法的にどうなの? 尖閣周辺に中国公船が侵入&日本漁船を追跡 海保が可能な対応は…

法的にどうなの? 尖閣周辺に中国公船が侵入&日本漁船を追跡 海保が可能な対応は…

尖閣諸島周辺警備に専従する海上保安庁の巡視船「たけとみ」(画像:海上保安庁)。

尖閣諸島周辺海域に侵入を繰り返し、日本の漁船を追い回すことも辞さない中国船、法的にはどのように扱われるのでしょうか。2020年5月8日に発生した事案を例に、国際法や中国の狙い、海上保安庁の活動などについて見ていきます。

中国公船が尖閣諸島に領海侵入 日本漁船追跡も

 2020年5月8日(金)、沖縄県 尖閣諸島沖の日本領海内に中国海警局の公船2隻が侵入しました。海警局の船による日本領海への侵入は2012(平成24)年以降、常態化しており、2020年に入ってからだけでも、4月までに延べ28隻が領海侵入を行っています。

 しかし今回は、いつもとは少々事情が異なりました。尖閣諸島魚釣島の沖合約12kmの日本領海内で操業中の日本漁船に対して海警局の船が接近し、追跡してきたのです。さらに、翌9日(土)にも海警局の船2隻がふたたび尖閣諸島沖の日本領海に侵入しました。

 それでは、こうした一連の行動のどこが問題なのか、法的な視点から簡単にまとめていきます。

日本の領海に中国の船が入ってくることは問題ないの?

 今回の事件については、以下ふたつの視点にわけて考える必要があります。

●2020年5月8日、9日における尖閣諸島周辺領海への中国公船侵入に関するポイント
(1)中国海警局の船が日本の領海に勝手に入ってくることは問題ないのか。
(2)日本の領海内で中国海警局船が日本の漁船を追跡することは問題ないのか。

 まず(1)については、少なくとも「領海に入ってきてそのまま通り過ぎるだけ」であれば国際法上、何の問題もありません。

 海洋に関するさまざまな権利義務などについて定めた「UNCLOS」こと「国連海洋法条約」に規定されているように、船舶には一定の要件のもとに他国の領海を通航できる「無害通航権」が認められています。UNCLOSでは、無害通航を「それが通航にあたるか(第18条)」と、「それが沿岸国(この場合は日本)にとって無害であるか(第19条)」というふたつの要件に分け、両者に合致するものが無害通航となります。

 このとき「通航」は、継続的かつ迅速に行わなければならず、他国の領海内で停船したり錨を降ろしたりすれば、それがやむを得ない場合を除き通航とは見なされません(第18条2項)。そして、たとえ通航にあたるとしても、それが沿岸国の平和、秩序又は安全を害するような場合(第19条1項)、具体的には軍事演習や情報収集の実施、航空機の発着艦や漁獲といった活動を実施した場合には、それは無害な通航とは見なされません(第19条2項)。

中国海警局船の行動は「無害通航」にあたるの?

 それでは今回、海警局の船が日本の領海に侵入してきたことは、前述の要件に照らしてどう判断されるのでしょうか。

 まず、報道によれば海警局の船は約2時間にわたって日本領海内にとどまっていたことが明らかになっています。これは、UNCLOSの第18条2項にいう「継続的かつ迅速」な通航という規定に抵触する、いわゆる「徘徊」や「巡航」と解釈することもでき、そうであればこの時点で海警局の船は、そもそも通航を行っていないことになります。

 また、そもそも海警局の船が尖閣諸島沖の日本領海内に侵入してくる目的が、日本の尖閣諸島における実効支配に挑戦するためということを考えると、これはUNCLOSの第19条1項における「沿岸国の平和、秩序又は安全」を害する行為にあたり、たとえそれが通航にあたるとしても無害性を有さず、やはり無害通航にはあたらない可能性が極めて高いということが言えそうです。

日本の領海内で日本漁船を追跡することは問題ないの?

 続いて(2)についてですが、そもそも日本の領海内で操業する日本漁船に対して、中国海警局の船がなんらかの措置をとるということは国際法上、認められません。

 尖閣諸島を含む日本の領域には日本の法律の効力が及び、それに基づいて違法に操業する漁船に対して、たとえば海上保安庁などが取り締まりを行い、必要であれば捕まえて裁判を行うことになります。

 これらは専門的には日本の管轄権が及んでいる状態といいますが、中国の行動はまさにこれに挑戦し、逆に「尖閣諸島は中国の領土なので、中国の法律に基づいて違法操業を行う日本の漁船を追跡した」という実績を積み重ねていくことで、尖閣諸島には中国の管轄権が及んでいるという状態を作り出そうとしているわけです。

海上保安庁には何ができるの?

 こうした中国海警局の行動に対して、尖閣諸島の警備に従事している海上保安庁はどのように対応できるのでしょうか。

 先ほど確認したUNCLOSの25条には「沿岸国は、無害でない通航を防止するため、自国の領海内において必要な措置をとることができる」と規定されています。これは沿岸国の保護権というもので、海警局の船が無害通航を行っているとは考えられない場合には、海上保安庁はこの保護権の行使を認められ、かつ相手の行動と釣り合いがとれる範囲内で、海上保安庁法第18条2項などによる措置をとることになります。

 たとえば、海警局の船に対して日本の領海外への退去を要請したり、あるいは針路を変更するための接近をしたり、さらに日本漁船を保護するために海警局の船と漁船とのあいだに割り込んだりといった措置をとることが可能でしょう。また、もし海警局の船が海上保安庁の船に対して放水や進路妨害を行ってきた場合には、海上保安庁側も同様の措置を実施することが可能でしょう。

 他方で、武器を使用して追い出すべきだという主張も時折、見られますが、そのような強硬な措置をとることは中国側の活動と比較した場合の均衡性を欠いてしまうほか、かえって事態のエスカレーションを招き、問題をさらに複雑なものとしてしまうため、適法かつ妥当な方法とはいえません。

 現在、中国は尖閣諸島における日本の実効支配を弱めるために海警局の船を活動させています。こうした中国の考えをくじくためにも、海上保安庁が行っているような継続的かつ実効的な活動が必要不可欠であるということがいえそうです。

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