「サッカー本大賞2015」受賞者、「東大に11年間もいた」経緯とは?

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

「西葛西出版」社長・中村慎太郎さん(東大大学院て?は大型アワヒ?の生態を研究)

2022年2月19日、Jリーグが開幕します。サポーターにとってはスタジアムでの観戦が待ち遠しいことでしょう。そんなサッカーファンの間で、話題になっている本があります。

『“サッカー旅”を食べ尽くせ! すたすたぐるぐる 埼玉編』。出版社は「株式会社西葛西出版」。社長は中村慎太郎さん・40歳です。江戸川区西葛西に生まれ育ったことから、この社名になりました。

中村さんは子どものころから本が大好きで、夢は小説家になること。コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』シリーズや、ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』などを読み、夢見る少年時代を過ごします。幼少期から優等生なのかと思えば、「落ちこぼれだった」と語る中村さん。

中学の定期試験では後ろから数えた方が早く、赤点ばかり。大学受験では一念発起して早稲田や慶応を受験しますが、不合格。2浪した末、死ぬ気で頑張った中村さんは、何と東大に合格します。

西葛西出版は中村社長(右)と田中副社長(営業部長=ヘ?ンネーム:大城あしか)の2人体制

大学では、宮沢賢治を研究。宮沢賢治の影響を受け、海の生き物に興味を持った中村さんは、大学院では「日本沿岸に生息する大型アワビの生態」を研究していました。

ところが東日本大震災により、実験していた水産研究所が被災。研究が全く進まず、暇を持て余し、大学に入ったころからやっていたサッカーチームで毎日3時間、汗を流す日々が続きます。

気がつけば30歳を過ぎて、東大に11年間もいたという中村さん。「これからどうしようか?」と考えます。学者の道は遠く、いまさら就職する気もない。いま最もやりたいことは……と自らに問いかけた結果、「書く仕事をしたい」と思ったそうです。

中村さんは夢だった「作家」になるため、書く仕事を見つけます。webライターとして記事を書きますが、原稿料がガッカリするほど安く、「だったら書きたいテーマを自分のブログに書く方がいい」と感じます。

そこで、サッカーに興味を持った中村さんでしたが、スタジアムで観戦したことはありませんでした。「Jリーグでも見に行ってみよう」と思い立ち、「Jリーグ初観戦」についてブログに載せると、意外なほど反響があったそうです。

それを1冊にまとめたのが、『サポーターをめぐる冒険 Jリーグを初観戦した結果、思わぬことになった』という本。それが「サッカー本大賞2015」を受賞します。

自身のテ?スクて?執筆する中村社長

その後、ブラジルW杯の旅行記を電子書籍から出し、「ニコ生公式」で日本代表戦の実況・解説をするようになります。さらに、旅とサッカーの魅力を発信するウェブマガジンを毎日更新。

しかし、生活が楽になったわけではありません。結婚して子どもが生まれ、家族を守るためにも安定した収入が必要です。そこで、もう1つの仕事として選んだのが、タクシードライバーでした。

2ヵ月の研修を受けて、2020年3月から路上へ。主に歌舞伎町辺りを「流し」ます。「ハンドルを握ったら、あとはいかにお客さんを見つけるか。タクシーの仕事はスポーツみたいですよ」と言う中村さん。

東大出身とあって、戦略的にお客さんがいそうな場所を探し、一晩で7万円を稼ぐ日もあるそうです。ところが、コロナ禍で客足がぱったりと途絶えてしまいました。

「ずっとタクシーを走らせながら、いろいろ考えましたね。好きなことをお金の心配もなく、やって行くことはできないものか……。こうなったら起業するしかない、会社を起こして出版社をつくろうと思ったのです」

「西葛西出版」入り口の看板

出版不況の時代ですが、周囲の応援もあり、2021年9月に「西葛西出版」を創業。その第1弾が『“サッカー旅”を食べ尽くせ! すたすたぐるぐる 埼玉編』でした。

中村さんはこの本のなかで、「サッカー旅」について以下のように書いています。

「サッカー旅とは餃子のようなもの。サポーターの楽しみすべてを包み込んで、おいしくパッケージしてくれます。サッカーの試合はメインディッシュですが、それがすべてではありません。サッカーには詳しくないけれど、スタジアムで過ごす時間は大好き。楽しみ方は人それぞれ。それでいいのです! この本は、サポーター文学であり、スポーツツーリズムの本であり、地域の食文化本です。珍書、奇書の類かも知れませんが、丁寧につくりました」

「西葛西出版」のトレート?マークはヘ?ンキ?ン

日本全国47都道府県にサッカーチームがあるので、シリーズ化して、47冊の本を目指すそうです。春には『信州編』を出版し、そのあとは島根、北海道、福岡、愛媛などを計画中だそうです。

最後に『埼玉編』から、中村さんのこんな文章をご紹介します。

「埼玉には海がないし、ディズニーランドも、旅客機が発着する空港もない。だけど、ここには人がいて、生活があって、街への愛がある。サッカーという競技は生活する街への愛情を栄養にして、少しずつ育って行くのだ」

『“サッカー旅”を食べ尽くせ! すたすたぐるぐる 埼玉編』(西葛西出版)/『サホ?ーターをめく?る冒険』(著:中村慎太郎)

■『“サッカー旅”を食べ尽くせ! すたすたぐるぐる 埼玉編』

著者:中村慎太郎
出版社:西葛西出版

■西葛西出版オンラインストア
https://nishikasaibooks.shop

■OWL magazine 旅とサッカーを紡ぐWeb雑誌
https://note.com/owlmagazine/m/m1570497e1bdd

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