『麻雀放浪記2020』白石和彌監督インタビュー「日本の”平和ボケ”を風刺するコメディ」

青春小説の大傑作である阿佐田哲也「麻雀放浪記」を原案に、主人公・坊や哲か1945 年の【戦後】から、新たな戦争が起こった後の 2020 年の【戦後】にタイムスリップするという斬新すぎる設定を映画化した『麻雀放浪記2020』。現代大ヒット上映中です。

斎藤工さんが主演を務め、ももさん(チャラン・ポ・ランタン)、ベッキーさんなど異色のキャスティングによって生み出された本作は、平成最後の最も危険なセンセーショナル・コメディとして、様々な話題を振りまいています。

メガホンをとったのは、『凶悪』(2013)、『日本で一番悪い奴ら』(2016)、『孤狼の血』(2018)などで、日本映画界の歴史を変えてきた白石和彌監督。今回は監督に映画の注目ポイントから、日本の映画作りに思うこと、など色々とお話を伺いました。

※インタビュー本文にはネタバレが含まれます。

――本作は映画公開前から色々と話題になっていましたが、これから映画を観る方に一言で「こういう映画だよ」と伝えるなら、どうまとめますか?

白石:映画の中の見どころがいっぱいありすぎて、キテレツなことが起こりすぎているので迷いますね。

昔は麻雀が当たり前の様にギャンブルのツールであったけれど、今は「Mリーグ」など、麻雀からダークなイメージを払拭しようという、健全にしようという不健全な流れがあって(笑)。そんな中、哲は「金をかけない麻雀なんてどこにあるんだ」って感じで2020年にタイムスリップしてくるので、逮捕されちゃったりして、でもどうしても哲を「麻雀オリンピック」に出したいので謝罪会見をします。そういう映画です!!

――謝罪会見をする映画ですね(笑)!

白石:そうそう。それで哲は「なんで俺が、誰に謝らなきゃいけないんだ!」って怒るんですけど、そりゃそうですよね。他人に迷惑かけていないんですから。なので、この映画はコメディであって現代社会の風刺でもあるという。

――なるほど。確かに何か失敗をしたりトラブルを起こすと、関係の無い人までが叩き始める。そんな状況が最近の日本では続いていますものね。

白石:そうなんですよね。この映画を作りはじめた頃に、トランプ大統領が金正恩を「ロケットマン」と呼んで、金正恩が「よし、本当にミサイル打つぞ」みたいなことを言い出して、世界がとんでもない事になりかけていたんですよね。でも日本は平和ボケで、そんなことよりも芸能界のスキャンダルとかどうでもいい事で大騒ぎしていた。「Jアラート」が鳴る様な危機的状況になるかもしれなかったのに。あ、そういう意味でも見どころの一つはJアラートが映画に出てくるところですかね。こういう、Jアラートネタをやりたいとか僕が言うと他の映画会社の人は、「すみません、他の映画会社でお願いします」とかいってくるんだけど、この(『麻雀放浪記2020』の)プロジェクトに関わった人全員、特にプロデューサーは頭がおかしくて「全部入れてください!」って。「まだゆるくない?」くらいのテンションだったんですよ

――すごいですね、もっとやっちゃえ的な。プロデューサーの皆さんは監督とお付き合いが長いのですか?

白石:アスミック・エースの谷島プロデューサーは一緒に何本かやっていて、もう一人の甘木プロデューサーは僕の『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(2009)に金を出してくれてた人です。全部がダメとは言わないですが、ここ数年の日本映画の「面白くなくてもヒットする感」は本当におかしかったので、今の日本映画の作り方に危機感と閉鎖感を感じている人は僕だけじゃなくて、たくさんいるのだなあとプロデューサー陣の協力体制を見ていて思いました。

――目指す所が一緒だからこそ、思い切った映画が作れたのかもしれませんね。斎藤工さんの主演起用は最初から決まっていたのですか?

白石:映画の話をいただいた段階で斎藤工さんの名前は出ていました。工君の生涯ベスト映画が和田誠監督の『麻雀放浪記』(1984)ということも知っていて。そもそも『麻雀放浪記』(1984)が傑作すぎて、新しい「麻雀放浪記」を監督するなんて嫌だなと思っていたんです。でも、「麻雀放浪記」を愛する工君が哲をやってくれて、共犯者になってくれるのならやろうと。その頃工君は「日本一セクシーな男」みたいな感じで騒がれていたけど、実際に会ってみるとセクシーさを感じるというよりは、すごく昭和男児だなと思ったんです。すごく地に足がついていて、重心が低い方なので哲にぴったりで。工君ってもはや作品単位ではなくて、映画全体を盛り上げている存在というかオピニオンになっていて、一緒に映画を作れてすごく頼もしかったです。

――ヒロインであるドテ子役にアーティスト「チャラン・ポ・ランタン」のももさんを起用したことも驚きました!

白石:ドテ子の役ね、すごいですよね。とある理由で人間とセックスすることが出来なくて、でもシマウマとだったら出来るんですよ。だから可哀想な恋愛ですよね。好きだけど相手と一つになれない。
プロデューサーから勧められてチャラン・ポ・ランタンのライブを観に行ったら、すごいパワーを持っている事に驚いて。まず脚本を読ませたら「私は、いま音楽をやっているので職業がミュージシャンとなっていますけど、本当はドテ子(劇中での役柄)なんだと思います。私はドテ子です。何でもやらせてください」って言ってくれて。困っている人が可哀想で誰でも拾ってきちゃう、シマウマとしかセックス出来ないはずなのに誰にでもやらせちゃう、そんなドテ子を「これは私のためにある脚本ですね」って言うなんて、壊れてますよね(笑)。そこまで壊れている人を使わないテは無いでしょう。

――もともと女優さんでは無かったのに、個性的な俳優陣の中でも異彩を放っていますよね。ベッキーさんのアンドロイド役というのも面白かったです。

白石:あれだけの才能がありながら不本意なバズり方をしてしまって、テレビに出れなくなってしまったり、ネットで悪口書かれたりして、何なんだろうなって思っていたんです。それこそ最初に話した様な国家的危機よりも人の恋愛スキャンダルで騒ぐ人がなんと多いのだろうと。それで、少しでも応援したいなと思ってご相談しました。

やっぱりすごく努力家なので、麻雀を全く知らなかったのにプロの先生にしっかりついて教わって勉強して。そうすると僕らみたいに適当に麻雀を覚えた人間と全然違うんです。強いんです、いきなり。空いている時間に麻雀やっても「プロ棋士目指したら?」ってくらい強くて、先生にも「筋が良い」と褒められていましたね。

――すごい、かっこいいですねベッキーさん。麻雀が強い女性憧れます。それにしても、シマウマとしかセックスが出来ないとか、麻雀をさすアンドロイドとか、この奇想天外な発想達はどんな所から生まれたのですか?

白石:やりたいことをまとめていってはキリがなくて時間が足りないと思ったので、どんどん作りながら進めていった感じですね。麻雀マンガを多数書かれている片山まさゆき先生に企画を話して、プロットとなるコミックを描いてもらったり。そのマンガもすごく面白かったですよ。脚本の佐藤佐吉さんにまかせっぱなしだと、どんどんヤバイ話になるからある程度僕がブレーキかけたり(笑)。色々な人のアイデアを踏まえながら、一つの映画にしていった感じです。

――白石監督はこれまで色々な作品を作られていますが、常に新しいことに挑んでいらっしゃるというか、冒険家な方だなあとカッコよく思っております

白石:ブルーリボン賞と日本アカデミー賞を2年連続受賞してからのこれ(『麻雀放浪記2020』)かよ!っていうのが、ざまあみろ感があって我ながら好きです(笑)。今年はもう賞レースにからむこともないと思うんですけど、あっ、『映画芸術』のワースト1は今年もお待ちしてます!

――あはは、逆にとったるぞ!という勢いで。監督は先ほどおっしゃった様に、自分の作りたいものを応援してくれるプロデューサーさんと出会えたわけですが、監督が応援していきたい若い監督やクリエイターさんはいらっしゃいますか?

白石:『岬の兄弟』は良かったですね。監督の片山慎三さんは助監督が長いんですね。映像塾の僕の後輩なんだけど、助監督長いと腰の据わった映像撮れるんだなあと感心させられました。女優の和田光沙さんの気合いもすごい。日本の可愛い女優さん達とか、スポーツ紙に「髪を20cm切る気合い!」とかよく書かれてますけど、「へ〜、お前の役作りって髪切ることなんだ」って思うんですよね。思いません?(笑) そういう女優に和田光沙の演技見て欲しいですよね、これが気合いだぞって。日本でも、こういう魂のこもった映画をまだ作ることは出来るし、残念ながら現状ではインディーズの世界が多いのだけど、そういう作品を作っていれば、一緒にやりたいと思ってくれるプロデューサーは絶対現れると思うので。応援したいですね。

――素晴らしいお話ありがとうございます。『麻雀放浪記2020』でも、たくさんの人たちの気合をスクリーンで感じて欲しいと覆います。今日はありがとうございました。

撮影:オサダコウジ

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(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

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