【今日の一冊】知ってるつもり

レビュー

本書の著者は、ともに認知科学の研究者である。1950年に誕生した認知科学は、工学、心理学、哲学などの学際的研究を通じて、人間の知性の働きを解明しようとしてきた。しかしそうした研究を通じて明らかになったのは、個々人の知性のすばらしさというより、むしろその限界であったと著者らは指摘する。
「人間の知性は天才的であると同時に哀れをもよおすほど粗末で、聡明であると同時に愚かである」。人間は火の使い方を覚え、民主政治を生み出し、原子核を発見し、月面に着陸した。その一方で、驚くほどの思いあがりや無謀さを晒すことも少なくない。
なぜ人間はほれぼれするような知性と、がっかりするような無知を併せ持っているのか。あるいはなぜ個人としては限られた理解しか持ちあわせていないのに、種としてこれほどの偉業を成し遂げてこられたのか。本書はこうした疑問に答えていく。
なかでも重要な問いは、知性はどこにあるのかというものであろう。私たちは「知性は個人の脳のなかにある」と考えがちだ。しかし本書の見解は別なところにある。知性は私たちの身体に、環境に、そしてコミュニティに属するというのだ。私たちは状況に応じてそれらを参照し、活用しているにすぎない。
本書を開けば「知性」のイメージが、ガラリと変わるだろう。

本書の要点

・「無知」は歓迎すべきものではないが、かならずしも悲嘆すべきものでもない。世界はあまりにも複雑で、その全体像は個人の理解を超える。無知は人間にとって自然な状態だ。
・それにもかかわらず私たちは、多くのことを知っている、理解しているという「知識の錯覚」に陥っている。
・知性は個人に属していると思われているが、じつのところ人は「知識のコミュニティ」のなかに生きている。知識のコミュニティとはなにか、そこで私たちはどのように振る舞うべきかが、本書では考察される。



知ってるつもり
スティーブン・スローマン,フィリップ・ファーンバック,土方奈美(訳) (早川書房)

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