新津駅「塩〆鯖と鮭の焼漬押し競寿司」(1100円)〜駅弁屋さんの厨房ですよ!(vol.21「三新軒」編(5))

【ライター望月の駅弁膝栗毛】

キハ110系気動車・快速「あがの」、磐越西線・北五泉〜新関間

磐越西線を駆け抜ける快速「あがの」号。
「あがの」は、昭和30年代から、新潟〜仙台間を結んできた歴史ある列車です。
新潟〜会津若松間の快速列車になって久しくなりますが、いまは1日1往復の運行。
新潟8:25発の会津若松行は、新潟を出ると新津、五泉、馬下、咲花、三川、津川、鹿瀬、野沢、荻野、山都、喜多方、塩川の順に停車し、終点・会津若松には10:46の到着です。

三新軒・遠藤龍司社長

信越本線、磐越西線、羽越本線が接続する交通の要衝として、最盛期には、住民のおよそ4人に1人が鉄道関係者だったという歴史を持つ新潟・新津。
その玄関口・新津駅で昭和3(1928)年から駅弁を販売している「株式会社三新軒」をご紹介してきた「駅弁屋さんの厨房ですよ!」の第21弾も、いよいよラストです。
今回は、3代目・遠藤龍司(えんどう・りゅうじ)社長の駅弁への思いを伺いました。

 

●たぬきのキャラクターが導く「鉄道のまち・新津」

―遠藤社長がお持ちの「三新軒」の看板には、たぬきが描かれていますよね?

鉄道のまち・新津のイメージキャラクター「きてきち」ですね。
新津から出ている磐越西線に津川という駅がありますが、ここは狐の嫁入りが有名です。
これに触発されまして当時の新津市長さんと話し合う機会があり、(イメージキャラクターを)何か考えてくれないかと相談を受けました。
そこで「たぬきの婿取り」という昔ばなしを創作して、たぬきのキャラクターが生まれました。

にいつ鉄道商店街

―いまでは、すっかり新津は「鉄道のまち」という印象ですが…。

当時の新津は、団体や地域ごとにバラバラの状態でしたので、まずは、このキャラクターを旗印に1つにまとまることにしました。
ここから始まって、現在の「鉄道」をキーワードにした、新津のまちづくりがあります。
いまや、小学生が「新津と言えば?」と訊かれると「鉄道のまち!」と即答できるまでになりました。
まちづくりは、(将来を担う)子供を巻き込めるかがカギですからね。

 

●お客様ひとりひとりの顔を見て、駅弁を売ることに意義がある!

―そんな「鉄道のまち・新津」の一角を担う駅弁屋さんとして、「三新軒」が駅弁作りで大切にされていることは何ですか?

常に社員にお願いしているのは、「私たちは、たくさんの弁当を作っているかもしれないが、お客様にとっては“ただ1つの弁当”だ」ということです。
「お客様を楽しませるんだ」という言葉があってから、お客様を大事にするようではダメです。
頭ではなく、心から(お客様に)「いいな」「楽しいな」と思うことを積み重ねていくこと。
70年近く生きてきますと、その“小さな善意”の積み重ねがいちばん大事だと、改めて感じます。

三新軒・新津駅での立ち売り風景

―その意味では、春から秋にかけて「SLばんえつ物語」号が発車するときの立ち売りは、お客様と触れ合う貴重な機会ですね?

新津では、「SLばんえつ物語」号が運行されるときに、駅弁の立ち売りを行っています。
発車するときには、お客様のお見送りをしていますが、必ずお1人お1人の顔を見ています。
特にSLは(客車をけん引する)力が弱いので、列車の動きがとてもゆっくりなんです。
1人1人のお顔を見ていると、手を振っているお客様もちゃんと気づいて下さいます。
ほんの1秒ほどですが、不思議なくらいに心が通じるんですよね。

三新軒・新津駅での立ち売り風景

―立ち売りだから得られるもの、ありますか?

お客様のお顔を拝見すれば、ほぼ3つのタイプのお客様がいるのがわかります。
興味がない方、どうしようか迷っている方、そして「駅弁を買いたい!」と思っている方です。
ですので、お客様の顔をよく見て、声の掛け方を変えています。
心からお客様のことを思えば、別に難しいことではありませんよね。
駅弁販売は「人間観察」ですから、立ち売りは本当に楽しいです!

 

●磐越西線の車窓を眺めながら、「三新軒」の駅弁を!

―遠藤社長お薦め、三新軒の“駅弁を美味しくいただくことができる”車窓は?

やっぱり「磐越西線」でしょう。
山あり、川ありですからね。
特に夏場は、手が届きそうなところまで茂った木々が迫ってきます。
津川の辺りでは、風のない日に、阿賀野川が水鏡になった日は最高です。
「SLばんえつ物語」は、4月の終わり・大型連休のころから今季の運転が始まる予定です。

キハ110系気動車・普通列車、磐越西線・三川〜津川間

―新作駅弁もコンスタントに出されていますね?

例年、秋に行われている「駅弁味の陣」をはじめとしたコンクールがありますから。
自然と「新しいものを作って出そう!」とモチベーションが上がりますよね。
最新の「塩〆鯖と鮭の焼漬押し競(くら)寿司」(1100円)は、「新発田三新軒」の伊田社長と一緒に考案した駅弁です。
1人でやると発想が偏りますので、いいアイディアは出し合って、駅弁を開発しています。

(インタビュー、後半へつづく)

塩〆鯖と鮭の焼漬押し競寿司

三新軒自慢の「鮭の焼漬」と、炙り〆鯖を組み合わせた「塩〆鯖と鮭の焼漬押し競寿司」。
普通の駅弁なら、“鯖と鮭の押し寿司”といった名前となりそうなところを「押し競(くら)寿司」と一捻りしてきたのは、共同考案した新発田三新軒・伊田社長のアイディアだそう。
確かに「押し寿司」では数多くある駅弁に埋もれてしまいそうですが、“おしくらまんじゅう”とかけたネーミングにすることで、寿司ネタのボリューム感までアップした印象を受けますね。

塩〆鯖と鮭の焼漬押し競寿司

【おしながき】
・酢飯(新潟県産米) かんぴょう
・鮭の焼漬
・炙り塩〆鯖
・玉子焼き
・赤かぶ酢漬け
・ガリ

塩〆鯖と鮭の焼漬押し競寿司

紙箱を開けて手に取ると、それはもうズッシリ!
「押し競(くら)寿司」の名にふさわしく、「三新軒」自慢の鮭の焼漬と、サッパリ酢で〆られた炙り〆鯖が、酢飯の上にたっぷり載っています。
これに1つ1つ包丁による手作業で、ひと口サイズにカットされた玉子焼きが、いいアクセントとなって箸が進んでいきます。

 

●販売環境の変化に柔軟に対応して、「小さい駅弁屋」でも生き残っていく!

―創業90年あまりの「三新軒」、今後、ニッポンの駅弁をどう盛り上げていきたいですか?

「駅弁なんていらないよ!」と云われないようにしたいです。
そのためには、弊社のような「小さな駅弁屋」がしっかり生き残っていかなくてはいけません。
日本に「大きな駅弁屋」が3つしかなかったら、仮にその1つが倒れたとき、替えが効きません。
大きな駅弁屋と小さな駅弁屋が、互いに利用しながら、程よく共存していくこと。
それが「駅弁」の魅力を高め、今後も続いていくことになるはずです。

―「三新軒」としての展望は?

「駅弁屋」は、基本的に国鉄、いまのJRの大きな方針に従って営業する業態です。
JRさんの方針が変わったら、それに合わせて、営業を行っていかなくてはなりません。
どんな変更があっても柔軟に対応し生き延びていく、そのための創意工夫は欠かせません。
(主な売場である)新潟駅も改良工事が進んでいますので、今後は販売の形が変わっていくことが予想されますが、そこはプラス思考で取り組んでいきたいと考えています。

(株式会社三新軒・遠藤龍司社長インタビュー、おわり)

GV-E400系気動車・普通列車、磐越西線・猿和田〜五泉間

磐越西線を走るディーゼルカーも、国鉄形からの世代交代が進む令和2(2020)年。
新潟の鉄道を取り巻く環境が変化していくなか、駅弁もまた変化の時期なのかもしれません。
そのなかで「鮭の焼漬」という絶対的なブランドを持つ「三新軒」は、時代の変化にどう対応し、駅弁を通して、私たちをどんな形で楽しませてくれるのか?
「鉄道のまち・新津」の取り組みと共に、新津の駅弁にもまだまだ要注目です!

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