【今日の一冊】物語を忘れた外国語

レビュー

外国語学習といえば、単語を暗記し、文法を習得して、検定試験で高いスコアを取ることがよしとされる風潮がある。自分の英語力を示すことを目的として、TOEICに向けて猛勉強するのはいいが、いったいそれは楽しいのだろうか。
本書の著者は、外国語の面白さをユーモアたっぷりに綴る著作の数々で知られる、黒田龍之助氏だ。彼は、「検定試験漬けで会話至上主義の空虚な外国語環境に潤いを与えてくれるのは、誰が何といおうと物語しかない」と主張する。物語といっても、原書だけではなく、日本文学の外国語訳でもよい。分からないままに読み進める長編小説でもよいし、映像が理解を助けてくれる映画でもよい。それも含めて、楽しい外国語学習なのである。
物語を通して、外国語学習者はさまざまな気づきを得ることができる。たとえば松本清張の『点と線』の英訳では、いかにも日本語的な表現が登場したり、登場人物がお茶漬けらしきものを食べる場面があったりするという。こうした地域の特性を見いだすことができるのも、物語ならではの面白みであろう。
本書は、外国語学習をとにかく楽しんできた著者による、外国語学習の新たな指南書だといえるだろう。「自発的に外国語学習に取り組むのであれば、何を読もうが、どう勉強しようが勝手」だと著者はいうが、きっとあなたも物語を楽しんでみたくなること請け合いだ。

本書の要点

・外国語で読書する場合、すべてを分かろうとしないことが重要だ。分からなくても、とりあえず先に進もう。
・ある言語で親しんだ作品を別の言語で読めば、外国語の運用能力が滑らかになるだけでなく、その作品を再び楽しむことができる。
・音を聞ける映画と、能動的に読める小説、どちらも外国語力を高めるために有効だが、両者の良いとこ取りなのが「戯曲」である。戯曲は演じられたものを耳で聞くだけでなく、本として読むこともできる。さらに、会話で使える表現を学べる点も魅力的だ。



物語を忘れた外国語
黒田龍之助 (新潮社)

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