諦めずに夢を追い続け、映画『審判』の主演を射抜いた俳優のストーリー

番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】

きょうは何度も役者の仕事を諦めかけながら、思いとどまって続けた結果、40代で初めて映画の主演に抜擢。海外上映も決まった男性俳優のグッとストーリーです。

映画『審判』で主演をつとめた にわつとむ さん

ドイツの作家、フランツ・カフカの小説をもとに、イギリス人のジョン・ウィリアムズ監督が舞台を現代の東京に置き換え、日本人の俳優を使って、日本語で撮った映画『審判』

30歳の誕生日を迎えた「銀行員K」が朝目覚めると、そこに立っていた2人の見知らぬ男に、突然「逮捕」を告げられる不条理劇を、ブラックユーモアとサスペンスを交えて映画化したこの作品は、6月末から渋谷の映画館で3週間にわたって上映され、大きな反響を呼びました。

映画『審判』プレミア試写会での集合写真

主人公を演じたのが、俳優の にわつとむさん・43歳。初日の舞台挨拶でこうコメントしました。
「もうウルウルしています。何度も俳優を辞めようと思って、20数年やってきました。今日、ここに立てていることが幸せです。人生懸けた映画、楽しんでください!」

「ここに立てていることが幸せ」と語るにわさん。万感の思いが感じられる

兵庫県・西宮市出身のにわさんは、中学生のときに観たドラマ『北の国から』に感銘を受け上京。
慶応義塾大学に在学しながら、ある若手人気俳優の付き人として3年間修行しましたが、事務所から「このままマネージャーにならないか」と打診されて固辞。今度はお笑いの道に入ります。

「コントなら、芝居の勉強にもなるかなと思って」と言うにわさんは、コンビを組んで活動。
「“役者もできる芸人”を目指していた頃に、ジョンと出逢ったんです」

イギリス人映画監督のジョン・ウィリアムズ氏

小津安二郎監督の作品など、日本映画に憧れ30年前に来日。大学で講師をしながら自主映画を撮っていたウィリアムズ監督。劇場公開第1作の出演者をオーディションで募集し、にわさんは興味を持って応募しました。ウィリアムズ監督は、演技に対して真剣に向き合うにわさんを気に入り、準主役に抜擢。

さっそく撮影に入りましたが、地方ロケの間は芸人の仕事はできず。ある日、コントライブを終えた後、にわさんは相方に突然こう切り出されました。
「オレ、今日を最後に、芸人辞めて田舎に帰るわ……だってお前、俳優になりたいんだろ?」
にわさんのロケ先を訪ねたとき、すべてを察した相方は泣いていました。「彼とは今も友達です」と言う、にわさん。

映画『審判』撮影のようす

コンビを解散し、フリーの俳優として活動することになったにわさん。ウィリアムズ監督の映画を観たディレクターから声が掛かり、NHKの朝ドラに脇役で出演。
その頃、結婚もしましたが、事務所には恵まれず、仕事もだんだん先細ってきました。そんなとき、共働きで支えてくれた奥さんがガンに……。

「オレ、役者辞めて就職するわ」と告げたにわさんに、奥さんはこう言いました。
「本当にそれがあなたのしたいことなの?」……そこで、ハッ! と我に返ったにわさん。

映画『審判』からのワンシーン

幸い、奥さんのガン手術は成功。あらためて本当にやりたいことを見つめ直したとき、真っ先に浮かんだのがウィリアムズ監督との映画作りでした。
1作目に出演して以来、ずっと付き合いを続けていたにわさん。5年前に二人で始めたのが、カフカの『審判』を映画化するプロジェクトでした。

映画『審判』プレミア試写会の様子

日本に来て30年のウィリアムズ監督。今の日本が『審判』が書かれた第二次大戦前のドイツに似ている、という思いから映画化を決めました。
二人は知り合いの役者を集めて、まずは舞台公演を行い、それを叩き台に脚本を練り上げていきました。理想の俳優をオーディションで集め、足りない資金はクラウドファンディングで調達。

映画『審判』の撮影風景

「難しい役でしたが、役になりきって、役の中で生き続けようと心掛けました」と言うにわさん。
めったに褒めてくれないウィリアムズ監督が、粗(あら)編集を終えたあと、興奮して電話をかけてきました。「ツトム! 君の演技は素晴らしいよ! 画をつないだだけで演技がすべてを物語っている。これはツトムの代表作になる!」

「役の中で生き続けようと心掛けた」と撮影の心境を語ったにわさん

にわさんは言います。「僕はこの映画ですべてをさらけ出したので、一度たりとも嘘をついていません。お客さんに『いい映画をありがとう』と言われたのは初めてです。役者を辞めなくて本当によかった……」

八木亜希子 LOVE&MELODY
FM93AM1242ニッポン放送 土曜 8:00-10:50

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