「Go To キャンペーン」で高速バス復興なるか 活用には工夫が必要 その中身&その先

「Go To キャンペーン」で高速バス復興なるか 活用には工夫が必要 その中身&その先

高速バスは続行便が何台も出るほどの需要を取り戻せるのか。写真はイメージ(2019年12月、中島洋平撮影)。

新型コロナウイルスの影響により衰退した経済再生の刺激策として、政府主導で実施される「Go To キャンペーン」の全貌が見え始めました。観光や宿泊業だけでなく交通にも恩恵は大きそうですが、活用には事業者の工夫も必要です。

国の資料に見えた助成対象「高速バス往復+いちご狩り」

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの便が運休した高速バスですが、2020年6月現在、運行再開の動きが続いています。まずは帰省客などの利用に回復が見られ、そして国による観光振興策「Go To キャンペーン」も8月をめどに開始される予定とされており、今後は観光客の利用回復も見込まれます。

 その「Go To キャンペーン」について、『観光経済新聞』など専門紙は、「調整中の内容も多い」としたうえで、宿泊を含む旅行商品のほか、日帰り旅行にも国による半額の補助を予定と伝えています。補助のうち約7割は旅行代金の割引に使われ、残りは旅行先の飲食店、交通機関などで使える「共通クーポン」として付与される予定とのことです。

 対象となる旅行商品でまず思い浮かぶのが、貸切バスを利用する、旅行会社の「バスツアー」です。しかし、出発から帰着まで皆で同行するバスツアーより、個人旅行の需要の方が早く回復しそうです。そこで、高速バスや鉄道など公共交通を使う個人旅行がどこまでキャンペーンの対象となるか、が気になります。

 宿泊料金については、宿泊施設に直接予約した場合も対象となる一方、往復の交通については、それ単体では割引とはならないようです。つまり「往復の交通と、宿泊または現地での観光をセットにして、旅行会社やOTA(旅行予約サイト)で取り扱った場合」というのが条件の様子。一部の資料には、対象となる事例として、「高速バス往復+いちご狩り」という表現もみられ、国としても高速バスを支援する意思が伝わります。

 ところが高速バス事業者の立場から見ると、キャンペーンを活用するには、少し工夫が必要になりそうです。

ツアー以外では少ない「高速バス+観光」パック

 高速バスは、東京から富士五湖、大阪から有馬温泉といった観光地への路線も充実しています。地方在住者が、コンサートや有名店でのショッピングのため都市へ向かう利用も多く、広い意味ではこれも観光需要といえるでしょう。

 しかし、旅行会社に「お任せ」するバスツアーと違い、宿や観光を自身で予約する乗客がほとんどです。そのため、今回のキャンペーンの対象である「旅行会社で、高速バスと観光をまとめて予約」という例が意外と少ないのが現状です。

 旅行会社がセット商品を用意すればいい、と思われるかもしれません。確かに、店頭で「〇〇温泉へのバスと宿の予約を」と伝えれば、スタッフが手配してくれます。しかし、いちいち個別に手配するのは、旅行会社としては手間のわりに儲けがありません。一方、パッケージ商品をあらかじめ組むには、両者の在庫(座席と客室)を旅行会社が事前に確保するか、またはITシステムを連携させる必要があります。普段、高速バスの乗客はウェブなど自身で手配する人が多いので、多くの旅行会社は、そこまでの準備をしていません。

 両者の商習慣も異なります。旅行会社は、年度を上期と下期に分けて商品を作り、おおむね半年先までの予約を受けています。一方で高速バスは、1か月前(前月の同日)の予約受付開始が一般的です。航空などを利用するパッケージ商品を作る際、旅行会社は「〇時から〇時ごろ発」として予約を受けておき、利用する便が確定してから旅行者に伝えることが一般的です。しかし、高速バス事業者と旅行会社のあいだには、「おおよその時間帯で予約を受けておき、後日に確定」という習慣はなく、ITシステムも対応していません。

 それでも、大手私鉄系の旅行会社では、パッケージ商品を用意している例があります。たとえば京王観光は、京王バス東などが運行する高速バスと、河口湖温泉(山梨県富士河口湖町)や昼神温泉(長野県阿智村)の旅館をセットにした「バス&宿」シリーズを用意しています。この商品は、そのままで「Go To キャンペーン」割引の対象になると考えられます。

私鉄系バス会社は有利か

 需要喚起のためには積極的な告知も必要ですが、私鉄系ならその点でも有利です。鉄道の駅や車内でのポスター掲出、沿線で配布する広報誌への情報掲載などを、低コストで実施できます。グループ内の協力による拡販は、大手私鉄系のなかでも、前述の京王バスのほか、関越交通(東武系)、名鉄バスなどが、特に得意とするところです。

 このほか、有名観光地に立地するバス事業者も、自社の旅行業部門や子会社の旅行会社で同様の商品を持っています。「富士急ハイランド」(山梨県富士吉田市)への足として、富士急バスなどの高速バスは定着しており、富士急トラベルが提供するパッケージ商品も高い集客力を誇ります。

 たとえばアルピコ交通(長野県松本市)は上高地、濃飛バス(岐阜県高山市)は飛騨高山へのセット商品を持っています。また東京ディズニーリゾートなど大型テーマパークの入場券をセットにしたパッケージ商品は、ウィラーをはじめとする新規参入事業者が得意にしているところです。ただ、リピーターにはよく知られているものの、キャンペーンを機に新たな集客を図るには、より積極的な告知が必要でしょう。

 目的地にあたる観光・集客施設側が告知に協力的な例もあります。バス事業者自身が経営する「富士急ハイランド」はもちろんのこと、御殿場など各地のアウトレットモールも、高速バスを活用した集客に普段から熱心です。日帰りコースの場合は、「バス事業者が用意する企画乗車券を、旅行会社が代売する」という形式(法的には「手配旅行」)ならキャンペーンの対象になりそうですが、これも個別に手配していたのでは旅行会社にメリットがないので、オンラインで予約が成立するような仕組みを用意する必要がありそうです。

支援策は「Go To」だけじゃない!

 今回は国による「Go To キャンペーン」のほか、「地方創生臨時交付金」という支援策も用意されています。地域のために必要な対策を自治体が立案し、国に申請して交付金を得るものです。

 地方創生臨時交付金は観光分野に限定されるものではありませんが、この交付金を活用し、自治体が独自に「地元事業者の高速バスを利用して来訪すれば、運賃の一部を助成」という施策を行うことが期待されます。観光客が来てくれるだけでなく、その足として地元事業者の運行する高速バスが利用されれば、地元経済に貢献します。

「Go To キャンペーン」と異なり、旅行会社を通すことなく、個人がバスと宿を別々に手配した場合にも助成を行えるよう、自治体が施策を設計すれば、先に挙げた事業者以外の高速バスも対象にできそうです。自治体が立案する必要があるので、バス事業者と自治体の普段からの関係の深さや、各事業者から自治体への提案力も問われます。

 高速バスは、「地方の人の都市への足」として成長した経緯から、大都市発の観光客の需要を十分に取り込めていませんでした。一方で旅行会社は、貸切バスを使うバスツアーに熱心でした。両者は、近い存在のようで、意外と協力関係を構築できていなかったのです。しかし、高速バスの成長を支えた地方部では人口減少が進むうえ、新型コロナ後は出張やコンサートで都市へ向かう需要が完全に回復しないことが懸念されます。旅行会社のバスツアーは「お仕着せ」と感じられ個人旅行へシフトが進んでいたうえ、中心的顧客である高齢者層が、新型コロナ感染のリスクを嫌い出控えることが予測されます。

 個人観光客が使いやすい高速バス路線と、それに宿や現地の観光を上手に組み合わせて販売する流通網、というのは、実は以前から求められていたことなのです。一時的な需要回復策にとどめるのではなく、これを機に、個人旅行者が、自身の興味に基づき自分のペースでもっと自由に旅行を楽しめるようになるための改革が始まることこそ、「Go To キャンペーン」の真の目的と言えそうです。

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