【今日の一冊】「民族」で読み解く世界史

レビュー

ある「民族」が歴史の中でつくりあげた社会や環境、文化、伝統は、その後を生きる「民族」の“遺伝子”にかならず組みこまれている――そう著者は語る。脈々と受け継がれた民族の「血の記憶」に抗うことは、非常に難しいからだ。
たとえば私たちは街を歩いていて外国人とすれ違ったとき、日本人かどうかを瞬時に判断できる。容貌が似ている中国人や韓国人を見ても、「日本人ではない」と判別できることが多いだろう。著者によると、多くの人がそうした「雰囲気の差」を見分けられるのは、それぞれのもっている「血の記憶」が民族特有の雰囲気を醸し出すからにほかならない。
本書の目的は、各民族の特徴を歴史的事実から解説し、それぞれがもつ「雰囲気」の源をつきとめ、その本当の姿を暴き出すことだ。そこには容易には触れがたい「歴史の闇」も含まれている。しかしその闇が深ければ深いほど、「血の記憶」も大きく左右される。だからこそ著者は「歴史の闇」を避けず、正面から切りこむ。
いま世界の課題となっている移民・難民問題、民族対立、民族紛争、人種差別、ナショナリズム――これらはすべて民族という「見えざる壁」が招いた問題ということが、本書を読めば理解されるだろう。現代を生きる私たちにとって、はたして民族とは何なのか。世界を理解するうえで、新しいフレームワークをもたらしてくれる一冊だ。

本書の要点

・遺伝学では、人種は現在4種類に分類されている。しかし4種類のDNA染色体が物理的に区別できるわけではない。遺伝的特性は混在しており、ある人種を決定づける特定のDNAの型はない。
・「○○人」という言葉を使うとき、生物学的なカテゴリーである「人種」の他に、言語・文化・慣習などの社会的なカテゴリーである「民族」が重要になっている。
・「民族」を語るうえで血統・血脈は切り離せない要素だ。民族の辿ってきた歴史が、現代の人種差別、移民・難民問題まで繋がっている。



「民族」で読み解く世界史
宇山卓栄 (日本実業出版社)

flier(フライヤー)で続きを読む<AD>