核兵器の使用は違法や否や? 国際司法裁判所もキレが悪い極限状況での選択

核兵器の使用は違法や否や? 国際司法裁判所もキレが悪い極限状況での選択

核兵器巡る問題 未だ複雑に

核兵器の使用は違法や否や? 国際司法裁判所もキレが悪い極限状況での選択

機体中央下に懸架されているのが極超音速ミサイル「キンジャール」。ロシア国防省公開映像より(画像:ロシア国防省)。

いまだ核兵器保有の全面禁止は実現できていませんが、そもそもその使用や、それによる威嚇などは国際法上、違法ではないのでしょうか。人類がどのように核兵器と向き合ってきたか振り返りつつ、ロシアがおかれた状況を見ていきます。

極超音速ミサイル「キンジャール」 注目点は速度のみにあらず

 2022年3月19日(土)、ロシア国防省は空中発射型弾道ミサイルのkh-47M2「キンジャール」を使用して、ウクライナ西部に位置するイワノフランキフスク市郊外にあるウクライナ軍の弾薬貯蔵施設を破壊したと発表しました。

 このキンジャールに関しては、マッハ10に達するとされるその飛翔速度について特に注目を集めましたが、もうひとつの注目点として、このキンジャールの弾頭は通常弾頭のみならず核弾頭を装備することも可能という点が挙げられます。

 ウクライナ侵攻をめぐっては、ロシア側はいざとなれば核兵器の使用も辞さない構えを崩していません。たとえば、3月22日(火)に放送されたアメリカのCNNによるインタビューでは、ロシア大統領府のぺスコフ報道官が、ロシアの国家存亡の危機に際しては核兵器の使用は排除されないと述べたほか、専門家の分析として、ロシアがウクライナでの戦況を好転させるために、比較的低威力の戦術核兵器を使用する可能性もあるという見方もあります。

 今回のキンジャール発射も、そうした核兵器の使用をちらつかせる手段のひとつであった可能性は否めません。

そもそも核兵器って法的にどうなの?

 一般的な通常兵器と異なり、圧倒的な破壊力と放射線による被害をもたらす核兵器の使用は、法的にどう位置づけられるのでしょうか。これに関するひとつの指標となるのが、1996(平成8)年にICJ(国際司法裁判所)が下した「核兵器の威嚇または使用の合法性に関する勧告的意見」です。

 この勧告的意見の内容を概観してみると、まず、核兵器の威嚇や使用それ自体を包括的かつ一般的に禁止する条約や慣習国際法は存在しないことが確認されています(ただし、その後2021年には核兵器禁止条約が発効しています)。そのうえで、核兵器の威嚇や使用について、「国連憲章2条4項に規定されている武力行使禁止原則に反するものや、同じく51条の自衛権の行使の要件を満たさないようなものは違法となること」「核兵器の威力などに鑑みて、国際法の規則のうち、特に民間人などの文民を攻撃目標としてはならないという原則や、戦闘員に無用な苦痛を与えてはならないという原則など、人道法上の原則や規則に一般的には反すること」が確認されました。

ICJが残した「含み」とは

 上記の勧告的意見で、ICJは核兵器の威嚇または使用が国際法の規則に「一般的には反する」ことを確認しましたが、しかしこの表現には含みが残されています。というのも、これに続いてICJは次のように述べているのです。

「裁判所は、国家の生存そのものが危うくされるような『自衛の極限状態(extreme circumstance of self-defence)』においては、核兵器の威嚇または使用が合法か違法かについて確定的に結論することはできない」

 つまり核兵器の威嚇や使用は、人道法の原則や規則などに一般的には反するものの、国家の存亡そのものが危うくなっているような状況では、その(反するという)判断が不明確になるということです。ICJのこの判断には批判もありますが、まさに核兵器に関する国際社会の複雑な状況を反映した一文と考えられます。

ロシアが核兵器を使用することは問題ないの?

 それでは、ロシアの核兵器による威嚇やその使用は法的にどう評価されるのでしょうか。

 まず、現在のロシアが自衛の極限状態にあるかどうかというと、客観的に見て、そうした国家の存亡が危ぶまれる状況にあるとは評価できないでしょう。むしろ、ロシアによる軍事侵攻を受けているウクライナの方が、それに近しい状態にあると考えられます。

 次に、そもそもロシアのウクライナに対する軍事侵攻は国際法上、違法なものであって、自衛権に関する要件を満たすものでもないため、ウクライナに対する核兵器による威嚇やその使用は、これまでに行われている武力行使とあわせて違法と判断されるでしょう。また、NATO(北大西洋条約機構)諸国に対するものに関しても、現状においてはNATO諸国がロシアに対して違法な軍事攻撃を開始しているわけでもなく、またそのような状況の発生が差し迫っているわけでもないため、これもやはり違法と整理されるでしょう。

 核兵器に関しては、公海上の軍艦や砂漠地帯の敵兵力を戦術核兵器によって限定的に攻撃することは、人道法の原則や規則に適うのではないかとの見方を示す国もありますが、これに関してICJは先述した勧告的意見の中で判断を回避しています。自衛の極限状態の解釈も含めて、核兵器をめぐる問題は未だに複雑なものとなっています。

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