元飼い主に見放されたテリアを迎えて気づいた、ドッグトレーナーとしての生ぬるさ

【ペットと一緒に vol.201】by 臼井京音

ニッポン放送「ペットと一緒に」

犬のしつけインストラクターとして活躍している小川亜紀子さんが、現在一緒に暮らすジャック・ラッセル・テリアのゼンくん。なかなか一筋縄では行かないゼンくんのおかげで、たくさんの新たな気づきがあり、飼い主さんの悩みや苦しみも心から理解できるようになったそうです。

今回は、最初の飼い主さんが育犬ノイローゼになり手放したという元保護犬ゼンくんと、亜紀子さんのストーリーを紹介します。

 

母は犬嫌いだけど、犬を飼う!

家庭犬のトレーニングインストラクターとして活躍する、小川亜紀子さんは、幼いころから大の犬好き。小学4年生のころ、犬があまり好きではない母親への説得がついに結実し、念願の犬を飼い始めることができました。

「ムクは雑種で、笑顔のかわいいコでしたね。朝晩の散歩は、小学生時代から私がほとんど欠かさず行きました。両親に『結局、子供にせがまれて飼っても世話をするのは親なんだよね』と言われたくないと、意地になっていた部分もあります(笑)」とのこと。

毎日の愛犬の散歩をとおして、犬の扱いに自信がついたという亜紀子さんは、大学卒業後、犬の訓練所に就職しました。それがきっかけで、小川家でムクくんの晩年、訓練所の廃業で行き場を失ったラブラドール・レトリーバー2頭を家族に迎えました。

近年は3頭という多頭飼育でした

「犬が苦手って言ってたのに、大型犬まで飼うとは想像もしなかったわ。気付いたら、犬って意外とかわいいな、と思ってましたけど」と、亜紀子さんの母親は笑います。

ムクくんが17歳で天寿をまっとうし、黒ラブのダイナくんが9歳、チョコラブのガイくんが7歳のころ、新入りのジャック・ラッセル・テリアのゼンくんが小川家に仲間入りしました。

スムースコートのジャック・ラッセル・テリアのゼンくん

パワフルすぎる小悪魔の登場で……

ゼンくんは、亜紀子さんがよく知る獣医師からの紹介で迎えたそうです。ジャック・ラッセル・テリアは小型ですが、テリアのなかでもかなりパワフルなことで知られています。

「ゼンは、シー・ズー犬を亡くした初老の夫婦が、ペットロスを癒すために迎えた犬だったそうです。ところが、シー・ズーとはまったく比べ物にならないほどのやんちゃぶりと、いわゆる問題行動に手を焼き、奥様は育犬ノイローゼのような状態になり体調を崩してしまったとか」

おとなしそうに見えますが、中身は小悪魔!?

オーストラリアで家庭犬の行動カウンセリングも学んだ亜紀子さんでしたが、生後7ヵ月で家族の一員となったゼンくんの激しさには驚かされたと言います。

「ダイナは、ゼンにほとんど興味を示しませんでした。ガイは、いいお兄ちゃん分で、よくゼンの相手をしてあげていましたね。ゼンとガイが取っ組み合って遊んでいると、だんだんとゼンの狩猟犬としての本能が目覚めて来るのか、途中から唸り声をあげて興奮度も増し……。『キャキャーンッ』と悲鳴をあげて逃げ出すガイの様子を見に行ったら、耳から流血していることもありました」

亜紀子さんは、犬種ごとのそもそもの使役用途が違うと、性格などにこれほどの差が生じることに身をもって気づかされたと語ります。

ゼンくんとガイくんは仲良し

テリア気質、おそるべし

亜紀子さんはゼンくんと散歩をしていると、ラブラドールの2頭とは違う反応を見てテリア気質を実感するとも言います。

「穏やかな雰囲気のワンちゃんには、尻尾をフリフリしながら低姿勢で近づくのですが、少し勝気そうなワンちゃんが来ると、負けるものかとばかりに背中の毛を立てながらガルガルと声を出すんです。やっぱりテリアはワイルドなところもあって、気が強いんだなぁと思いますね。レトリーバーとの暮らしは、生ぬるかったと感じます(笑)」

「ボールは破壊するためにあるんだよね!?」byゼンくん

ゼンくんは愛護団体に引き取られる前、最初の飼い主のもとで屋根付きのサークルに入れられっぱなしだったそうです。

「そのせいか、ジャンプが得意なジャックにしては、ゼンはほとんど垂直ジャンプをしません。ところが、ある日、テーブルの上に置いてあった焼き鳥を盗み食いしてしまったんです。追いかけて奪おうとしても逆効果だとわかっていたので、焼き鳥を咥えているゼンに落ち着いた態度で接しながら最善の策を取ろうと思っていたところ、ゴクンと串ごと飲み込みました」

さすがにその瞬間は、絶叫したという亜紀子さん。急いで動物病院まで車を走らせると、緊急で手術をすることに。

「ところが、ゼンの喉に串と焼き鳥が詰まっていたらしく、そのまま開腹せず内視鏡で引っ張り出せたとの連絡が入りました。命を落とす可能性もあると覚悟をしていたので、本当にほっとしました」

よく訪れる房総半島で、焼き鳥の串をゴクリ

やんちゃな愛犬に教えてもらったこと

数々の武勇伝を生み出したゼンくんも、もう13歳。亜紀子さんが初めて犬を飼い始めたのと同じくらいの歳の娘さんに、最近は「大好き〜!」と抱きしめられる日々だとか。

「ゼンはそんなときもやはりテリア気質を発揮して、『力強すぎでしょ、やめてくれ』と言っているかのようにガウッと娘を威嚇。でも、ちゃんと家族を傷つけないようにわきまえていて、娘の髪の毛を狙って咬みついています(笑)。それでも、娘は全然めげていません。私としては、老犬なのに娘にそっとしておいてもらえず構われすぎるゼンが不憫ですね。だけど、何だか13歳の息子と10歳の娘はいいコンビです」

シニアドッグの貫禄と威厳も漂わせて

亜紀子さんは、従順なラブラドールとの暮らしだけでは、ドッグトレーナーとしての自身の成長にはつながらなかったと思っているそうです。

「ゼンのおかげで、パワフルすぎたり、気が強かったり、誤飲したりする愛犬と暮らす飼い主さんの気持ちが心からわかるようになりました。ゼンは、私にたくさんのことを教えてくれました」

そう、しみじみと語る亜紀子さんは、テリア犬種ならではのキャラクターとおもしろさの虜になってしまい、次に新しい家族を迎えるとしてもテリアになる可能性が高いとも微笑んでいました。

連載情報

ペットと一緒に

ペットにまつわる様々な雑学やエピソードを紹介していきます!

著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007〜2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。

関連記事(外部サイト)