線路がなくともタイヤで疾走 米陸軍開発の輸送車両「オーバーランドトレイン」の顛末

線路がなくともタイヤで疾走 米陸軍開発の輸送車両「オーバーランドトレイン」の顛末

12両を牽引した状態のTC-497「オーバーランドトレイン」。

鉄道を模したおもちゃを、子どもがレールなど無視して自在に走らせ遊ぶように、レールの有無に制限されず自由に走れる「陸上列車」というものがありました。かつてアメリカ陸軍と民間企業が開発した、その顛末を追います。

行先は自由自在な「陸上列車」の誕生

 大量の荷物を1度に運ぶことができる鉄道は、陸地においては自動車よりも輸送効率の良い運搬手段といわれています。一方で、鉄道は線路が敷設された場所にしか行けません。そこでレールがなくとも走れる巨大なゴムタイヤを持つ「陸上列車」と呼ばれた輸送手段を、アメリカ陸軍は作ろうとしました。

 きっかけは1950年代、テキサス州にある重機械メーカーのルトノア(ルトーナ)が、貨物列車のように走れる長大な貨物トレーラーの開発を始めたことです。

 トレーラーといっても、自動車のようにガソリンエンジンやディーゼルエンジンを積んだトラクター、いわゆるトレーラーヘッドが引っ張る方式ではなく、ディーゼル発電機で起こした電気を各台車の車輪に分配し、個々の車輪の駆動力で走るという構造で、2020年現在の日本の新幹線などと同じ、動力分散式といえるものでした。

 トレーラーヘッドが引っ張る、いわゆる動力集中式と比較すると、動力分散式の方が構造は複雑になるものの、ほとんどの車輪が駆動するため悪路走破性が高く、未舗装路の走行を想定した場合、動力分散式の方が理にかなっていました。

 1953(昭和28)年に、最初のタイプであるVC-12「トーナトレイン」が完成します。同車は500馬力のディーゼル発電機を搭載した動力車と3両のトレーラー(貨物車)からなり、トレーラーは各々20tの積載能力がありました。なおトレーラーは最大6両まで増やすことも可能でしたが、その場合は動力車を1台増やす必要がありました。

 完成したVC-12にアメリカ陸軍が関心を寄せます。それはアラスカでの使用を目論んだからでした。

未開の大地アラスカの運搬手段として注目された「陸上列車」

 1950年代、アメリカを中心とした資本主義国家と、ソ連を中心とした社会主義国家が対立する東西冷戦が激しさを増すなか、アメリカ本土のなかで最もソ連に近い最前線がアラスカでした。

 アメリカ陸軍は、ソ連から飛来する爆撃機やミサイルなどをいち早く探知するために、アラスカにレーダーなどからなる早期警戒監視網を構築しようとします。その際、未開の地に多くの物資を一度に運べる超巨大車両としてVC-12を用いようと考えます。

 早速、アメリカ陸軍はルトノアに資金協力をもちかけ、同社はより巨大な輸送車両の開発に着手し、1955(昭和30)年2月にVC-22が完成します。しかし、同車は発電機からの出火によって1年余りで廃車になったため、翌1956(昭和31)年に2車種目としてLCC-1「ロードトレイン」が作られました。

 LCCとは「ロジスティクス・カーゴ・キャリアー」の略で、牽引する3両のトレーラー合計で最大45tの積載量を有していました。早速、早期警戒監視網の整備補給に使用してみると有用であり、アメリカ陸軍はルトノアにさらなる発展型の開発を要求します。

大型輸送ヘリの登場が「陸上列車」にとどめを刺した

 こうして1958(昭和33)年に完成したのがTC-497「オーバーランド トレイン」でした。TC-497は、構造的にはかなり凝っており、高出力のガスタービン発電機を搭載し、車両の操縦性を高めるために、牽引するトレーラー(貨物車)の各車も遠隔でステアリングするようになっていました。

 また未開の地でも困らないよう、一部の車両には寝室やトイレ、キッチンまで備えられており、牽引能力が不足する場合には発電車を増設できるようにもなっていました。

 トレーラーもより多く、8両から12両つなげることが可能で、合計の最大積載量は150tあり、その状態で最大640kmを走破可能と、文字どおり貨物列車のような車両でした。

 しかし、完成したTC-497がアメリカ陸軍に採用されることはありませんでした。なぜなら、あまりにも凝った作りのため調達コストが跳ね上がってしまったからです。

 しかも同時期に重量物運搬用のヘリコプターが登場したことで、空輸の方が地形や障害物の影響を受けずに短時間で運べることから、アメリカ陸軍はヘリコプターを重用するようになり、TC-497に対する熱は一気に冷めていきました。

 こうして行き場を失ったTC-497は、民間に払い下げられることになりましたが、このような特殊車両を欲する民間企業はおらず、最終的にスクラップになりました。

 以後、ヘリコプターの輸送能力における急速な進化などもあり、このような特殊な運搬車両は作られていません。

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