大統領のジョークがホントに…米空母が理想郷を意味する「シャングリラ」を冠したワケ

大統領のジョークがホントに…米空母が理想郷を意味する「シャングリラ」を冠したワケ

太平洋戦争終結後の1946年8月時点の空母「シャングリラ」(画像:アメリカ海軍)。

日本でも「シャングリラ」は理想郷(ユートピア)を示す言葉としてホテルやレストランなどの施設名から、楽曲名、小説や漫画のタイトルまで幅広く用いられていますが、過去には空母の名前にまでなっていました。

艦名「シャングリラ」の出典元はベストセラー小説…なぜそうなった?

「嘘から出たまこと」という慣用句があります。意味は、嘘のつもりでいった物事が本当になってしまうというものですが、太平洋戦争中のアメリカ空母に、そのとおりの艦が実在しました。艦名は「シャングリラ」といいます。

 ことの始まりは、太平洋戦争開戦から約半年後にアメリカが陸海軍共同で仕掛けた同国初の日本本土空襲、いわゆるドーリットル空襲です。

 1942(昭和17)年4月18日に、太平洋上のアメリカ海軍空母「ホーネット」から飛び立ったアメリカ陸軍のB-25爆撃機16機が、東京を筆頭に、川崎市や横須賀市、名古屋市、神戸市などを爆撃します。

 作戦が成功したことで、アメリカのルーズベルト大統領(当時)が記者会見を開きますが、その席上で記者団から爆撃機の発進位置をたずねられた際に、その場所は「シャングリラだ」と大統領は返しました。

 大統領の発言に、記者団はざわめきます。「シャングリラ」とは、戦前の1933(昭和8)年にイギリス人作家が発表した冒険小説『失われた地平線』に出てくる架空の地名で、チベット奥地、ヒマラヤ山脈近傍にあるとされた理想郷(ユートピア)の名称です。

 この小説はベストセラーになり、ハリウッドで映画化もされたため、アメリカ国内でも「シャングリラ」という架空の地名を知る人は多かったと見られます。記者のなかには真面目にとらえ、爆撃機は空母「シャングリラ」から発艦したと報じた新聞もありました。

 とはいえもちろんこれは、作戦の詳細を秘匿するためにルーズベルト大統領が記者団を煙に巻こうとついた嘘、というよりも、ほんの冗談にすぎないもののはずだったのです。

大統領の発言どおり「シャングリラ」が日本を攻撃

 1942(昭和17)年のドーリットル空襲が行われた時点で「シャングリラ」という名の空母は存在しませんでしたが、それから2年後、空母「シャングリラ」は本当に誕生しました。

 太平洋戦争開戦直前の1940(昭和15)年から、アメリカは次世代型空母としてエセックス級の建造を始めます。同級は太平洋戦争が勃発すると大量発注され、最終的に24隻が就役、その12番目が「シャングリラ」でした。

「シャングリラ」は、1944(昭和19)年2月24日の進水式で命名されます。艦名は前述のルーズベルト大統領の発言が由来とされ、式典にはドーリットル空襲を指揮したジミー・ドーリットル将軍(空襲当時は中佐)の妻であるジョセフィン・ドーリットル夫人が招待されています。

 7か月後の1944(昭和19)年9月15日に就役した「シャングリラ」は、各種訓練ののち日本近海まで移動すると、1945(昭和20)年6月2日から艦載機を用いた日本本土への攻撃を開始します。2年前にルーズベルト大統領が記者団の前で口にした冗談が本当になりました。

「シャングリラ」は中国の都市名にも

 太平洋戦争後、空母「シャングリラ」はいったん予備艦扱いになりますが、3年半で現役復帰すると複数回の改修を受けながら、太平洋と大西洋の両方で活動します。

 ベトナム戦争に参加したのち、1971(昭和46)年7月末に再び予備艦となり活動を終了、約10年間の保管期間を経て、1982(昭和57)年7月15日付けで除籍され、1988(昭和63)年に台湾で解体されました。

 アメリカの軍艦には、都市名や古戦場などの地名はよく使われますが、実在しない架空の名称を付けられた艦は稀です。

 ちなみに、前述の小説やそれを元にした映画などで「シャングリラ」の名は世界的に広まり、のちには「理想郷」と同義の言葉としても扱われるようになりました。2002(平成14)年には中華人民共和国(中国)雲南省にある中甸(ちゅうでん)県がシャングリラ(香格里拉)県に改称しています。さらに2014(平成26)年、市制が施行されシャングリラ(香格里拉)市になりました。

 架空の地名が実在するようになった、これもまた「嘘から出たまこと」のひとつの事例といえるでしょう。

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