イギリス防衛科学技術研究所 堀場製作所グループ企業と化学兵器探知ロボットを開発

イギリス防衛科学技術研究所 堀場製作所グループ企業と化学兵器探知ロボットを開発

化学物質検知ロボット「マーリン」とイギリス空軍連隊の兵士(Image:Dstl)

 イギリス国防省の外局、防衛科学技術研究所(Dstl)は2021年1月14日(現地時間)、化学兵器や有害な化学物質に汚染された場所で、自律的に活動して汚染物質を検出するロボットを日本の堀場製作所傘下の民間企業と開発し、実地試験を成功させたと発表しました。このロボットは、広範囲な有害化学物質汚染の調査において、人間の負担を大幅に軽減するものです。

 防衛科学技術研究所(Defence Science and Technology Laboratory=Dstl)は、最先端の科学技術を防衛・安全保障分野に応用する研究をしているイギリス国防省の外局。国防省だけでなく、内務省や民間企業とも連携して研究開発を行っています。

 現代の戦場において、もっとも警戒すべき大量破壊兵器の1つが毒ガスなどの化学兵器。国家を対象にした化学兵器禁止条約が1993年に署名(1997年に発効)されていますが、北朝鮮などが締結していないのに加え、1990年代にオウム真理教(現:アレフなど)が起こした「地下鉄サリン事件」など一連の化学兵器テロでも分かるように、その気になれば民間人でも作れてしまうことから、非常に危険な存在です。

 化学兵器は、特定の地域に散布することで効果を発揮します。しかも、その特性から人間の五感に頼ることは非常に危険なため、化学兵器(有毒化学物質)存在の有無については、特殊な装備を使用した「化学偵察」というものが必要です。

 日本の陸上自衛隊でも、化学科の装備として「NBC偵察車」や「化学防護車」といった車両装備や個人装備がありますが、その特性から長時間活動するのは限界があり、広範囲で汚染状況を調査するのには時間がかかるのが実情。このためイギリスでは、自律的に活動するロボットに化学物質の汚染状況を調査させ、人間の負担を軽減させる研究「サービタス計画(Project Servitus)」に取り組んでいます。

 今回、イギリス国防省と内務省が出資し、民間企業のHORIBA-MIRAと共同開発したのが、化学物質探知ロボットの「マーリン(Merlin)」。HORIBA-MIRAは、日本の堀場製作所が2015年に事業買収した、次世代モビリティ関連のイギリス企業です。

 化学偵察ロボットのプロトタイプとして作られたマーリンは、地表近くにガス検知センサーやAIを活用した物体認識機能を搭載し、最大で1万平方メートル(1ヘクタール)の範囲を調査可能。人間は有毒化学物質の脅威から離れた安全な場所で、マーリンから送信されるデータを確認し、汚染状況を把握することができます。

 マーリンはタブレット端末で簡単に操作でき、運用員の訓練も短時間で済むようになっているといいます。実験に参加したイギリス空軍連隊第27中隊(CBRN戦対応部隊)の広報担当者は「開発初期の段階に参加することはとても興味深いと同時に、非常に熱心で親しみやすく、我々の経験に耳を傾けてくれるMIRAやDstlの担当者と仕事をするのは大きな喜びでした。このシステムは大きなポテンシャルがあり、ロボットのAIと我々のスタッフを試験するのは、よいベンチマークになります」と実験を総括しています。

 実験の最終段階、マーリンは汚染されている場所とされていない場所双方での化学偵察に成功。汚染地域において、安全な汚染されていないルートを見つけることにも成功したといいます。AIは的確に物体を認識し、障害物の多い場所でも有効に活動できることが実証されました。

 この計画でDstl側の技術チームを率いるアンディ・マーティン氏は「サービタス計画は、軍事および緊急時サービスに従事する人々に、より安全で効果的な将来像を明確に示すものです。この技術は様々な分野で大きな可能性を秘めており、CBR(化学・生物・放射性物質)汚染環境だけでなく、そのほかの場所でも安全なルート検出に役立てることができます」と語り、戦場だけでなく災害現場でも応用可能だとしています。

 人間を危険にさらすことなく状況を把握し、人間が活動可能な場所を見つけるという任務は、これから大いに発展が見込まれる分野。マーリンは両手で抱えられるほどの小さなロボットですが、大きな可能性を秘めています。

<出典・引用>
イギリス防衛科学技術研究所 プレスリリース
Image:Dstl

(咲村珠樹)

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