【レッドブル・エアレース】第4戦ブダペスト大会・ソンカ復活勝利!室屋は無念のオーバーG

【レッドブル・エアレース】第4戦ブダペスト大会・ソンカ復活勝利!室屋は無念のオーバーG

2018年フ?タ?ヘ?スト大会1位ソンカ選手・2位フ?ラシ?ョー選手・3位ホール選手(Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

 レッドブル・エアレース2018の第4戦、ブダペスト大会がハンガリーの首都ブダペストの世界遺産地区「ブダペスト旧市街」を流れるドナウ川で6月23日(予選)・24日(決勝)に開催され、両日合わせて13万5000人(主催者発表)の観衆の前で、チェコのマルティン・ソンカ選手が今シーズン初勝利を挙げました。2017年の年間チャンピオン、日本の室屋義秀選手は決勝初戦となるラウンド・オブ14最初の縦のターンで不運なオーバーG(12.45G)をマークしてしまい、DNF(ゴールせず)となり、ノーポイントの11位に終わりました。 (見出し写真:Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool)

 ■世界遺産を舞台にしたレッドブル・エアレース「伝統の一戦」

 「ドナウの真珠」とも称される世界遺産地区のブダペスト旧市街(1896年開業のブダペスト地下鉄1号線を含む)、西岸のブダ地区と東岸のペスト地区の間を流れるドナウ川を舞台に、街の象徴であるセーチェーニ鎖橋(桁下高:平均10m)をくぐり抜けてスタートする独特の形式で行われるレッドブル・エアレース第4戦ブダペスト大会。レッドブル・エアレースが創設された2003年から開催が続いており、自動車のF1モナコグランプリ、ラリーのモンテカルロラリーなどに例えられる「伝統の一戦」です。目の前にはブダペスト随一の高さ(96m)を誇るネオ・ゴシック様式のハンガリー国会議事堂(1904年完成)が建ち、その中には約1000年前に成立したハンガリー王国の初代国王、聖イシュトバーンの王冠(ハンガリーの聖冠)をはじめとする歴代ハンガリー王が受け継いできた戴冠用の品物があります。まさに「ハンガリーの中心」で行われる大会です。

 さらにブダペスト大会を象徴づけるのは、ドナウ川にかかるブダペスト最古の橋であるセーチェーニ鎖橋(1849年完成)の下をレース機がくぐり抜けてレーストラックに入ること。川の流量にもよりますが、橋の桁下高は平均10m。そこをくぐって今度は高さ15〜25mのフライトウインドウ(レース機が通過するエアゲートの範囲)まで上昇してスタートするという、独特の方式です。2009年まではセーチェーニ鎖橋自体がスタートゲートを兼ねていましたが、2014年からは現在のように橋をくぐり抜けてスタートゲートに向かう方式になりました。もちろん、川の流量が多い際には安全面を考慮して、橋の上を通過してスタートゲートに向かいます(例:長雨で水位が上昇した2016年シーズン)。

また、ドナウ川は国際河川で国際航路でもあるため、ちょうどマラソン大会の時に道路を交通規制するように、飛行が行われる時間帯だけ船舶の通行を規制してレーストラックを設置しています。毎日飛行する時間が終わると、一旦エアゲートを乗せた台船を岸に移動させて船舶の航路を開け、また翌日飛行時間前にレーストラックを設営するというユニークな運営がなされています。この台船の移動には、ハンガリー国防軍(陸軍)の水陸両用車が活躍しています。

 レーストラックはセーチェーニ鎖橋と、ブダペスト市内でドナウ川にかかる橋としてはセーチェーニ鎖橋に次いで2番目に古い橋であるマルギット橋(1876年完成)との間に設定されます。2017年に比べ、2018年のトラックは各ゲートが直線的に並ぶレイアウトとなり、ゲート7からゲート8に折り返すハイGターンも、2017年のように横ではなく、全てのパイロットが縦のターン(VTM)を選択しました。直線的であるがゆえに、スピードが乗った状態でゲート7からの縦のターンに入ることになり、オーバーGに気をつけなければいけません。また、そこで失速してしまうと、ずっと横方向にターンし続けるために加速できる直線のセクションが少なく、失ったエネルギーを取り戻しにくいという、ミスが後々まで尾をひくというレイアウトです。

 金曜日のフリープラクティスから今回は気温が低く、決勝の日で比較すると2017年が摂氏24度・湿度49%に対し、今年は摂氏20度・湿度48%。気温が低いと空気の密度が上がり、エンジンの出力が出やすいので、各パイロットともスピードが上がっているように感じました。

 また、舞台がヨーロッパに移ったことで、ヨーロッパを拠点とするパイロット達にとっては、レース機に改良を加えるタイミングとなります。今回ブダペストに大きな改良を施したレース機を持ち込んだのは、フランスのフランソワ・ルボット選手。このレース機(エッジ540V3・登録記号:N540HA)を使っていた故ハンネス・アルヒ選手のタクティシャンだった航空力学の専門家、ハルトムート・シーグマン(シギー)さんがタクティシャンとしてチームに加わりました。この機体を知り尽くすシーグマンさんの設計による大型のウイングレットとボーテックス・ジェネレータ、タービュレイター(スピードスケートのユニホームにつけられるギザギザのテープ)を装着。ルボット選手によると感触は上々のようで、これが日曜の決勝で証明されました。



 ブダペスト大会では、パイロンの台船を移動させる水陸両用車の他にも、ハンガリー国防軍が協力しています。サイドアクトでは空軍のサーブJAS39グリペンやA319、C-17輸送機といった大型機も飛来し、ドナウ川上空を飛行しました。


 民間機による飛行展示もあり、隣国のオーストリアからレッドブルの保有するディスプレイチーム「フライング・ブルズ」からP-38、B-25といった大戦機やT-28、アルファジェット、宙返り可能なヘリコプターとして知られるBo105(操縦は成層圏からスカイダイビングしたフェリックス・バウムガートナーさん)に、4機のXA42によるフォーメーションエアロバティックも。もちろん、地元のヒーローであり、レッドブル・エアレースの生みの親、ピーター・ベゼネイさんも、現役最後のシーズンとなった2015年途中(第3戦ロヴィニ大会)までレース機として使用していたコーバス・レーサー(CA41)で、エアロバティック飛行を見せてくれました。



 ■ドルダラーが体調不良で欠場

 金曜日のフリープラクティス、そして土曜日のフリープラクティスで、特に縦のターン後にらしくないミスを連発していたマティアス・ドルダラー選手。どうも体調に不安を抱えていたようで、予選が始まる前にこの大会の欠場を決めました。体に大きな負担をかける競技ですから、無理をして飛んで事故を起こさないためにも、賢明な判断だったと思います。千葉大会でも夏風邪をひいて、取材中に咳き込む場面のあったドルダラー選手、次のカザン大会には元気な姿で戻ってきてほしいものです。

 ■予選はソンカがトップ室屋は2位・上位7名が1秒以内にひしめく激戦

 短い範囲で往復を繰り返すレーストラックのため、予選は激戦となりました。トップタイムをマークしたのはチェコのマルティン・ソンカ選手で57秒600。開幕戦のアブダビ、第2戦のカンヌとエンジンに起因する不具合でDQ(失格)となっていたソンカ選手。千葉大会の後、ようやくエンジンの修復を行うことができ、6つあるシリンダー全部を交換するという大手術となりました。まだ部品の馴染み具合を示す「アタリ」が十分でないということでしたが、エンジンの不安なく飛べるというのは精神的にもプラスでしょう。

 わずか0秒032差の予選第2位につけたのは日本の室屋選手。千葉大会の予選まで試していた小さい垂直尾翼「スモールテイル」は一旦封印し、元の大きさの垂直尾翼でブダペスト大会に臨みました。スモールテイルは、シビアな場面での細かい操縦感覚など、もう少し熟成させてから再投入するようです。

 3番手はフリープラクティスで好調だったチェコのコプシュタイン選手で、トップから0秒272差の57秒872。ホイールパンツを改良し、空気抵抗を低減した効果が出たようです。まだまだ改良の途中とのことなので、更に進歩するようです。チェコはハンガリーからも比較的近い(チェコの首都プラハからブダペストまでは、東京から京都くらいの距離)ので、チェコからソンカ選手、コプシュタイン選手を応援する人も多くいました。

 しかしトップのソンカ選手から7位のチャンブリス選手までの差は、わずか0秒841差。8位のベン・マーフィー選手は、スモークが出ないことによる1秒ペナルティがついて1秒370差の57秒970だったので、実質的に8人のパイロットが1秒以内にひしめくという大激戦になりました。これだけ僅差になると、ラウンド・オブ14でも油断すると予選上位の選手でも簡単に勝敗がひっくり返ります。

 また、開幕戦の勝者で年間ライキング首位のホール選手と同ポイントの2位(優勝回数の差による)につけているグーリアン選手がオーバーG(12.31G)でDNF、予選13位となったため、室屋選手とグーリアン選手が決勝のラウンド・オブ14で対戦することに。ドルダラー選手の欠場(予選14位扱い)により、オーバーGや3回のパイロンヒットでDNFにならない限り、飛ぶだけで自動的にラウンド・オブ8に勝ち抜けられるソンカ選手に比べて、非常にタフな組み合わせとなりました。

 ■風がオーバーGを呼んだラウンド・オブ14

 決勝は気温摂氏20度と涼しい気候となり、エンジン出力が上がってスピードの出やすい条件になりました。また、ほぼ南北に流れるドナウ川に直交する西寄りの風が強く吹き、建物に囲まれた底にあるレーストラックと、建物に遮られない上空(最も高い建物が国会議事堂の塔で96m、縦のターンでは最高点がこれより高くなる)では風の向きと強さが異なる難しいコンディションに。このため、決勝のラウンド・オブ14では予期せぬオーバーGが頻発しました。

 最初の対戦で、まずカナダのマクロード選手が12.42GでDNF(ゴールせず)となり、先にミスなく58秒234の好タイムで飛んだチリのボルトン選手が勝ち抜け。縦のターンで機体を上昇させる際、一瞬操縦桿を引く力を抜いてGを軽減させる「ダブル・スティック」というテクニックを、早い段階で身につけたマクロード選手がオーバーGを記録したことを皮切りに、オーバーGに翻弄されるパイロットが複数出ることになりました。

 ルボット選手57秒892、ホール選手56秒852とレベルの高い対戦となったヒート2に続いて、ヒート3では先攻のベラルデ選手(スペイン)が最初の縦のターン(VTM)で12.24Gを記録してしまいDNF(ゴールせず)。後から飛んだブラジョー選手が58秒293でラウンド・オブ8へ駒を進めました。

 イワノフ選手(フランス)対コプシュタイン選手(チェコ)のヒート4は、59秒417と少々遅めのタイムをマーク。そのタイムを無線で聞きつつ後攻で飛んだコプシュタイン選手は、自身の予選タイム(57秒872)からすれば十分な差があると判断したのか、オーバーGでDNFを避ける「守りの飛行」に終始します。が、あまりにも手加減しすぎました。逆にイワノフ選手より0秒048遅い59秒465となり、本人も予想だにしない敗戦を喫してしまいました。

 ルーキーのマーフィー選手と最もキャリアの長いチャンブリス選手の対戦となったヒート5。スモークシステムの不具合で1秒のペナルティを受けなければ、チャンブリス選手を上回るタイムで予選を飛んでいたマーフィー選手が58秒996で飛ぶと、後攻のチャンブリス選手はプッシュして飛んだ結果、最初の縦のターンで10.98Gを0.660秒記録し「10G以上12G未満は0.6秒以内」という規定をわずか0秒060超過してしまい、2秒のペナルティ。チャンブリス選手はプッシュし続けて挽回を図りますが、0秒532足りませんでした。

 そしてオーバーGの魔の手は室屋選手にも襲いかかります。先にグーリアン選手が57秒504の好タイム(ラウンド・オブ14で2番目)をマーク。これを受けてスタートした室屋選手は、最初の縦のターン(VTM)で上昇した際、突発的な強風(ガスト)で機体が押され、これにより機体の角度が意図した以上に早く変化して12.45Gを記録。DNFとなってしまいました。しかし、スタートからゲート7までのタイムを比較すると、グーリアン選手の18秒320に対し、室屋選手は18秒630と0秒310遅く、オーバーGがなくても挽回は難しかったかもしれません。また、ファステストルーザーとなったルボット選手のゲート7までのタイムは18秒094と、さらに速いタイムなのでファステストルーザーでの進出も厳しいものがありました。


 これに対し、予選トップのソンカ選手は相手のドルダラー選手が欠場しているため、安全に飛んで難なくラウンド・オブ8に進みました。ファステストルーザーは全体3番目のタイムをマークしたルボット選手。機体のスピード不足に悩んでいたルボット選手にとって、このタイムはこれからの希望となるでしょう。

 ■比較的順当なラウンド・オブ8でブラジョーが初のファイナル4進出

 オーバーGで荒れたラウンド・オブ14に比べ、ラウンド・オブ8は比較的順当な結果となりました。フリープラクティスからタイム上位だった選手(ブラジョー選手、ソンカ選手、グーリアン選手、ホール選手)が順当に勝ち抜け。敗れた選手の中では、ルボット選手が58秒786と、ラウンド・オブ8全体では3番目のタイムをマーク。対戦相手がソンカ選手(全体2番手タイム)でなければ、と惜しまれます。しかしこのタイムは敗者最上位であり、ルボット選手は今シーズン最高順位である5位になりました。

 逆に心配になったのがマーフィー選手と対戦したグーリアン選手。最初の縦のターンを行うゲート7で、操縦桿を引くタイミングが早く、クライミング・イン・ザ・ゲートのインコレクトレベルで2秒のペナルティ。マーフィー選手も同じ縦のターンに入るタイミングが早く、ゲート7とゲート18(同じマルギット橋側のゲート)でクライミング・イン・ザ・ゲートのインコレクトレベルで計4秒のペナルティを受けており、少々ミスの多い対戦となりました。

 ■ファイナル4でグーリアンまさかのミス

 ラウンド・オブ8と間をおかずに行われたファイナル4では、初の進出となったブラジョー選手がまず57秒849と好タイムをマーク。続いて飛んだソンカ選手が57秒502と上回り、暫定トップに立ちます。3番目に飛んだグーリアン選手は、スタート直後のゲート3でまさかのパイロンヒット(+3秒)。国際映像の解説を務めるポール・ボノムさんが「初歩的なミス(SchoolBoy Miss)」と表現した通り、本人も後に「なぜパイロンヒットしたのか判らない」と語るほど、意外な場所で飛び出したミスでした。これでリズムが崩れたか、ゲート7で縦のターンを早く開始してしまってクライミング・イン・ザ・ゲートのインコレクトレベル(+2秒)、さらに2回目の縦のターンを終えたゲート14でインコレクトレベル(+2秒)と、計7秒のペナルティを受けてしまい1分4秒256と散々なタイムとなってしまいました。

 最後に飛んだホール選手は、グーリアン選手のタイムを聞き、無理に優勝を狙うのではなく年間チャンピオン争いを考えて「よりコンサバティブ(保守的)に、彼(グーリアン選手)より上位に入れば十分。無理に(優勝と年間チャンピオン争いの)二兎を追う必要はない」という戦術に切り替え、ミスを避けるフライトをして58秒163でフィニッシュ。

 この結果、ソンカ選手が今シーズン初優勝。初のファイナル4進出を果たしたブラジョー選手は、初表彰台となる2位の座も手に入れました。3位にはホール選手。表彰式でブラジョー選手は喜びを全身で表していました。


 マスタークラス昇格前の2016年に単独インタビューした際、筆者は「ファイナル4に進出できれば、ちょっとしたチャンスをつかめば表彰台に上がれるから、案外表彰台に乗る日は近いかも」という話をして、ブラジョー選手も「そうなればいいね。ファイナル4で全てを出し尽くしていけば、いくつか表彰台、あるいは優勝も近い将来狙えるかもしれない」と語っていたのですが、ついにその日が来たのか……と個人的には感慨深いものがありました。

 ■年間ランキングはホール単独トップ、室屋は5位に後退

 ブダペスト大会の結果により、年間ランキングはホール選手が45ポイントで単独トップに立ちました。2ポイント差の43ポイントでグーリアン選手、そしてソンカ選手が34ポイントで3位に浮上しました。室屋選手は2戦連続のノーポイントで19ポイントのまま。順位も5位に後退し、トップのホール選手までは26ポイントと、連続チャンピオンを目指すには正念場に立たされた感があります。昨年もホームレースである千葉大会の後に調子を落としており、ホームレースは室屋選手にとって諸刃の剣的なものがあるのかもしれません。

 レッドブル・エアレースはこの後、約2か月のインターバルがあり、その間に各チームともレース機の調整や改修を行います。開幕戦のアブダビで大きく機体を損傷してしまったイワノフ選手も、ウイングレットやキャノピー、後部胴体などが元に戻り、戦闘力を増してくると千葉大会でチームタクチシャンが筆者に語ってくれました。室屋選手もこの間に精神のリセットを行い、戦略の練り直しを図るものと思われます。

 シーズン後半戦の始まりとなる次戦、レッドブル・エアレース2018第5戦は、現在開催中のFIFAワールドカップで日本代表のキャンプ地となっているタタールスタン共和国の首都、カザン(ロシア語読み:カザニ)の世界遺産「カザン・クレムリン(カザンスキー・クレムリ)」が見下ろすカザンカ川を舞台に、8月25日(予選)・26日に開催予定です。

(咲村珠樹)

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