「ゲーム世代向けの戦車」とは? イスラエルのメルカバ改良版「バラク」 現実と仮想ここまで混濁

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AIざっくり要約

  • イスラエルの新型戦車バラクは外見はメルカバに似ているが、ソフトウェア面は大幅改良され市街戦対応強化を図っている。
  • バラクでは複数センサー情報をAIが自動融合し、ディスプレイ上で目標を強調表示することで状況認識能力が向上。
  • 主砲や装甲などハード面は旧式ながら、ソフトウェアを現代的な視点で改修し若い兵士も扱いやすい戦車となっている。

実験的な機能のため、正確性を欠く可能性があります。記事本文と併せてご確認ください。

「ゲーム世代向けの戦車」とは? イスラエルのメルカバ改良版「バラク」 現実と仮想ここまで混濁

イスラエル陸軍の主力戦車「メルカバMk.4」(画像:イスラエル国防省)。

イスラエルが同国の主力戦車「メルカバMk4.m」とよく似た外見の戦車「バラク」を量産するようです。市街地戦を想定して、ハードウェアは前世代的であれソフトウェアを更新し、“若い兵士が扱いやすいよう”工夫が凝らされているといいます。

近距離戦闘の能力を強化

 ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、戦車の必要性が見直されるという最近の潮流が影響したかはわかりませんが、2023年9月19日にイスラエル陸軍は、メルカバMk.5「バラク」の量産を発表しました。その後1か月も経たないうちにハマス・イスラエル戦争が勃発し、報道ではメルカバをはじめとする機甲部隊がガザ地区に侵入しているようです。

 ただ、そこに敵機甲部隊はいません。メルカバの相手は、市街地に立てこもりゲリラ戦術を使うイスラム組織「ハマス」で、繰り広げられるのはロシア・ウクライナ戦争とは違う狭隘な市街地戦闘、近距離戦闘です。

 メルカバは1979(昭和54)年に運用を開始したイスラエル独特の戦車です。もともとは敵対する周辺のアラブ諸国の旧ソ連製戦車T-54/55やT-62、T-72に対抗するために開発され、多くの実戦を経験してきました。しかし最近では、他国軍との対機甲戦闘は発生せず、2018年7月には「改修型バラク」の開発が公表されていたものの予算の優先順位は低く、量産は先送りにされていました。

 バラクの外見は前型のMk4.mとほとんど違いがありません。見分け方は、砲塔上の車長用サイト、パノラマサイトに2個の四角いレンズがあればMk4、丸いレンズであればバラクです。しかし外見上の違いはわずかでも、中身は大きく進歩しています。

 バラクの特徴は市街地での近距離戦闘の能力を強化するため、マン・マシンインターフェイスのソフトウェアが大きく改善されたことです。「状況認識、攻撃力、思考制御の面でまったく新しい性能を備えている」と、開発したエルビット社の幹部は答えています。

さながらバーチャルゲームのよう

 アピールされているのが、乗員をサポートする状況認識能力です。戦車は厚い装甲に守られていますが、外の状況は見えにくいもの。そのため、対戦車火器を抱えてこっそり近づく敵歩兵は難敵です。戦車は市街戦が苦手であり、イスラエル軍はこれまでの市街地戦闘経験から200m以内の距離を警戒し、100m以内の全周視界が欲しいと要望していました。

 そのニーズに応えたのが、砲塔に設置された全周カメラシステムで車長のヘルメットディスプレイに画像を表示する「アイアンビジョン」です。車長が車内に籠っていても、頭の指向方向とパノラマサイトが連動して、その方向の視界を得ることができます。しかもただ映像が流れるだけではありません。AI(人工知能)により、目標を自律的に探し出し識別して表示する機能もあるのです。

 戦車の外部視察を得る手段には、乗員の肉眼によるものから、昼間光カメラや夜間用光増幅暗視カメラ、サーマルカメラなど各種センサーがあります。ひとつの目標を複数のセンサーで走査すると、センサーの数だけ目標情報がアウトプットされ、人間がそれぞれを見て判断しなければなりませんでした。

 しかしバラクには全てのセンサーからのデータを統合・融合するソフトウェアが搭載されており、複数情報を自動的にひとつの目標情報として提示し、さらにAIによって目標を分類、脅威度を判定できます。まるでバーチャルゲームのように、ディスプレイに敵を強調表示してくれるので、状況認識能力は格段に向上したのです。

ハードは前世代的… なぜソフトをここまで改良?

 視界の限定される市街地戦闘では、投入された戦車や装甲車、歩兵や偵察ドローンなどの各ユニットからの情報をネットワーク化し共有することで有利になります。イスラエル陸軍には、C4I(指揮、統制、通信、コンピューター、情報)システムを介して他ユニットとリンクし共同交戦能力が実現できる戦闘管理システム「トーチ」(TORCH)があり、バラクもリンクできます。日本の10式戦車や16式機動戦闘車に搭載されているネットワーク交戦システムと、機能的には同じものではないかと推測されます。

 メルカバもドローンの攻撃を早速受けていますが、装備している敵の対戦車砲弾を撃ち落とすアクティブ防御システム(APS)「トロフィー」をドローン対策にも使おうとしています。敵弾を捉えるレーダーを応用してドローンを検知しようというのですが、トロフィーの迎撃弾はドローンには使えないので、撃ち落とすのではなく電波妨害装置に連動させて電子的に無力化するようです。

 メルカバはエンジンを前方に配置するなどユニークな構造で、乗員防護にも優れているといわれていますが、構造自体にはメリットはありません。新しい戦車が欲しいものの開発・購入する余裕がなく、メルカバを改修しながら使い続けているという現状です。

 バラクも主砲や装甲、エンジンなどハードウェアは20世紀の“枯れた技術”のままですが、ソフトウェアは21世紀のバーチャルゲームのようです。エルビット社の幹部は「スマホやプレイステーションに慣れ親しんだ若い兵士たちが、戦車に乗って戦わなくてはならなくなったときに、親しみやすいものにするため、私たちはこの2年間懸命に取り組みました。」と語っています。しかし、パレスチナの地で起こっていることはバーチャルではありません。

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