英軍「インド太平洋に哨戒艦を恒久配置」の本気度 将来派遣の沿岸即応部隊との違いは? 課題も

英軍「インド太平洋に哨戒艦を恒久配置」の本気度 将来派遣の沿岸即応部隊との違いは? 課題も

2021年8月末にインド太平洋地域に派遣される予定のイギリス海軍哨戒艦「タマール」(写真上)と「スぺイ」。リバー級哨戒艦の8番艦と9番艦で「スぺイ」は2021年6月18日に就役したばかり(画像:イギリス海軍)。

来日したイギリスのウォレス国防相が、インド太平洋地域に自国海軍の哨戒艦2隻を常駐展開させるとともに、将来的には「LRG」と呼ばれる沿岸即応部隊も派遣することを明言しました。しかしLRGには課題もあるようです。

英海軍、今夏に哨戒艦2隻を太平洋に派遣

 イギリス海軍は2021年7月24日(土)、哨戒艦「タマール」と「スぺイ」の2隻を、8月末よりインド太平洋に常駐展開させると発表しました。

 これは、20日(火)に防衛省で行われた、岸 信夫防衛大臣とイギリスのウォレス国防相との直接会談において、ウォレス国防相が発した「イギリス海軍は2隻の哨戒艦を年内にインド太平洋地域に派遣し、恒久的に展開させる」という表明に基づくものです。

 イギリス海軍によると、哨戒艦2隻の派遣はオーストラリアや日本、シンガポールなどの国々をサポートするものであり、2隻を常駐させることで、インド太平洋地域の外交関係に大きな変化をもたらすとのこと。

 イギリスは、これまで以上に同盟国やパートナーシップ締結国と緊密に協力していく予定であり、ウォレス国防相は「数年後には『沿岸即応部隊』もインド太平洋地域に展開させる計画がある」としています。このイギリスが派遣を計画している沿岸即応部隊とはいったいどのようなものなのでしょう。

 沿岸即応部隊は英語では「LRG:Littoral Response Group(リトラル・レスポンス・グループ)」と呼ばれるもので、2020年頃からイギリス国防省が提唱するようになりました。

 イギリス海軍および海兵隊を中心とした水陸両用部隊を、従来よりも細分化し、小回りの利く機動性に富んだユニットで運用するというものです。

 イギリス国防省は、LRGをCSG(Carrier strike group:空母打撃群)と同じくらい同国の海洋戦略において重要なものと位置付けており、すでに北大西洋への配置が進行中です。

すでに編成済みのLRG(North)の規模とは

 北大西洋に展開する沿岸即応部隊は「Littoral Response Group(North)」と呼ばれ、ドック型揚陸艦「アルビオン」、補助揚陸艦「マウントベイ」、フリゲート艦「ランカスター」、そして「ワイルドキャット」艦載ヘリコプターで編成されています。

 人員は艦船乗組員、イギリス海兵隊兵士、ヘリコプター操縦士など計1000人以上で、彼らはノルウェーでの多国間演習や、バルト海で行われたNATO演習「バルトプス」に参加しています。

 イギリス国防省が発表した防衛レビューでは、最終的には、英本土にほど近いヨーロッパ周辺海域と、スエズ運河以東のエリアに、それぞれLRGを恒久配置するとしています。よって冒頭に記した、ウォレス国防相が述べた数年後に派遣予定の沿岸即応部隊(LRG)というのは、後者のものを指すことになると考えられます。

 ただ、イギリス海軍が発表した哨戒艦「タマール」と「スぺイ」のインド太平洋地域への常駐展開はこれとは別のようです。

 スエズ運河以東エリアに恒久配置されるLRGのなかに最終的には組み込まれるかもしれないものの、規模としては哨戒艦2隻では収容できる海兵隊兵士は合わせて100名程度であり、なおかつ「タマール」と「スぺイ」はヘリコプターの発着甲板こそあっても格納庫がないため、長期間にわたる航空機運用は難しいという課題を含んでいます。そのため、2隻の哨戒艦のみで構成されるLRGという可能性は低いでしょう。

LRGの2方面展開がかなり難しいワケ

 前述のLRG(North)の前、2020年後半には「LRG(Experimentation)」と名付けられた艦隊が試験的に編成され、地中海を航行しています。このときはドック型揚陸艦「アルビオン」、補助揚陸艦「ライムベイ」、ミサイル駆逐艦「ドラゴン」で編成されていました。

 長期間にわたる遠洋での作戦行動能力や、ヘリコプターの運用能力、各種舟艇の積載能力、一定程度の海兵隊兵士の収容能力(上記の試験時は約250名)などを考慮すると、哨戒艦2隻のみということはなさそうです。

 ただし、そうなると、ヨーロッパ周辺海域とインド太平洋地域の2方面にLRGを同時期に同一規模で展開させる場合、現在のイギリス海軍では両用戦能力が不足する懸念があります。

 2021年7月現在、イギリス海軍が保有する外洋を長期航行可能な揚陸艦はアルビオン級2隻、ベイ級3隻の計5隻しかありません。

 しかもこれら揚陸艦5隻ともすべてヘリコプター格納庫がない発着甲板のみの艦であるため、空母とはいわないまでも駆逐艦やフリゲートなどが同行しない限り、その運用能力は著しく制限されます。

 イギリス国防省は、ベイ級揚陸艦3隻のうち最低1隻に対して格納庫を増設しようと5000万ポンド(日本円で約75.5億円)を拠出する計画を立てているものの、それでは抜本的な解決にはなりません。

 もしイギリス海軍が本気で2方面におけるLRGの恒久展開を計画するのならば、航空機の運用能力に長けた揚陸艦を3隻以上建造する必要があるといえるでしょう。

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