「天空のソムリエ」の茶屋を引き継ぐのは、「トレラン」の魅力にハマるドライバー?

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

店主の川﨑さんとJOJOさん

10月中旬だったでしょうか。深夜、迎えにきたタクシーに上柳昌彦アナウンサーが乗り込むと、運転手さんから「上柳さんですよね? 私、ラジオネームのJOJOです」と言われたそうです。

「えっ! 番組(ニッポン放送『上柳昌彦 あさぼらけ』)によくメールをくださる、あのJOJOさん?」……横浜へお客さんを送った帰りに無線が入って、という偶然でした。

JOJOさんは山道を走る「トレイルランニング」が趣味で、「富士山頂往復マラニック」(通称ゼロ富士)や、「日本山岳耐久レース」(通称ハセツネ)などに挑戦する59歳のランナーです。

さらに驚いたのが、6年前に『あけの語りびと』で紹介した「天空のソムリエ」……青梅の御岳山にある「長尾茶屋」を、JOJOさんが継ぐことになったと聞いて二度ビックリ! なぜそうなったのか伺うと、こんな物語がありました。

古里駅から御岳山登山口へ

ラジオネーム・JOJOさんの本名は、柴田城太郎さん。来年(2023年)還暦を迎えますが、トレランで鍛えているので40代にしか見えません。

専門学校を卒業後、広告代理店で営業マンに。結婚し、3人のお子さんに恵まれますが、仕事が忙しく子どもと触れ合う時間がほとんどありませんでした。そこで、タクシードライバーに転職。夜8時~朝6時までハンドルを握ります。

息子さんが入っていた少年野球チームのコーチをしていたJOJOさん。そのコーチ仲間が東京マラソンに当選し、フルマラソンに初めて挑戦するというので応援がてら見に行くと、足の痛みに顔を歪め、ヨレヨレになってゴール。でもその顔は、嬉しそうに笑っていたそうです。

「金を払ってキツい思いをして、何が嬉しいんだ?」と聞くと、「地獄の向こうに何があるか、JOJOさんも走ったらわかりますよ」と言われます。

その言葉に触発され、翌年から東京マラソンに応募を始めて、3年目に当選。ところが、走り出すと足首に激痛が……何と痛風の発作で、途中リタイアとなりました。

長尾平にある長谷川恒男氏のモニュメントの前で

そのころのJOJOさんには、ちょっと事情がありまして、シングルファザーに。仕事を終えて帰宅してから、子どもたちの弁当をつくり、学校へ送り出します。掃除、洗濯を済ませて、やっと布団に潜り込むという毎日。お酒が大好きでタバコも吸う……全く体調管理ができていませんでした。

リベンジで臨んだ大阪マラソンですが、今度も痛風の発作に襲われます。最後は歩きながら、制限時間の7時間ギリギリでゴール! それでも完走できた嬉しさがこみ上げてきました。同時に、「健康な状態で思いきり走ってみたい」と考えます。

一念発起したJOJOさんは体質改善に取り組み、ジムに通って体を鍛え、家からタクシーの営業所までの片道5キロを、行きも帰りも走り続けました。そして挑んだ「富士山マラソン」は、4時間12分で完走!

次は4時間切りの「サブフォー」を目指そうと思っていた、ある日のこと。テレビ番組で「トレイルランニング」を知ります。

「山を走るの? こんなレースもあるんだ。面白そうだな」

好奇心旺盛なJOJOさんは、ぶっつけ本番でレースに出場。心臓が破裂するかと思うほどキツく、前日の雨で靴は泥だらけ。それでも子どものころに戻ったような新鮮な気持ちになって、「いままでにない世界だ!」と、次第にトレランの魅力にハマっていきました。

途中の大塚山まできつい登りが続く

2016年、「みたけ山トレイルラン15キロ」にエントリーしたJOJOさん。出場する前、事前にコースを走る「試走」をしていると、御嶽神社の近くにある「長尾平」という分岐点で、小さな茶屋を見つけます。

店を覗き込むと、「はい! 私がハセツネの第3関門の責任者です!」と笑顔で出て来たのが、「天空のソムリエ」こと川﨑直之さんでした。

当時のJOJOさんは「ハセツネ」も、その場所が第3関門であることも、まだ知りませんでした。川﨑さんから話を聞いて、「奥多摩の山道を24時間以内に71.5キロ走る、そんなレースがあるのか!」と、JOJOさんの冒険心が掻き立てられました。

さらに「天空のソムリエ? どこかで聞いたことがあるな……ああ、上ちゃんの番組で紹介していた、ワインが飲める茶屋ってここだったのか!」と気付きます。それからというもの、毎週のように「長尾茶屋」に通ううち、いつも笑顔で出迎えてくれる川﨑さんのファンになっていきました。

落ち葉のなかを走るJOJOさん

この偶然の出会いから6年。78歳になった川﨑さんですが、去年(2021年)あたりから体力的なことで「引退」を口にするようになりました。

継ぐ人がいなければ茶屋を閉めることに……。それを聞いたJOJOさんは、茶屋がなくなるのは寂しいと、「茶屋のファンのためにも自分が継ぎます」と宣言。

「しばらくは日曜日だけ茶屋を手伝いに通います。川﨑さんのファンが多いので、皆さんに僕の顔を覚えてもらえたら、と思っているんです」

これから御岳山は冬を迎えます。気温がぐんぐん下がってきますが、川﨑さんがつくる名物のホットワインと、気さくなJOJOさんが「長尾茶屋」で待っています。

長尾茶屋で休日をのんびり過ごすお客さん

■長尾茶屋

住所:東京都青梅市御岳山長尾平
電話:0428-74-9467
営業:午前11時~午後11時(土・日・祝のみ営業)

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?