舞台で古より様々な手腕を振るってきたイギリスは、軍事力についても「使い方」というものを熟知しているようです。空母打撃群の西太平洋派遣、その背景とは。

イギリス空母が日本近海含む西太平洋へ展開

 共同通信は12月5日(土)、複数の日本政府関係者の話として、イギリス海軍が2021年初頭に、空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群を、日本の南西諸島周辺を含む西太平洋に長期展開させると報じました。

 2017年12月7日に就役した「クイーン・エリザベス」は全長284m、満載排水量6万7699トン。艦首のスキージャンプ傾斜を使用して艦載戦闘機のF-35Bを発艦させるSTOVL(Short Take Off and Vertical Landing、短距離離陸垂直着陸)空母で、30機以上のF-35Bを搭載する能力を備えています。

 空母は通常、単独で作戦行動をすることはなく、敵の航空機や艦船、潜水艦から空母を守る水上戦闘艦、敵の潜水艦から空母を守る潜水艦、作戦行動に必要な弾薬などの物資を搭載する補給艦、燃料を補給するタンカーなどからなる「空母打撃群」として行動します。

 イギリス軍は2020年10月にNATO(北大西洋条約機構)軍との合同演習「ジョイント・ウォーリア」で、「クイーン・エリザベス」と45型ミサイル駆逐艦の「ダイヤモンド」「ディフェンダー」、23型フリゲートの「ケント」「リッチモンド」、補給艦「フォート・ビクトリア」、タイド級タンカー1隻、公にはされていませんがアスチュート級またはトラファルガー級潜水艦1隻の計8隻に、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦「サリバンズ」を加えた全9隻からなる空母打撃群を編成しています。

「ジョイント・ウォーリア」演習は、先述の2021年初頭に開始されると報じられた、西太平洋への長期展開のリハーサルと位置づけられており、おそらくイギリス海軍は、「ジョイント・ウォーリア」と同程度の規模の空母打撃群を、西太平洋に展開させるのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

ひと粒でいくつ美味しいの? 「QE」派遣の背景にある「狙い」

 イギリスは1968(昭和43)年に、スエズ運河より東の地域に駐留していたイギリス軍を撤退させ、それ以降アジア太平洋地域への軍事的な影響力の行使は行なってきませんでした。そのイギリスが「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群を西太平洋に長期展開させる最大の理由は、近年、自由主義国家に対して挑戦的な姿勢をとり続ける中国をけん制するためです。しかしその背後には、空母打撃群という「道具」を利用して新たな外交戦略を軌道に乗せたいという、イギリスの思惑も垣間見えます。

 スエズ運河以東の地域から軍を撤退させた後のイギリスは、1973(昭和48)年にEU(ヨーロッパ連合)の前進であるEC(ヨーロッパ共同体)に加盟し、ヨーロッパの一員という立場と、アメリカとの強固な関係を外交の両輪としてきました。

 しかしイギリスは2016年6月23日に行なわれた国民投票でEUからの離脱を決定し、2020年1月31日をもってEUから正式に離脱してしまいました。外交の両輪のひとつであるヨーロッパの一員という立場を失うことが決まって以降のイギリスは、アジア太平洋諸国と様々な形で関係を強化することで、新たな外交の車輪のひとつを手に入れようとしています。

 50年近くに渡って一線を引いてきたアジア太平洋での防衛協力の強化もそのひとつで、イギリスはかつての植民地であったオーストラリア、インドといった国々に加えて、日本との防衛協力強化にも力を入れています。

 イギリス軍は朝鮮戦争(1950年から1953年)にて編成された国連軍の地位協定により、在日アメリカ軍の横須賀基地などを使用することができますが、冒頭に挙げた共同通信は「クイーン・エリザベス」の艦載機であるF-35Bの整備を、アジア太平洋地域におけるF-35の整備拠点である三菱重工業の小牧南工場で行なう構想が浮上しているとも報じており、実現すれば日本とイギリスの防衛協力は、さらに深化することになります。

目的のひとつは対アメリカ 西太平洋での活動が「貸し」になるワケ

「クイーン・エリザベス」空母打撃群の西太平洋への長期展開には、アジア太平洋地域だけでなく、最大の同盟国であり、特別な関係であるとイギリスが自認する、アメリカに対して貸しを作るという狙いがあるとも見られています。

 アメリカは1979(昭和54)年から、他国が領海や排他的経済水域などの海洋権益を過剰に主張していると判断した場合、それを認めないという意思を示すため、当該国へ事前に通告せずに軍艦を航行させる「航行の自由」作戦を行なっています。

 南沙諸島などで権益を過剰に主張している中国に対しても、アメリカは「航行の自由」作戦を遂行していますが、近年では南沙諸島の所在する南シナ海を担当する、第7艦隊の負担の増加が問題となっていました。

 アメリカは中国をけん制するため、空母やF-35Bを搭載する強襲揚陸艦を派遣して、周辺諸国と共同訓練や共同演習も行なっているものの、空母は冷戦時代に比べて隻数が減少しており、強襲揚陸艦も、F-35Bの搭載能力を与えるため改修工事を行なっていた「ボノム・リシャール」を工事中の火災で喪失するなど、派遣する艦のやり繰りに苦慮しています。

 イギリスのボリス・ジョンソン首相は外相在任時の2017年7月にオーストラリアで、「2隻の新しい巨大空母(クイーン・エリザベス級)で最初に行うことのひとつは、この地域(南シナ海)に派遣して『航行の自由』作戦に参加させることだ」と述べています。その言葉どおりの展開をしているともいえますが、当時よりも自由主義諸国で中国の脅威が共有され、かつアメリカ海軍の負担も増加している中での今回の「クイーン・エリザベス」空母打撃群派遣は、日本を含めたアジア太平洋諸国とアメリカという、今後のイギリス外交の両輪を強化する策として、「絶妙」のひと言に尽きると筆者は思います。

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