「敵基地攻撃能力」のハードルが異様に高いワケ 対レーダーミサイルも必須だけど…?

「敵基地攻撃能力」のハードルが異様に高いワケ 対レーダーミサイルも必須だけど…?

米軍三沢基地(青森県)第35戦闘航空団所属のF-16戦闘機。同部隊は敵の防空網を制圧するSEADミッションの専門部隊(画像:アメリカ空軍)。

「対艦」「対地」などミサイルにもいろいろあるなか、「対レーダー」というカテゴリのものがあります。日本の「敵基地攻撃(反撃)能力」議論に欠かせないものですが、導入すればあとは大丈夫、というものではなさそうです。

新型ミサイルが続々登場 高まる北朝鮮の脅威

 2022年4月25日(月)、北朝鮮の首都 平壌では、朝鮮人民軍創建90年に合わせた軍事パレードが過去最大の規模で開催されました。このパレードにおいて、アメリカ本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の「火星17」や、既存のミサイル防衛システムでは迎撃が難しいとされる極超音速滑空兵器の「火星8」など、北朝鮮がこれまでに発射してきた数々の新型ミサイルが姿を見せました。

 こうした北朝鮮の新型ミサイルの登場は、北朝鮮の軍事技術レベルの大幅な向上を示すもので、日本にとっての軍事的な脅威が日に日に高まっていることを示すものといえます。そこで注目を集めているのが、こうしたミサイルなどを発射前に地上で破壊することなどを目指す、「敵基地攻撃能力」に関する議論です。

名称変更も中身は変わらず 「敵基地攻撃能力」とは

 敵基地攻撃能力に関する議論が始まったのは1950年代前半で、特に1990年代以降は、おもに北朝鮮による弾道ミサイルの発射実験を受けて、北朝鮮の弾道ミサイルを地上で破壊することを念頭に置いた議論が展開されるようになりました。

 最近では、「敵基地『攻撃』能力」という呼称から、国際法上許容されない「先制攻撃」と混同される、あるいは一般にネガティブな印象を与える恐れがあるとして、「敵基地反撃能力」と改めることを自民党が政府への提言として取りまとめています。しかし呼称を変更したとしても、敵基地攻撃能力自体の内容が変更されるわけではなく、実際上の意義が乏しいとの指摘もあります。

 敵基地攻撃能力というと、敵のミサイルを破壊するための長射程ミサイルを保有することとイコールで語られることも多いですが、実際にはそのような単純なものではありません。

 2003(平成15)年、当時の守屋武昌 防衛庁防衛局長が、国会において敵基地攻撃能力を構成する4つの要素を答弁しています。ひとつ目は、敵の防空網に対する妨害やこれを破壊する能力、ふたつ目は低空飛行やステルス機など防空網をかいくぐる特殊な航空機、3つ目は目標を破壊する精密誘導兵器、そして4つ目は敵の位置を把握する情報収集能力です。

将来日本が持つかもしれないミサイル 「AARGM」とは

 これらの要素のうち、現在、日本が独力で保有を進めているのは、ふたつ目(F-35A/Bの配備)と3つ目(長射程巡航ミサイルや島しょ防衛用高速滑空弾の開発、配備)、そして4つ目(情報収集衛星や無人偵察機の配備)の要素ですが、残るひとつ目の要素、つまり敵防空網の妨害や破壊に関しては、極めて限定的な能力を有しているのみです。そこで、もし敵基地攻撃能力の保有を目指すとすれば、この要素を満たすための兵器の導入が必要となります。

 その候補のひとつが現在、開発の進められている対レーダーミサイル、「AGM-88G(AARGM-ER)」です。アメリカのノースロップ・グラマン社が開発しているこのAARGM-ERは、アメリカ海軍および空軍で運用されている「AGM-88E(AARGM)」のロケットモーターや構造を変更し、その射程を大幅に向上させたものです。さらには敵の防空レーダーが放出する電波を捕捉し、その発信源に向かって飛翔、これを破壊することができます。

 また、仮に敵が電波の発信を途中で止めた場合でも、搭載する慣性航法装置(INS)とGPSにより電波が発信されていた場所まで飛翔し、さらに搭載するミリ波レーダーによって自力で目標を探知することが可能であるため、敵にとっては非常に厄介な代物です。

 AARGM-ERは2021年8月にF/A-18F戦闘攻撃機からの初の実射試験に成功しており、2023年には、部隊での運用が可能となることを指す初期作戦能力(IOC)を獲得する見込みです。またAARGM-ERは、航空自衛隊で運用されているF-35Aや今後、配備が開始されるF-35Bによる運用が可能になるとされているため、自衛隊への配備も難しくはないでしょう。

装備や法だけじゃない 敵基地攻撃能力をめぐる難しさ

 現在、自衛隊は敵基地攻撃能力の構成要素を部分的に保有しつつある状況ですが、しかし、それは日本単独でこれを実行することができるようになるということを意味するわけではありません。

 なにより、これまで自衛隊は敵基地攻撃のための能力を保有したことがなく、そのためそうした想定の訓練を実施したこともないと考えられます。仮に敵基地攻撃能力を本当に獲得しようとするならば、アメリカ軍などと共同でそうした訓練を繰り返し実施し、長い期間をかけてノウハウを獲得していく必要があります。

 また仮に、敵基地攻撃能力に必要な要素を全て保有したとしても、自衛隊はそれのみを行うための組織ではなく、同時に離島を含む日本自体への侵攻にも対処しなければなりません。

 つまり、敵基地攻撃にのみ力を注ぐことはできず、アメリカ軍との共闘が絶対的な条件とならざるを得ないのです。したがって敵基地攻撃能力といっても、それはあくまでも日米同盟の中でアメリカ軍の作戦を補完するという位置付けになることが予想されるというわけです。

 冒頭でも触れたように、これまで敵基地攻撃能力は北朝鮮の軍事的脅威への対抗策として議論が進められてきましたが、しかし、近年では急速に軍備を増強している中国への対応も視野に入りつつあります。中国の場合、ミサイル発射装置だけではなく、航空基地や海軍基地などへの攻撃も必要になることが想定され、北朝鮮の場合とは異なる能力が必要となります。

 敵基地攻撃能力について、これを保有するべきか否か、あるいはこれをどのような目的で保有するべきかについて、現実的な議論が求められます。

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