列車の運転中に腹痛… を防ぐために鉄道員がしている体調管理 熱中症はどう対策?

列車の運転中に腹痛… を防ぐために鉄道員がしている体調管理 熱中症はどう対策?

乗務員にとって近くて遠い駅のトイレ(2014年3月、恵 知仁撮影)。

まれに列車の運転士が突然の体調不良に襲われ、鉄道のダイヤが乱れてしまうことがあります。とはいえ乗務員もひとりの人間、お腹も痛くなるでしょう。しかし及ぼす影響が大きい分、普段からどのように体調管理しているのでしょうか。

睡眠時間 飲酒量 薬の服用… 体調管理が欠かせない列車の乗務員

 最近よく聞かれる「モーニングルーティン」。決まった時間に起床し、食事をとり、トイレに行く……といった具合に、毎朝スケジュール通りに動くことをいいます。しかし鉄道員、特に列車の乗務員はそうはいきません。まず乗務員の勤務体系は担当する業務によって始業時刻も終了終業時刻も異なります。加えてトラブルによる遅延などで、それさえ時間通りにならない場合もあります。

 そのような乗務員にとって、自身のコンディションを整えることは大切な仕事のひとつともいえます。特に運転する直前にトイレへ行き、できるだけ業務に支障をきたさないように予防しておくことは基本中の基本です。

 そして、ほかにも睡眠時間、飲酒量、服用した薬、心の状態まで、様々な要因が運転に影響を及ぼしますから、常に心身状態が良好であることが求められます。事実、多くの乗務員はこれらの管理には十分気を配っており、私(西上いつき:鉄道アナリスト・IY Railroad Consulting代表)も現役当時、乗務前はしっかりと休養に努め、コンディション良く業務に臨めるように自己管理していました。

 そして乗務以外の勤務中も当然、無茶なことはしません。特にトイレ対策として、少しでも催したなら早めに済ませておきますし、お腹が弱いと自覚がある人などは、泊り明け勤務日の朝食や過度な水分補給を控えたり、冬場はお腹にカイロを貼ったりと、様々な工夫を凝らしながら自己防衛を図っています。

体調に気を配っていても運転中に具合が悪くなったら?

 しかし、運転士や車掌といった乗務員もひとりの人間ですから、それでも急に体調が悪くなってしまうこともあります。

 よく「運転中にトイレに行きたくなったときはどうするの?」と聞かれることがあります。ケースバイケースといえばそれまでなのですが、ひとついえるのは、通常通りの運行ができなくなる以上、体調不良であれ何であれ、基本的に自身の都合によって列車の運用(やりくり)を変更することになるのであれば、あらかじめ指令所に報告する必要があるということです。

 そこからは乗務員というよりも指令所の判断になります。少しでも遅延を出さないようにするのが指令の役目でもありますから、乗務員がトイレに行っても影響を最小限にできる運用を紹介します。

 たとえば急行列車の運転士が、終点までは我慢できなさそうだけど次の停車駅までならなんとか……という場合、次の駅に普通列車が待ち合わせしていれば、普通列車の運転士が急行列車の担当を引き継げます。急行列車の運転士はトイレに行き、その後、普通列車を担当することで、急行列車を長時間止めなくて済みます。ほかにも、交代要員の派遣が間に合う駅であれば、その方法がとられます。

 しかし、毎回このように上手くいくわけではありませんので、致し方なく列車を遅らせてでも用をたす場合もあります。

窓から差し込む日差し 乗務員室は熱中症の危険も

 特急列車などは停車駅が少ないので、次の停車駅まで我慢して運転することもありますが、もちろん無理は禁物。どうしようもないときは、ダイヤ上は停車しない駅で運転停車(客の乗降を伴わない停車)し、少し遅延を出して運転再開します。このような場合もあらかじめ指令所へ「生理現象」がある旨を知らせて、その後の運転方法の指示を仰ぎます。

 もうひとつ、これからのシーズンで注意しなければならないのは熱中症です。新しい車両は空調設備が整い、運転席も快適であることが多いですが、古い車両や窓からの強い日差しなどによっては、熱中症の危険性はなきにしもあらずです。失神など、特に運転士の体調不良は列車事故に直結するため要注意です。過去には熱中症が原因で意識を失い、オーバーランを発生させてしまったという事例もあります。

 熱中症の基本的対策として水分補給がありますが、乗務員はどのように行っているのでしょうか。最近ではあまり聞かなくなりましたが、ほんの数年前までは「乗務中に水を飲んでいる」といった本末転倒なクレームをする人がいたり、SNSに投稿されたりと話題になりました。

定時運行の裏にある乗務員の徹底した体調管理

 いまやこまめな水分補給が必要なのは常識ですが、乗務中の水分補給は、なるべく乗客の見ていないところで行うなどのルールもあるようです。現在では水分補給のほかに、眠気対策のアメやガム、タブレット菓子類が許可されている事業者も多くなってきました。

 なお、熱中症は自覚症状がないまま進行することもあるようです。運転士や車掌は基本的にひとりで乗務員室に入り業務をしているため、症状について他人からの指摘が遅れることもあります。乗務員は少しでも体調に異常を感じたら列車を止めて交代することが望ましく、そのような不測の事態に備えて、主要駅などに予備の乗務員が待機していることもあります。

 日本の鉄道が時間に正確であるといわれて久しいですが、裏を返せば乗務員がそれだけ気を配っていることの証でもあります。事実、乗務員の体調不良による列車遅延は滅多に発生していません。ただ、いざというときでも自分のせいで列車を止めづらいという気持ちは多かれ少なかれあることでしょう。体調不良により電車を止めてしまったり、あるいはそうしないよう水分補給をしていたりしても、周りが咎めるような世知辛い世の中にはしたくないものです。

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