介護事業所「あおいけあ」加藤忠相〜介護における“アイデンティティ”と“ストリングス”

黒木瞳がパーソナリティを務める番組「あさナビ」(ニッポン放送)に株式会社「あおいけあ」代表取締役の加藤忠相が出演。高齢者の方との接し方について語った。

加藤忠相

黒木)今週のゲストは株式会社「あおいけあ」代表取締役の加藤忠相さんです。高齢者の方々と接するにあたって、その方を知ることも大切だということです。この辺りも教えていただけますか?

加藤)いちばん重要なのは情報です。私たちの世界ではアセスメントと言います。私も以前、デイケアサービスをやっていました。そのときにケアマネさんから送られて来る情報がA4用紙2枚くらいで、大体の場合は相手の弱点ばかり書いてあるのですね。「加藤さんは徘徊します」とか、「左半身麻痺があります」とか、「もの盗られ妄想があります」とか。でもそれだとケアができないのです。その人がどこで生まれて、何を食べて生きて来て、何に誇りを持っていて、趣味は何で、仕事は何をして来て、最後はどこで誰とどのように過ごしたいのか。そういうことを知らないとケアができないのですね。

黒木)人としての尊厳ですよね。

加藤)そうですね。「認めてもらっている」というのはすごく大事だと思うのです。よく「その人らしさ」と言いますけれど、「あなたのその人らしさとは何ですか?」と聞かれたときに、けっこう困りませんか?

黒木)そうですね。

加藤)一生懸命考えたのですけれど、例えば私だったら、実は楽器をやるのですが、演奏し終わって拍手をもらっているときが自分らしいかなと思います。「その人が一生のなかで何を大事にして来たのか」とか、「何を得意として来たのか」など、充実している時間がその人らしさの根源ではないでしょうか。女性ならば、多くの方は料理や洗濯が私よりもはるかにうまいですよね。そういうところにちゃんと着目するのです。

黒木)なるほど。

加藤)介護職員で「認知症の高齢者に包丁を持たせたら危ないです」と言う人がいますが、私に言わせれば、「あなたが持つ方が危ない」と普通に言います。私たちよりも、何十年も家族のため、子どものために料理をつくって来たおばあちゃんたちの「手続き記憶」の方がはるかに信用できます。

黒木)記憶にもいくつかあって、いまおっしゃったように手続き記憶というものがあるという。

加藤)銀行員の方だったら、うちの経理を一緒に計算してもらいます。すごい動きをしますからね。植木職人の方もいれば、いろいろな仕事をやっていらっしゃった方たちなので、逆にこちらが教わりながらやっていると、「ここは私が大事にされている、あてにされている」という場所になりますよね。

黒木)加藤さんの書かれた本のなかに、重要なのはアイデンティティ、それとストリングスという言葉があるのですが、この辺を教えていただけますか?

加藤)例えば前に来ていたおばあちゃんが、全然来てくれなくなったのです。来れたとしても、ずっと入口の傍で鞄をかけたまま、「帰りのバスはまだですか」とずっと待っている。帰りたくて仕方がないのです。情報を見たら、気仙沼出身だったのです。たまたま岩手へ出張に行ったときに、デパ地下でホヤを見つけて、「これだ」と思い、10個買ってうちの事業所に送りました。ヘルパーさんに「そのおばあちゃんに手伝ってもらってください」と言ったのです。周りのおばあちゃんはホヤを見たことがないから、「何それ、食べられるの?」くらいなのですが、そのおばあちゃんはザクザク捌き始めたのです。それでみんなに褒められますよね。そうすると鞄を放り投げて、みんなに「これを食べなさい」と言って振る舞い始めたのです。「すごいわね、すごいわね」とみんなから褒められるではないですか。ますます「これくらいできなきゃね」という感じになって、堂々として来る。「ここは私の居場所だ」となるのです。おばあちゃんにとってのストリングスは「ホヤを捌ける」ということで、他の人にはないストリングスです。アイデンティティは三陸出身ですよね。そこをきちんと考えてあげると、多くの方が元気になります。

加藤忠相

加藤忠相(かとう・ただすけ)/「(株)あおいけあ」代表取締役

■1974年生まれ。東北福祉大学社会福祉学部社会教育学科卒業。
■大学卒業後、特別養護老人ホームに就職するも、介護現場の現実にショックを受け、25歳のときに神奈川県藤沢市で「株式会社あおいけあ」を設立。代表取締役。「グループホーム結(ゆい)」「デイサービスいどばた」の運営を開始。また2007年より小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」を開始。
■「あおいけあ」ならではの地域を巻き込んだ独自のケア事業がメディアで紹介される他、2017年公開の映画『ケアニン〜あなたでよかった〜』のモデル事業所に。
■2019年2月には「アジア太平洋地域の高齢化に影響を与えている最も影響力のある指導者」に選ばれる。

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