「フォード・マスタング」はなぜ特別なのか 本格的カーアクションが伝説となった映画『ブリット』

「フォード・マスタング」はなぜ特別なのか 本格的カーアクションが伝説となった映画『ブリット』

1968年「フォード・マスタングGT390ファストバック」(画像:フォード)。

大作アクション映画には欠かせない要素となっているカーアクション。映画においてルーツといえる『ブリット』で主役級の活躍を示した「フォード・マスタング」の伝説を、改めてひもときます。

伝説のカーアクション

 今では、ひとつの映画ジャンルとして確立された“カーアクション”。その黎明期に、本格的カーアクションを導入して伝説となったのが、1968(昭和43)年に公開された『ブリット』です。この映画は、“キング・オブ・クール”としてやはり伝説となっている俳優スティーブ・マックイーンが、クールなフランク・ブリット刑事を演じ、犯罪組織を追い詰めていくという刑事モノでした。

 劇中のカーアクション場面は10分程度でしたが、この場面のために、生粋のカーガイ(クルマおたく)で、ル・マン24時間耐久レースに出場するほどの腕を持つレーシングドライバーでもあったマックイーンは、自らスタントドライバーとともにハンドルを握っています。マックイーンのこの情熱と、やはりレーシングドライバーだったピーター・イエーツ監督のこだわりによって、ほんの10分ほどながら劇中のカーアクション・シーンは伝説となりました。ここから本格的なカーアクションの歴史が始まったといえるでしょう。

 そんな『ブリット』のなかで、マックイーン演じるブリット刑事の愛車であり、もうひとりの主役といえるのが、当時、最新モデルであった1968年式フォード「マスタングGT390ファストバック」。

 マスタングの1968年モデルは、1964(昭和39)年〜1966(昭和41)年に生産された初代がマイナーチェンジし、ボディが大きくなった1967(昭和42)年モデルとほぼ同じもの。なお、「ファストバック」とは、ルーフからリアまでなだらかな傾斜で構成されたボディタイプのことです。

 GT390は、排気量390cu.in.(キュービック・インチ=立方インチ)=6.4リッター、最高出力324馬力、最大トルク579Nmという大排気量ハイパワーのビッグブロックV8エンジンと4速マニュアル・トランスミッションを搭載、足回りやブレーキを強化したハイパフォーマンス・グレードでした。

 ただ劇中車は少々改造されており、フロントグリルやバッジ類をすべて取り外し、ホイールはアメリカンレーシング製のトルクスラストDに交換、さらに、エンジンのチューニングや足回りを強化し、ボディカラーはフォード純正のハイランドグリーンに塗装されていました。

敵は「ダッジ・チャージャー」

 そして、マスタングの敵である殺し屋のクルマとして登場するのが、「ダッジ・チャージャーR/T 440」。こちらは、排気量440cu.in.=7.2リッター、最高出力380馬力、最大トルク664NmのマグナムV8エンジン、4速マニュアル・トランスミッション搭載というマスタングを上回る強敵です。

 名称のR/Tは、ロード・アンド・トラックの略で、一般道でもサーキットでも走れることを表しており、いわばハイパフォーマンス・グレードです。このクルマを運転していたのは、殺し屋役として出演し、数々の映画でカーアクションを担当したスタントドライバーでもあるビル・ヒックマンでした。

 さて、2台のマッスルカーが対決する場所は、アメリカ西海岸のサンフランシスコ市街。『スパイ大作戦』や『燃えよドラゴン』のテーマ曲で知られるラロ・シフリンの渋いラテンジャズのサウンドトラックが流れる中、チャージャーの後をひっそりと付けるマスタング。それに気付いたチャージャーが「キュルキュルキュルキュル!」とホイールスピンしながら急発進して逃げ出し、マスタングが「ガロロロロロロロロ!」と追いかけるところからカーチェイスを開始します。

 FR(フロントエンジン、リア駆動)のハイパワー・マッスルカーが豪快にタイヤを滑らせながらドリフトし、たまに曲がりきれずに他のクルマやガードレールに激突、チャージャーのホイールキャップが合計4枚以上飛んでいっているのはご愛敬。

 さらに、サンフランシスコ名物の急坂を、派手にジャンプしながら下っていく2台。追っかけっこは郊外の山道にもつれ込み、マスタングが「ガンッ! ガンッ!」とチャージャーに体当たりし、新車の2台ともボッコボコ。助手席に座っていた殺し屋がショットガンをぶっ放し、マスタングは穴だらけ。

 あわやというところで、マスタングがチャージャーを弾き飛ばし、コントロールを失ったチャージャーはガソリンスタンドに突っ込み、「グワアァァァァン!」と大爆発するのでした。

カーアクションのアイコン

 こうして、このグリーンのマスタングは、アメリカ人を始め、世界中の人々の間で、“カーアクションのアイコン”として認識されるようになりました。

 近年、フォードからは、2001年、2008年、2019年モデルとして、マスタングの最新モデルを『ブリット』の劇中車風にカスタムした限定モデル「フォード・マスタング・ブリット」が発売されました。なんと、映画公開から30年〜半世紀も経ったのち、メーカーから公式に3種ものカスタム・モデルが発売されたのです。

 このことからも、いかに長年にわたり『ブリット』のマスタングが愛され続けているかがわかるというもの。また、ミニチュアカーの世界でも、レベルを始め、ミニチャンプス、オートアートなど、世界各社から多数リリースされています。

 本格的カーアクションを映画界にもたらし、また「マッスルカー」の存在を世に知らしめた映画『ブリット』におけるマスタング。クルマ好き、カーアクション好きなら、一度はチェックしておくべきでしょう。

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