「アポ電」強盗殺人事件は「縦割り体制」への挑戦か?

「報道部畑中デスクの独り言」(第119回)では、ニッポン放送報道部畑中デスクが、「アポ電」後に強盗殺人が起きた事件について解説する。

緊縛女性は窒息死の可能性  「アポ電」後に強盗事件が起きた現場=2019年3月1日 写真提供:共同通信社

東京都江東区で80歳の女性が殺害された強盗殺人事件は、様々な意味で大きな衝撃を与えました。特に資産状況を尋ねる「アポイントメント電話=アポ電」による怖さが改めてクローズアップされる形となりました。

今回の事件の1つの見方は、これまで「特殊詐欺」で行われていた手口が一段と凶悪化したというものです。アポ電そのものは特殊詐欺で常用される手口ですが、その“着地点”はATM(現金自動預払機)を経由したり、「受け子」と呼ばれる犯行グループに現金やキャッシュカードを直接渡してしまうというものでした。

改めて指摘しておきますが、捜査関係者のなかには特殊詐欺を「心のテロリスト」と言う人がいます。被害者は事件をきっかけに心を病み、自殺してしまう人もいると聞きます。身体を傷つけることはなくても、被害者の人格をも破壊しかねない暴力的な行為であり、断じて許すことはできません。

これに対し、今回の事件はそれらの手口を“応用”して、身体に危害を加える状況に発展したと言えます。まさに「体のテロリスト」です。こうしたアポ電への対応、犯罪を未然に防ぐためにどうすべきか…あらゆる方策を考えなくてはいけないのは言うまでもないことです。

同時に今回の犯罪は、警察組織の「縦割り体制」への挑戦という側面もあるのではないかと感じます。ご存知の人もいらっしゃるかもしれません。警察組織というものは表向き「一枚岩」とされていますが、犯罪によって担当の部署が違って来ます。例えば警視庁の場合、特殊詐欺そのものは知能犯を扱う捜査二課(刑事部)が担当します。一方、強盗・殺人などの凶悪犯に関しては捜査一課(刑事部)の管轄。

さらに犯行が外国人や暴力団をはじめとする、組織的な広がりを見せている場合は組織犯罪対策部、少年犯罪が関わると生活安全部も加わって来ます。もちろん所轄の各警察署も関わります。今回の事件が特殊詐欺の延長線上にあるものか、あるいは新たな手口とみるべきか、そしてどこまでの広がりを見せるかは今後の捜査を待つことになりますが、犯行グループの意図の有無にかかわらず、これらの部署を横断した犯罪であることは疑いのないところかと思います。

東京・桜田門の警視庁

私が警視庁担当だった1年前、警視庁は「特殊詐欺対策プロジェクト」のチームを発足させました。2017年、東京都内で発生した特殊詐欺の認知件数は3,510件に達しました。2006年に統計を開始してから2番目に多い数字です。「オレオレ詐欺」と言われたころから抑止に向けた取り組みが功を奏し、減少していましたが、ここへ来て再び増加に転じました。

警視庁では刑事部、生活安全部、組織犯罪対策部、犯罪抑止対策本部の各部署を横断した約290人体制による専従チームを編成したわけです。島根悟副総監(当時)が発足式で、「豊富な経験と専門的な知見に基づく冷静な判断と情熱をもって本プロジェクトに取り組み、警視庁の強みである組織の総合力を発揮してほしい」と訓示したことを思い出します。

その成果に終わりはありませんが、特殊詐欺の手口を応用した凶悪犯罪が相次ぐ状況で、各部署を超えた態勢をより強化する必要がある…当の警察当局が最も感じているところだと思います。

さらに、今回の事件では逮捕された3人のうちの2人が、関西を拠点とする特殊詐欺グループで活動していた可能性が浮上しています。だとすれば、もはや警察内部の組織だけでなく、各都道府県警察のより密な連携も求められます。

「アポ電強盗殺人事件」は、かなりのスケールを持つ事件と考えられ、捜査のあり方を変えるきっかけになる可能性もあります。やり方によっては警察流「働き方改革」につながるのかもしれません。捜査関係者の一層の叡智の結集が望まれるところです。(了)

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