「お寺ワーク」って何? コロナ禍の現代に感じる「お寺の可能性」

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

「お寺ワーク」の様子(株式会社シェアウィング提供)

佐藤真衣さん、42歳。育ち盛りの3人のお子さんの子育てをしながら、「お寺」を拠点にさまざまな事業を行う、「株式会社シェアウィング」という会社の社長を務めているお母さんです。

佐藤さんは埼玉・浦和の出身。高校時代から陸上競技に打ち込み、大学もスポーツ系の学部に進学しました。いまから20年ほど前、大学の授業の一環として、大手商社のドイツ支店でインターンシップを体験したことをきっかけに、人生の歯車が回り始めました。

「私、絶対に御社に就職して、ドイツへ戻って来ます!」

そう宣言しましたが、社員の方にはバツが悪そうに、「真衣さん、申し訳ない。この会社はまだ男社会なんだ。女性が海外勤務になった前例はないし、仮になっても入社から10年かかる。10年、待てるかい?」と言われたそうです。

いますぐにでもバリバリ仕事をしたかった佐藤さんは、ここで発想を転換。自分自身の手で会社を起こす決心をします。まずは投資会社に勤めてビジネスのイロハを学び、26歳で独立。岩盤浴やサウナ、ホットヨガなどの設備をつくる会社を立ち上げました。

立ち上げとほぼ同時に、空前の岩盤浴ブームが到来。繁華街のあちこちに岩盤浴専門店ができて、発注が相次ぎ、会社は軌道に乗りました。

佐藤真衣さん(株式会社シェアウィング提供)

しかし、数年で岩盤浴ブームは収束。100軒以上も施工した岩盤浴専門店は、1店残らず消えてしまいます。心にはむなしさだけが残りました。

「ブームを消費するだけの商売は、きっと本当の商売とは違う。50年〜100年続くことをやって、もっと世の中のためになりたい」

佐藤さんはいったん立ち止まって、違う道を考えることにしました。新たな仕事のキーワードとして魅力を感じたのは、ものごとを他の人と共有する「シェアリング」でした。

しかし、世の中にはカーシェアやシェアハウスなど、すでに馴染みのあるものがいっぱい。そんなとき、東京郊外にあるお寺の住職さんと出会い、ひらめきます。

「広いお寺をシェアしてみたらどうだろうか? あまり活用されていない宿坊を活かせば、『日本の文化を知りたい、体験したい』という人にも、きっと喜ばれるはず……」

高山善光寺(株式会社シェアウィング提供)

さっそく新たな会社「シェアウィング」を立ち上げ、出資先も見つかりましたが、肝心の「お寺」が決まりません。お寺は住職さんの家族や、檀家さんの力が強い世界。ビジネスへの抵抗感が強いお寺も多く、いろいろな住職さんに話を持ち掛けても、なかなか首を縦には振ってくれませんでした。

しかし、佐藤さんは飛騨・高山で、後継ぎのいない1軒のお寺にたどり着きます。お寺の名前は「高山善光寺」。信州・善光寺の別院が、高山にもあったのです。

「こんなに素晴らしいお寺をなくしてしまうなんて、もったいないです。私たちに手伝わせてもらえませんか?」

佐藤さんは高山善光寺の再生に取り組み、アメニティを兼ね備えた「お寺ステイ」ができる宿坊としてよみがえらせて行きました。折からのインバウンドブームも手伝って、海外からも多くの人が宿泊。この様子を見て、「シェアビジネス」に協力してもらえるお寺さんも増えて行きました。

「お寺ワーク」の様子(株式会社シェアウィング提供)

ところが、コロナ禍の波が襲います。およそ9割を占めていたインバウンドのお客さんはゼロになりました。でも、佐藤さんはめげません。

「コロナでテレワークが進んでも、職場のメンバーが集まる機会は必要……ならば、会社の狭い会議室に集まるよりも、広くて換気のいいお寺を活用できないだろうか? お寺で仕事、『お寺ワーク』をしてもらおう」

佐藤さんは、いまの街には「心をととのえる場所」が少ないと感じています。体を鍛えるフィットネスクラブはたくさんあっても、心のメンテナンスは置き去りのまま。たとえテレワークが辛くても、お寺で手を合わせれば、少しは心が安らぐかも知れない。その場所として、街のお寺に可能性を感じると言います。

かつて子どもたちは寺子屋で学び、境内は遊び場となっていました。先人たちの例のように、普段から人が集まるお寺にしたい。そのきっかけをつくるために、佐藤さんはきょうも全国のお寺を駆け巡ります。

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